ようやく話ができた‼︎
さやかちゃん達の居たオフィスビルから出てから三十分程して僕は美月のマンションの前へとたどり着くと
そこにはしおりちゃんが待っていた。たった数日話していないだけでどれ程長く感じていたか
改めて彼女の存在の大きさを認識する事になった。
しおりちゃんも僕の姿に気が付いたようだ。だが学校で会った時と同じく
僕を見た途端顔を強張らせ怯えた様な表情を浮かべた。
ゴメンしおりちゃん、君にそんな顔をさせた僕が悪い、本当にゴメン、ついでにいえば美月はもっと悪い。
急いで駆け寄る僕の姿を見てしおりちゃんの表情は益々委縮しているようにも見えた
そして突然背中を見せて逃げ出そうとしたのである。
「待ってよ、しおりちゃん、頼むから僕の話を聞いてよ‼」
しかし僕の声はしおりちゃんの心には届かなかったのか、全力で逃げ去る彼女
くそっ、こうなったら何が何でも捕まえて僕の話を聞いてもらうぞ‼
全力で逃げる彼女を必死で追いかける僕、急に発生した鬼ごっこイベント
だがこの機会を逃したら本当にダメになってしまう、そう考えると僕は本当に鬼になっていた。
もうどのくらい走っただろう、小柄なしおりちゃんに中々追いつけない
それだけ彼女も全力で逃げているのだろう、息が苦しい、足がもつれる、もっと運動をしておけばよかった
だがそんな後悔はしおりちゃんを捕まえてからすればいい、ここで頑張らないでどこで頑張るのだ‼
そんな思いを抱えながらようやくしおりちゃんに追いついた。
「捕まえた……ハアハアハア、もう……逃がさない……ハアハアハア……」
息を荒げたまま、小柄な彼女を背中から力強く抱きしめ、囁く様に告げる僕
知らない人が見たら女性に襲い掛かる変質者に見えたかもしれない
捕まったしおりちゃんは抵抗することは無かったが僕の腕の中で小刻みに震えていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい……」
呪詛の様に謝罪の言葉を連呼するしおりちゃん。消え入るような小さな声で何度も何度も謝ってきた。
「何で……しおりちゃんが……謝るのさ、ハアハアハア、謝るのは……僕の方だよ」
とりあえず息を整え、しおりちゃんが落ち着くのを待って改めて話をする事にした。
「もう大丈夫?」
「うん……」
少しは落ち着いたようだが、ずっとうつむいたまま僕の方を見ようとはしないしおりちゃん、もうダメなのかな……
「ちゃんと確認しておきたい、僕はしおりちゃんが好きだ、これからもずっとずっと一緒に居たいと思っている
でもしおりちゃんが嫌だというのなら諦める、振られるのは辛いけど嫌われるのはもっと辛い、だから……」
するとしおりちゃんは涙を一杯浮かべながら抱き着いて来た。
「ごめんなさい、みんな私が悪いの、でも嫌いにならないで圭くん、お願い‼」
尋常じゃない彼女の様子にやや戸惑ってしまったが、ここはまず僕が落ち着かないと
また先日の様なすれ違いの喧嘩になってしまう、ここは僕が男としてしっかりしなくては。
「何を言っているのさ、僕がしおりちゃんを嫌いになる訳が無いじゃないか?
まずは落ち着いて、言いたいことがあるのなら聞くから、どんな話でもちゃんと聞くから」
すると彼女は声を震わせながら静かに語り始めた。
「この前、私が圭くんにデートをせがんだ事、本当にごめんなさい。
無理を言っている事も、ワガママな要求だったこともわかっていて言ったの……」
「少し驚いたけど、アレは僕も悪かったし、謝られる事じゃないよ、ビックリしたのは事実だけれどね、何かあったの?」
しおりちゃんは無言のままコクリと頷いた。
「その前に美月との疑似デートがあったでしょ?」
「ああ、確か美月がドラマの役を掴みたいからって、しおりちゃんに
〈僕を貸してくれ〉と頼んできた例のアレだよね?」
「うん、でも……アレは嘘だったの」
「嘘?どういう事、意味がわからないのだけれど……」
「美月がドラマの役を掴めずに悩んでいたことは事実なのだけれど、美月から頼んできたというのは嘘なの
実は私の方から〈圭くんを貸そうか?〉って提案したの」
「何でそんなことを?意味が分からないよ」
するとしおりちゃんは思いつめた表情で再び語り始めた。
「私と美月は小学校からの付き合いでね、ずっと一緒だった。
知っての通り美月は子供の頃からスターだったから凄く目立っていた
美人だし、スタイルも抜群で私なんかとは比べ物にならないくらい……」
「そんな事ないよ、しおりちゃんは可愛いよ‼スタイルだって全然悪くないよ‼」
「そんなに気を使ってくれなくていいよ、私と違って美月は背も高いし腕も足も長い、胸だって私より大きいし……」
