推しメンが現れた‼︎
思い出したくもない嵐の様な昨晩の出来事を考えながら僕は翌日の朝を迎えた。
昨夜はよく眠れず完全な寝不足だがそんな事を気にしている余裕はない。
僕は学校でしおりちゃんに会って説得を試みることにした。
電話やラインでの会話ができない以上直接交渉しか手段がない
早めに登校し玄関ロッカーでしおりちゃんを待ち伏せる作戦だ
まるで浮気調査をする探偵のように息を殺し身を潜めてしばらく待っていると
しおりちゃんが登校してきた。うつむきながら浮かない様子で近づいてくる僕の彼女(暫定)
告白した時とは全く違う緊張感が僕の心にのしかかる。しかしここでしくじったら終わりかもしれない
嫌だ、こんなことで終わりなんて絶対に嫌だ、僕は決意を新たにしおりちゃんと対峙する覚悟を決める
何者にも負けない強い心を持て、勇気を奮い立たせろ、お前は男だろ圭一、戦う時は今なのだ‼︎
そんな僕の意思が通じたのか、しおりちゃんがこちらに気がついたようだ
動きが止まり一瞬で顔がこわばる僕の彼女。すると次の瞬間、僕の前を逃げるように走り抜けて行ったのである
この行為は少なからず僕の心に衝撃を与えた。強い心はポキリと折れ、勇気はどこかへと消し飛んだ
男どころか人格自体を否定されたような気がした、僕は戦う前に敗北してしまったのである。
この朝の出来事は僕の心から全ての勇気を奪い去った
もはや怖くて教室でも詩織ちゃんに話しかけることすらできない
何もできないまま時間は過ぎ、撤退を続ける田村圭一軍
そんな時、僕のスマホに一通のメールが届いた。
今時メール、なんだろう?そう思いそのメールの内容を見てみると
そこには昨日のファミレスでの騒動を撮った画像が貼り付けられていたのである。
「ゲゲっ、なんじゃこりゃあ⁉︎」
そしてそのメールにはこんな文章が添えられていた。
【この件についてお話したいことがあります、つきましてはこの場所に来ていただき
話し合いの場を持ちたいと思います。本日の午後四時、場所は文京区〇○△△
くれぐれもお一人でお越しいただけるよう、切に願います】
という内容であった……ヤバい、怪しさしか感じない文章だ
身の危険すら感じる、正直言って行きたくない……しかし行かないわけにはいかないだろう
このままこの画像をばら撒かれて憶測で記事にでもされたら大変なことになる
しおりちゃんとの問題も解決できていないのに次から次へと……
僕は再び勇気を奮い立たせて次の問題へと立ち向かう決意を固めた。
学校の授業が終わりメールで指定された場所へと向かう
電車の中で色々な想像をしながら不安と恐怖に押しつぶされそうになる。
一体差し出し人は誰だ……反社会的勢力?
いやいや今のご時世それは無いな、スクープを狙った芸能記者?
でも高校生相手にワザワザこんなメール使って呼び出したりするか?
美月の事務所か【お台場坂49】の運営側?
