僕は必死に頭を下げた‼︎
僕としおりちゃんはライブの為の衣装を菅原に渡す為、教室で待っていた。
「しかしよく一日で衣装直しが出来たね。さすがだよ、しおりちゃん」
「菅原さんが〈100%のパフォーマンスが出来る様に直して欲しい〉
と言われたから頑張りました、もっと褒めてくれると嬉しいな圭くん」
「よく頑張りました。さすがにございます、しおり様」
「エッヘン、何の、何の。フフフフ」
「ハハハハハ」
他愛のない会話で盛り上がる僕達。しかし教室にいるはずの菅原の姿が見あたらない
何処に行ったのだろう?と考えていたが、本番まではまだ二時間以上ある
そこまで慌てる必要は無いだろうとタカをくくっていた。
「そういえば美月はどうしたの、もう帰ったの?」
「うちのクラスのライブ見ていくって、さやかさんも一緒みたい。
ライブは午後からだから校内の喫茶店で時間潰しているらしいよ」
「うわ~【お台場坂49】のツートップに見られるのか⁉それはプレッシャーだな」
口ではそう言ったものの、それなりのモノに仕上がったという自負はあった
そんな時、ようやく菅原が教室に姿を現す。
「遅くなってごめんなさい、ちょっと野暮用が出来てしまって」
「ああ、別にかまわないよ。まだ時間はあるしね」
しおりちゃんが手直しした衣装を手渡すと、菅原は満足げにうなずいた。
「さすが注文通りね、凄いわね秋山さん。私も裁縫はそれなりにできるつもりだったけれど
これはレベルが違うわ、ありがとう」
「どういたしまして。委員長と総責任者のご期待にお応え出来て、誠に恐悦至極にございます」
少しおどけた口調で切り返すしおりちゃん。褒められたことが余程嬉しかったのだろう
珍しくはしゃいでいるようにも見えた。
しかしそんなほのぼのとした空気は突然終わりを告げる。
クラスメイトである女生徒の一人が息を切らせながら血相を変えて教室に入ってきたのである。
「ハアハアハア、やっぱりここに居た。緊急事態よ、菅原、田村、早く保健室に来て‼」
ただ事ではない雰囲気を察した僕たちは言われた通り急いで保健室へと向かった。
「間宮さんは折れてはいないだろうけど……多分捻挫ね。
横山さんはおそらく足の骨にひびが入っていると思うわ、至急病院に行きなさい」
保健室の先生が冷静に説明をしてくれた。だがあまりの事態に頭が付いて行かず状況を飲み込めない
だがわかっているのはこの本番直前でメンバー二人が出られないとなると
とてもじゃないがまともなライブパフォーマンスを披露する事は不可能だろう
そんな目の前の光景に愕然とする僕と菅原。
「何が……一体何があったのよ?」
絞り出す様な声で問いかける菅原にメンバーの一人である間宮が足を押さえながら答えた。
「私達、衣装と小道具のチェックをする為に舞台裏に行ってみたのよ
そうしたら私達の物を物色している不審人物がいたの、ウチの生徒みたいだったから注意したら
一目散に逃げだして……引き止めようとしたら、突き飛ばされて。その勢いで階段から落ちてしまって……」
「誰が、誰がそんな事を?」
するともう一人のメンバー、横山が口を開いた。
「私あの人知っている。確かサッカー部の島崎先輩だと思うよ」
その名前を聞いた瞬間、菅原は絶望的な表情を見せた。
「そんな、そんな事って……」
菅原は何か思い当たる節がある様だ。
「どういう事だ、何か知っているのか菅原?」
「実は……」
菅原はガックリとうなだれながら力なく事の経緯を説明し始めた。
「そうか……島崎先輩は菅原に振られた腹いせに」
その事情を知ったクラスの女生徒達は激怒し一斉に不満を口にした。
「最低じゃない。捕まえて停学なり、警察に突き出すなりしないと気が済まないわ‼」
「振られた腹いせに嫌がらせとか、キモ過ぎて絶対無理だわ」
