アイドルが怒鳴り込んできた‼
「みんな、お疲れさま‼︎今日のさやかちゃんも最高だったね
じゃあせんえつながら僕が音頭を取らせてもらうよ、我らが天使さやかちゃんに乾杯‼︎」
松永さんの音頭で皆は一斉に飲み物の入ったコップを上に掲げた
ここは帝都ドームの近くのファミレス、松永さんが僕を始め
知り合いのさやかちゃんファンに声をかけ〈お疲れ様飲み会〉を開催したのである。
飲み会といっても僕のように未成年もいるので居酒屋ではなくいつもファミレスが会場となっている。
給料ほぼ全てをさやかちゃんに注ぎ込んできる松永さんにとって
居酒屋すらも敷居が高いのかもしれないが、そこは暗黙の了解で誰も突っ込まないようだ。
「いや〜みんな聞いて欲しい、この田村くんはね実に偉いのだよ
今日のドームライブに来るために彼女と喧嘩して馳せ参じたというわけだ
いやなかなかできる事じゃないよ、人間かくあるべし
田村くんはさやかちゃんファンの鑑だ、いや〜立派、立派‼︎」
僕を横に座らせて肩を抱きながら豪快に笑う松永さん。
彼女と喧嘩してまでライブに来たという事実がよほど好印象を与えたようだ。
〈さっきその事を後悔していた〉とは、とてもじゃないが言い出せない
正直なところ僕にとっては松永さんの好感度よりもしおりちゃんの機嫌の方が百倍価値があるが
そんな事を思っていても事態は良化しないので今は諦めてこのまま空気を読むことに徹し
しばらく皆の話を聞いていた。いつもなら僕も積極的に会話に参加するのだが
今日だけはそういう気分になれないため大人しく聞き役にまわっていたのである。
「田村くん、今日は静かだね。僕のおごりだ、もっと飲んで、遠慮はいらない‼︎」
〈遠慮せずもっと飲め〉と言われても……おごってくれるのは有り難いが
ファミレスのドリンクバーでそこまで飲めないし遠慮する理由もない
そんな時である、僕のスマホから〈ポロリ〜ン〉というラインの着信音が鳴り響く
もしかしてしおりちゃんからかも⁉︎という淡い期待を持って速攻でスマホの画面に視線を移したが
そこに明記されていた名前は美月であった。
『ゲゲッ、このタイミングで美月とか……嫌な予感しかないが……』
恐る恐る本文に目を通してみると、そこには
〈何やっているの‼︎今どこにいるの‼︎〉
という今どきの若い女性が書いたものとは思えない文章が羅列されていた
どうやら僕がしおりちゃんと喧嘩した事を知ってお怒りの様子である。
『誰のせいで喧嘩になったと思っているのだ⁉︎』
という気持ちを抑えつつ、面倒なので既読スルーしていると
連続着信音と共に次々と送られてくる美月からの〈激オコ〉ライン。
〈何、既読スルーしているのよ‼︎〉
〈早く返事しなさい‼︎〉
〈いい加減にしないと殺すわよ‼︎〉
といった犯行予告とも取れる脅迫ラインが次々と送られてきた
怖い、怖い、怖い、何だこれは?仕方がないので。
〈今ライブ終わりで近くのファミレスでさやかちゃんファン達とのオフ会最中です〉
と送り、大きくため息をついた。なんだかわからないがどっと疲れた。
「どうした田村くん?さっきからちょくちょくラインが来ているようだが……
そうか例の彼女だな?全く女というのは面倒な生き物だよな
どうでもいいような内容をこまめに送ってきて返事が遅いだけで機嫌が悪くなるとか最悪だよ
我らにはさやかちゃんがいれば十分だ。彼女なんか無視だよ、無視
さあ男同士熱く語ろうじゃないか‼︎」
勝手に推測し納得してくれる松永さん、まさかラインの相手が月島美月だとは夢にも思わないのだろうな……
そんな松永さんに向かって一つ質問をしてみた。
「あの、一つ聞きたいのですが、松永さんがさやかちゃんを応援するきっかけというのはなんだったのですか?」
何気なく聞いた質問だったが松永さんは
〈その質問待っていました‼︎〉とばかりに目を輝かせ意気揚々と語り始めたのである。
「よくぞ聞いてくれた田村くん。あれは二年前、僕が彼女に振られたばかりの頃だったよ……
近所の本屋に買い物に出かけた時でね、そこで僕は運命の出会いを果たした