その可能性も無くは無いが怪しいメールを使ってこんな回りくどい事をするとも思えない
となると一番考えられるのは〈月島美月〉のファン……
今回の事態は下手をすれば美月の芸能生活に大きな支障をきたす可能性すらある
ならばその元凶であり原因を作った僕を許せないという発想は理解できなくもない。
聞いたことがある、松永さんなど比較的温厚なさやかちゃんファンに比べて美月ファンは結構過激だと……
僕はゴクリと息を飲んだ、殺されることは無いだろうが骨の一本や二本は覚悟しておかなければいけないかな
それでも〈こんな事で美月のアイドル活動を止めさせて堪るか〉という思いが僕の体を突き動かした。
「ここだよな……」
指定された場所へと到着すると、そこは綺麗なオフィスビルであった
24階建ての高層建築ビルで一階にはガラス張りのロビーに案内役の女性と警備員が立っている
少し意外な展開に戸惑いながらも受付で問い合わせてみた。
「田村様ですね、伺っております、十二階のD13会議室にてお客様がお待ちです」
どうやらそこはイベントや会議などをおこなうレンタルオフィスの様だった
エレベーターで十二階へと昇り【D13会議室】という部屋の前に立つと
僕は心を落ち着かせるために一度深呼吸をしてから会議室のドアをノックした。
「は~い、空いていますよ~」
中から若い女性の声で返事が返ってきた、アレ?この声は、まさか⁉
慌ててドアを開けるとそこには僕の想像通りの人物がいたのである。
「初めまして田村圭一君、いや握手会で何度も会っているから初めてではないね」
僕の目の前に居た女性。茶色がかったボブヘアに大きな瞳
タレ目気味の小顔が人々に親近感を与え、癒しすら感じる眩しい笑顔
そう、大橋さやかちゃんだった。
〈大橋さやか〉【お台場坂49】のナンバー2
僕や美月と同じ十七歳で今や美月と並んで〈二強時代〉と呼ばれている
【お台場坂49】メンバーの副リーダーであり僕の推しメンでもある
さやかちゃんは中学を卒業した後、秋田県の田舎から単身で上京し【お台場坂49】入りを果たす
深夜バラエティーの罰ゲームや過酷なロケなどにも積極的に参加し
持ち前の明るさとトークの切り返しの上手さでお茶の間を中心に人気を上げてきた
いわば〈叩き上げ型〉のアイドルで美月とは正反対のスタイルで這い上がって来たメンバーである
自らを〈雑草型どろんこアイドル〉と呼び二度の総選挙では三位以下を大きく引き離しての連続2位を獲得した。
「要件はメールで送ったでしょう、あっ、どうやって圭一君のメアドを知ったのかは秘密だけれどね」
そう言って悪戯っぽく微笑むその笑顔はテレビなどで見ている〈さやかスマイル〉そのものだった。
「ファミレスの騒動の件ですよね⁉ちゃんと説明します
そうすればわかってもらえると思いますから……」
僕はさやかちゃんに向かって丁寧に説明をした、ぼくの彼女が美月の昔からの親友であり
些細な事で彼女と喧嘩してしまって、その事で美月が怒鳴り込んできたと。
「ふ~ん、美月に子供の頃からの親友がいる事は知っていたけど、それが君の彼女……」
「はい、だから今回の事は特に何かあるという訳では無くて
美月が単に友達の事が心配で僕に怒っていたというだけの話です」
「じゃあ圭一君と美月に恋愛関係がある訳じゃないのね?」
「もちろんです、僕にはちゃんとした彼女がいるし、【お台場坂49】ではずっとさやかちゃん推しです
美月は隙さえあれば僕と彼女を別れさそうとしてくるし
僕にとっては寧ろお邪魔虫的な存在で恋愛どころか天敵みたいなモノなのです
だから恋愛関係などとんでもない、わかってください‼」
「ふ~ん、そうなの……」
さやかちゃんはふと天井を見上げて、何かを考えている様子だった。
「ねえ圭一君、あなた私のファンなのよね?」
「あっ、はい、ずっとさやかちゃん推しです」
「ありがとう、それに美月とは仲が良くないどころか天敵だと?」
「ええ、まあ……そんな感じですかね……」
何だ?さやかちゃんは何を言いたいのだ?何か嫌な予感がする……
「じゃあこういうのはどうかなあ?美月と圭一君が仲良くしているのを
彼女さんが焼きもちを焼いて怒っちゃって、美月が圭一君に
〈何とかして〉って怒鳴り込んできたというのは
これなら可愛い焼きもちから来る些細な誤解っていう事で
微笑ましい話として大事にはならないと思うけど」
さやかちゃんからの提案は本来の事実とは少しかけ離れた内容であった。
しかしそれでは……
「いや、ちょっと待ってよ……それだと美月が〈友達の彼氏といちゃつく女〉
という印象を持たれてしまうじゃないか、しかも僕に怒りながらもすがってきているとか
その話だと世間に与える印象が全然違ってきちゃうよ、そもそも僕と美月は仲良くなんか……
はっ、まさかさやかちゃん……」
さやかちゃんは少しバツの悪そうな表情で僕から視線を逸らした、これってまさか?