「マジ死ねって、感じね」
皆口々に怒りを口にしているが、菅原にとっては島崎先輩の事など、どうでもいい事だろう
菅原はある事情があってこのライブに賭けていた。他のクラスの奴等とは思いが違うのだ
それがこんな予期せぬ形でダメになってしまいそうなのである。
クラスの皆が菅原を慰める様に次々と声を掛けるが、菅原の耳には入っていないのだろう
ガックリとうなだれたまま誰の言葉にも反応しなかった、僕はそんな菅原の姿にいたたまれない気持ちになる
そしておそらくは聞こえていないであろう菅原に語り掛けた。
「僕が総責任者として、何とかしてみる。最後まであきらめるな、菅原‼」
勿論菅原からの返事は返ってこなかった。だが時間がない僕は急いで保健室を後にした。
「それ本気で言っているの?」
僕は頭を深々と下げ平身低頭で頼み込んでいた。
僕の目の前には腕組みしながらもの凄い形相で見下ろしている美月の姿があった。
「本気も本気だ、無理を言っているのは百も承知だ、これ以上厚かましいお願いは無いと思っている
でも頼む、力を貸してくれ、お願いだ‼」
美月の横には呆れ顔のさやかちゃんもいる。そう、僕は予期せぬ怪我でライブに出られなくなったクラスメイトの代わりに
美月とさやかちゃんに代役を頼んだのである。
「自分が何を言っているのかわかっているわよね、圭一。私達【お台場坂49】は今や日本を代表する巨大コンテンツよ
そこにはもの凄い数の人達と莫大なお金が関わっているの、個人的にカラオケボックスで歌うのとは訳が違うのよ
オファーも受けていない、運営側も把握していないこんな学校の〈学園祭〉で私達プロが歌ったら
どんな権利の問題とかが発生するかわからないのよ。それがわからない程、馬鹿じゃないでしょ」
「わかっている、そんな事はわかっているよ。でも、無茶を承知で頼んでいる
僕にできる事なら何でもする、だから力を貸してはくれないだろうか」
〈お願いします〉の一辺倒に【こりゃダメだ】とばかりに大きなため息をつく美月、そして呆れながら質問してきた。
「何でそこまでするのよ?こう言っちゃあ何だけど、たかが〈学園祭〉じゃない
圭一がそこまで入れ込む理由を聞かせなさい」
僕は無言でコクリとうなずき説明を始めた。
「実は僕のクラスに菅原っていう女生徒がいてさ、そいつ普段はクソが付くぐらい真面目で
〈鋼の委員長〉何てあだ名がつくぐらいの優等生なのだけれど【お台場坂49】の大ファンで美月に憧れていてさ
自分も絶対【お台場坂49】に入りたいってダンスレッスンや歌の練習もしている
いつもは険しい顔ばかりでムスッとしている菅原が【お台場坂49】の話をするときだけは
目をキラキラ輝かせて嬉しそうに話すんだ。
でもアイツの両親は父親が都議会議員、母親が教育委員会の偉いさんというお堅い家庭みたいで
菅原が【お台場坂49】に入る事には大反対している。
だけどアイツは粘り強く両親を説得して〈この学園祭で自分のパフォーマンスを見てもらい
いいと思ったら一度だけ【お台場坂49】のオーディションを受けてもいい〉
という約束をようやく取り付けたのだよ、その矢先で……」
いぶかし気な表情を浮かべて僕の話をジッと聞いていた美月だったが、ここで一度口を挟んできた。
「でも、〈パフォーマンスを見ていいと思うか?〉なんて結局はその両親の匙加減じゃないの
あまりに娘がしつこく言うから見るだけ見て、最初からダメ出しするつもりかもしれないじゃない
元々アイドルになる事が反対ならアレコレ理由を付けてオーディションを受けさせないつもりなのじゃないの?」
美月の指摘は至極当然のものであった。
「ああ、僕もその可能性が高いと思う……でもさ、菅原は信じているのだよ……
【お台場坂49】のパフォーマンスを見てもらえればどれだけ素晴らしいか、必ずわかってくれるって。馬鹿みたいにさ……