「胸の大きさとか関係ないよ、しおりちゃんのおっぱいなら小さかろうが僕は全く……あっ、ゴメン」
「見た目だけじゃない、美月は運動神経も抜群だし凄く頭もいいのよ」
「確か、数学が得意って聞いたことはあるけど……」
「得意とかそういうレベルじゃないの、美月は子供の頃から数学で満点以外取ったことがない
中学の時には〈国際数学オリンピック〉のジュニア大会の選手に……という話もあったぐらいよ」
なんじゃそりゃあ〈国際数学オリンピック〉だと⁉それはちょっと頭がいいとかのレベルじゃないぞ
天才とか呼ばれる類の人間だろ、直情的で思い付きとその場の勢いだけで行動している
美月のイメージとは全く重ならないが……どれだけ基本スペックが高いのだ、アイツは⁉
まあ数々の長所をたった一つの欠点で全て台無しにしてしまうレベルだけどなあの残念お姫様は……
僕がそんな事を思っていると、しおりちゃんは再び話を続けた。
「私ね、子供の頃からずっと目立たない女の子だった、誰もが私という人間を認識していなかった
だから他の人にとって私はずっと〈秋山詩織〉じゃなくて、〈美月の友達〉
だったの
別にそれが嫌ではなかったし美月は目立つからね、仕方がないと思っていた、
つい最近までは……」
「最近までは?」
その意味深な言い回しがひっかかり、僕はふと気になって聞いてみた
するとしおりちゃんはこちらを見て嬉しそうに笑った。
「うん、圭くんに出会ったから……」
「僕?」
「うん、圭くんはこんな私の事を好きだって言ってくれた、美月の友達としてじゃなく
〈秋山詩織〉として見てくれた、嬉しかった……本当に嬉しかったの
だから美月からドラマの役で悩んでいるって聞いた時、つい〈圭くんを貸そうか?〉と言ってしまったのよ……」
「ゴメン、意味が分からない。どういう事?」
「私が女性として唯一美月に勝てるところ、それが圭くんよ。
美月はあんな性格だから男性とは付き合ったことが無いしそんな気もない
恋愛御法度のトップアイドルだしね
だから圭くんを見せたかった、見せつけたかった、自慢したかったのよ。
〈どう?美月、これが私の彼氏なのよ、素敵でしょ〉って……」
そういう事だったのか……でも、少し意外だ、しおりちゃんにもそういう気持ちがあったのか……
しおりちゃんは唇を噛みしめ、悔やんでいる様な表情を浮かべた。
「友達が悩んでいるのに私は自分の虚栄心を満たすために彼氏である圭くんを使ったの
嫌な女でしょ……最低だと思う、だから罰が当たった……」
「罰が当たったって……何が起きたの?」
その質問には少し答える事をためらっている様子だった。
だが僕はせかす事も無く、話題を逸らす事もせず、ただ静かに待った。
時間にして一、二分程度だと思うが僕には悠久の時に思えた。
しかししおりちゃんと離れていた時間を思えばこのぐらいなんでもない
自分自身にそう言い聞かせて、僕は無言でしおりちゃんの声を待つ事にしたのである。
「ゴメンね、まだ怖くて中々言い出せなかったの」
「いいよ、ずっと待つ、詩織ちゃんの話を聞くって決めたのだから」
「ありがとう圭くん……私ね、美月と圭くんは絶対に合わないと思っていた
美月の性格や考え方だと圭くんはあり得ないと思っていた
だから疑似デートも多分上手くいかないだろうな……と思っていたの」
「いや実際上手くいかなかったし、美月は僕に呆れたと思うよ、それぐらいダメダメなデートだったし」
正直に感じた事を口にしたのだが、しおりちゃんは僕の意見を真っ向否定した。
「そんな事ないよ、確かに美月は色々文句言っていた、でもハッキリ言ったのよ
〈役がつかめたと思う〉って、それは美月が圭くんの事を〈恋人として認識できた〉という事よ
美月自身無意識かもしれないけれど、美月が役を掴むってそういう事だから……」
「いやいやいや、無い、無い、美月が僕を?あり得ないよ、例え天地がひっくり返ってもそれだけは絶対に有り得ない
例え役の上だとしても僕の事を恋人とか……
いいかいしおりちゃん、美月は僕の事を虫けらだと思っているのだよ
しおりちゃんに近づく害虫だってさ、虫だよ虫。哺乳類ですらない、いくら何でも考えすぎだよ、ハハハ」
あまりに荒唐無稽な話だったので思わず笑ってしまった
しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に、しおりちゃんの態度が変わることは無かった。
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