「まさか、これをきっかけに美月の人気を落とすつもりじゃあ……なぜそんな事を⁉」
「いいじゃない別に、この程度なら芸能生活に支障をきたす程の事じゃないわ
スキャンダルともいえない些細な事じゃないの……」
「良くないよ、スキャンダルにはならないだろうけど【お台場坂49】のファンは圧倒的に男性が多い
こんな事が知れ渡ったら美月の印象は確実に悪くなる
なんで事実を歪めてまでそんな事を言わなければならないのさ……まさか、総選挙?」
「いいじゃない別に……圭一君、あなた私のファンなのよね?だったら……」
「ダメだ‼」
悲しくなってきた、あれ程ひたむきに頑張って来たさやかちゃんでさえこんな事を言い出してしまうのか……と。
「ダメだよ、さやかちゃん。そんな事をして一位を取っても……」
僕がそう言いかけた時、それを遮る様にさやかちゃんが叫んだ。
「欲しいのよ、一番が‼」
その迫力に圧倒され思わず僕は言葉を失った
ここにきてさやかちゃんの本心を始めて聞いた気がした。
「どうしてもなりたいのよ……一番に」
「なぜそうまでして……今まで必死に頑張って来たじゃないか
努力と根性、何でも真正面から体当たりでぶつかる
愚直なまでの前向きさがさやかちゃんのモットーだろ?
そのまま頑張っていけば……」
だがさやかちゃんはうつむきながら小声で語り始めた。
「頑張ってもダメなモノはダメなのよ……、貴方も私のファンなら知っているでしょ?
私は他のメンバー達はやらないようなキツイ仕事でもこなしてきた
わかる?辛くて眠れなかった夜もある
偉いディレクターやプロデューサーにセクハラまがいの事を受けたのだって一度や二度じゃない
でも必死に耐えてきた〈こんな事で負けるもんか‼〉って歯を食いしばって頑張ってきたのよ
ネットどころか他のメンバーでさえ裏で〈汚れアイドル〉とか〈そうまでして人気が欲しいのか?〉
とか陰口を言われているのも知っている……」
「そんな……そんな心無い中傷なんか無視してしまえばいいじゃないか
そんな事をしてまで人気が欲しいの?」
するとさやかちゃんは急に顔を上げると、厳しい眼差しで叫んだ。
「欲しいわよ、人気、当り前じゃないアイドルなのだから‼」
普段見せている優しい笑顔とは対照的な鬼気迫る言葉に気圧され、僕はかける言葉が見当たらなかった。
「私の所属事務所は美月の所と違ってコネも力もない出来たばかりの弱小事務所よ
でも秋田の田舎から出て来た右も左もわからないこんな小娘をアイドルにしてくれたの
私の為に散々頭を下げて必死で仕事を取って来てくれるの、そんなの断れる訳無いじゃない」
さやかちゃんは静かに、そしてしみじみと語った。
そして一旦間を取り視線を上に上げると、記憶を手繰る様に再び話し始めた。
「ウチの事務所の社長さんはいい人でね、いつもニコニコしている優しい人
そんな温厚な社長がある日私の為に有名プロデューサーに猛抗議してくれたの
嫌なプロデューサーでさ、セクハラが酷いの……
そうしたらそれを聞きつけた社長がそのプロデューサーに抗議するために怒鳴り込んだ
そして胸倉をつかんで殴りかかるぐらいの勢いで言い放ったのよ。
〈ウチの大事な娘に何しやがる‼〉って……
それ以来そのプロデューサー関連の仕事は無くなってしまったけど、嬉しかった……
マネージャーも色々な所に頭を下げてお仕事を取って来てくれる