その時、さやかちゃんは中学を卒業して秋田の田舎から出てきたばかりで
まだ【お台場坂49】の研究生として本屋のイベントとして来ていた
なんとなくそのイベントを見ていたのだけれど、最後に握手会みたいなのがあってね
でもさやかちゃんを含め他の四人も研究生だからね
ファンなんてほとんどいなかったし握手会に並ぶ人も少なかった
その中でもさやかちゃんの所だけ誰も並んでいなかったんだよ
なんか可哀想になってきてね、なんとなく僕が並んでみた
そうしたらさやかちゃんは満面の笑みで僕を迎えてくれて手を握りながらこう言ってくれたのだ
〈私、田舎から出てきたばかりでまだ誰もファンがいないのです
よかったら私のファン一号になってくれませんか?〉
ってね。もうそんなこと言われたらファンになるしかないじゃない
神の……いや、天使の啓示だと思ったね。その時のさやかちゃんのまぶしい笑顔は今でも忘れないよ……」
当時のことを思い出しながらしみじみと語る松永さんは本当に嬉しそうだった。
「そうですか、じゃあさやかちゃんのファン一号は松永さんなのですね?」
僕は愛想笑いを浮かべながらご機嫌をとりに行くように話しかけた
しかし松永さんは急に冷めたような表情で僕の顔を見ると
予想していたモノとは少し違う反応を見せたのである。
「あのねえ田村くん、僕だってアイドルオタクを二年もやっているのだよ
デビュー当初の新人アイドルが出会う人皆にそう言っていることぐらいわかっているよ
当然僕の事なんか覚えているはずもないだろう。でもいいんだ
さやかちゃんは僕に幸せをくれた。そして大きく、とても大きくなってくれた。
あの頃のさやかちゃんを知っているというだけで僕は十分さ
そして僕は【さやかちゃんファン一号】と勝手に思っている。思うぐらいは別にいいだろう?」
「もちろんです、今度こそさやかちゃんが一位を取れるといいですね」
「わかっているじゃないか、さすがは田村くん、僕が見込んだ男だけはあるよ、さあ飲もう‼︎」
それから松永さんの独演会が始まった。アルコールも入っていないのに
人目もはばからずさやかちゃんへの愛を語り始めた松永さん。
「今度の総選挙こそ我らがさやかちゃんを総合一位にするぞ‼︎
それこそが我らが使命、我らが宿命、我らにしかできない崇高な儀式とも言えよう
我らが命はさやかちゃんの為にある。さあ諸君、試練の時だ、進め一億火の玉だ‼︎
人類の幸福のために、世界の平和のために、さやかちゃんを必ず一位にするぞ
そして今度こそあの憎くき大魔王、月島美月姫を地獄の底に叩き落として……」
松永さんが雄弁に語っていた最中、ファミレスの入り口が妙に騒がしくなり皆の視線がそちらに向く
松永さんと僕も自然とそちらに目を移したのだがそこで僕はとんでもないものを見てしまったのである。
「ん、何かあったのか?……えっ⁉︎」
松永さんの表情から一瞬で血の気が引く。それもそのはず
そこにはステージ衣装のまま鬼の形相でこちらに向かってくる美月の姿があったのだ。
「うわ〜〜ごめんなさい、ごめんなさい」
先程までの勇猛さはどこにいったのか。急に平謝りし始める松永さん
しかし美月はそんな松永さんには目もくれず、真っ直ぐに僕の方に向かってくると
僕の服のむなぐらを掴んで激しく怒鳴った。
「何やっているのよ、アンタは‼︎」
「ちょ、ちょっと落ち着け」
「落ち着いているわよ、落ち着いているから聞いているのよ‼︎」
美月の怒りは最高潮に達していてもはや会話が通じないレベルである
周りの人間は唖然としたままこちらを見ている、それはそうだろう
一般人でもこんな所業を見せられたらドン引きするのに
相手は国民的アイドル【お台場坂49】のエース月島美月なのだ。
周りのさやかちゃんファンも唖然としてこちらを見ている。
この緊急事態をどう切り抜けようか、どうしたらいい?
僕は突然訪れたとんでもない状況に対し、早急な決断を迫られることになったのである。
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