世の中はそんなに甘くないし、もし両親に認めてもらえたとしても
合格率約0.1%という狭き門【お台場坂49】のオーディションに受かる事はかなり困難だろう
でもアイツは〈夢を諦めなければ必ずかなう〉、〈努力すればどんな事だって成し遂げられる〉
と本気で信じている……でもさ、そういうのってなんか嬉しいじゃないか
そこまで真っ直ぐ一途に【お台場坂49】の力を信じていて、だから一生懸命頑張っているって
なんか応援してやりたいと思うじゃないか。未だに【アイドルなんか低俗だ】とか思っている
頭の固い大人たちの脳みそに風穴空けてやりたいって思うじゃないか⁉
だからアイツは今回のライブに賭けていた。それがこんな……
こんな事で夢破れるって、諦めなければならないって、そんな事どうしても我慢できない、納得できない
俺もアイツも思いは同じ、【お台場坂49】の事をまだよく知らない人たちに
その凄さを見せつけてやりたいと思っているのだよ だから……」
それ以上は言葉にならなかった。熱い意思とは裏腹に上手く言葉が出てこない。
歯がゆさともどかしさで自分自身に苛立ちすら覚えてしまった。
そんな僕の言葉を聞いて目を閉じながらしばらく何かを考え込んでいた美月だったが
大きくため息をついて口を開いた。
「ハア……全く、しょうがないわね。今回だけ特別よ」
「本当か⁉ありがとう美月‼」
自分で頼んでおきながら恐らく無理だろうと思っていただけに
美月のこの返事には驚いたのと同時に感謝してもしきれない程嬉しかった。
「ちょ、ちょっと美月。本気なの?」
さやかちゃんが戸惑いながら思わず美月に問いかける。当然の反応だろう。
「まあ何とかなるでしょう。いざとなったらママが何とかしてくれるわ
そもそもこの手の話はさやかの方が好きじゃない」
「うっ、そりゃあ個人的には応援してあげたいとは思うけどさ……
でもウチの事務所は美月の所と違って弱小なのよ、そんな無茶な話なんて……
あ~もう、しょうがないわね。わかったわよ、ちょっとマネージャーに相談してみるわ」
さやかちゃんは渋々ながらスマホを取り出すとマネージャーに電話をし始めた。
そんなさやかちゃんの背中を見つめながら美月が僕に確認するように語り掛ける。
「いい圭一、さやかの事務所がダメといったダメだからね」
「わかっている。でも、ありがとう美月……」
「まだ出ると決まったわけじゃないし、もし出るとしても貸し一つだからね」
「ああ、わかっているよ。僕にできる事なら何でもするから」
「じゃあ〈しおりと別れて〉と言ったら別れるの?」
「うっ、それは……」
「冗談よ、そんな無茶は言わないわ」
そんな時、疲れたような表情を浮かべながらさやかちゃんが帰って来た。
「一応事務所からはOK出たわ。ただし条件として、その菅原という子の夢の為に
私達が〈学園祭〉にサプライズ出演するというエピソードをドキュメント風に番組にする方向で
テレビ局に話を持っていくらしいわ、その時は美月にも出てもらうわよ」
「さすがさやかの事務所ね、商魂たくましいというか……わかった
私からママに話しは通しておく。
こちらとしてもイメージ的にも悪くないし、多分大丈夫でしょう」
こうしてとんでもない企画が成立した、言い出していきながらワクワクが止まらない
なにせウチの学校の〈学園祭〉で【お台場坂49】のツートップ、月島美月と大橋さやかが出演するのである
【お台場坂49】一ファンとして心躍らずにはいられなかった。
「時間が無いのでしょう?さっさと行くわよ」
美月の一言で僕の無茶な計画は現実となって動き出したのである。
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