マネージャーにも仕事がうまくいかずに苛立って八つ当たりしてしまったりしたこともあった
落ち込んでしまったりしても優しく慰めてくれる、正しく諭してくれる
大人としてちゃんと叱ってくれる、本当に親身になって私の為に頑張ってくれるの。
そしてこんな私を応援してくれる人たちがいる、いつも頑張れって言ってくれるファンがいる……
だから一番になりたいのよ、そんな人たちにどうしても
〈みんなが支えてくれたおかげで一番になれました、ありがとう〉
って言いたいの、一番になって感謝の言葉を伝えたいのよ……
でも勝てないの、どうしても美月に勝てないのよ‼どれだけ頑張っても美月には……
もう何をどうすればいいのかわからないのよ、教えてよ‼」
さやかちゃんはボロボロと涙を流しながら最後はヒステリー気味に叫んだ
いつも笑顔を欠かさない彼女のこんな姿を見たのは勿論初めてである。
「だったら尚更だよ、さやかちゃん。ちゃんと真っ直ぐ頑張ろうよ
そうしないと必ず後悔する事になるよ」
「どうしてよ‼︎どうやっても、どんなに頑張っても追いつけないならば
もう相手を引きずり下ろすしかないじゃない、綺麗事ばかり言わないでよ‼」
「綺麗事じゃないよ。別に周りからどうとか道徳的にどうこう言っている訳じゃない
もしそんな事をして仮に一位を取れたとしても、必ず後悔する。誰がどうとかじゃない
さやかちゃん自身が自分を許せなくなる。だってそれは今まで頑張って来た自分を全て否定する行為だから……
事務所の社長さんもマネージャーさんもファンのみんなも真っ直ぐ頑張って来たさやかちゃんを応援してきた
もしそんな期待と信頼を裏切ったらさやかちゃんは自分自身を絶対に許せないはずだ、そうだろう?」
「何よ、偉そうに……あなたに私の何がわかるのよ⁉」
「わかるよ……」
涙目で反論してきたさやかちゃんに僕は真っ直ぐ答えた。
「さやかちゃんを見てきたファンならみんな知っている、わかるよ……
さやかちゃんは人一倍頑張ってきた、どんな時でも嫌な顔せずいつも笑顔で僕たちに元気をくれた
そんなさやかちゃんだから、頑張れって言いたくなる、応援したいって思わせてくれた。
僕の知っている人はね、本気でさやかちゃんを天使だと思っている
誰よりも頑張っているって信じている、そんなファンの為にもずっと【どろんこ天使】でいてよ」
僕の話を聞いたさやかちゃんはガックリとうなだれた。
「でも、勝てなければ一緒じゃない……どんなに頑張ったって……」
聞き取れないほどの小声で独り言の様につぶやくさやかちゃん、僕はそんな彼女の手を握り力強く語り掛けた。
「僕たちがさやかちゃんを一位にしてみせる。
松永さんを中心にさやかちゃんファンは今度こそさやかちゃんを一位にするって頑張っている
いつも元気をくれるさやかちゃんに今度は僕たちが手助けする番だって張り切っている
獏たちが必ずさやかちゃんを一位にしてみせるさ‼」
「本当に……私が一位になれると思う?」
「ああ、任せてよ‼」
涙目で弱々しく言葉を発するさやかちゃんに僕は大きく頷き答えた、その時である。
「そんな無責任な事を約束していいの?」
後ろから聞こえてきた声に驚き、思わず振り向くと
そこにはスマホを片手に腕組みをしている美月が部屋の入り口で立っていたのだ。
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