始めて彼女が出来た‼
「ずっと君の事が好きでした、僕と付き合ってください‼︎」
誰もいない放課後の校舎裏、僕は一世一代の大勝負に打って出た。
目の前にいる女性の名は秋山詩織、二年生になって席が隣になって話すようになったクラスメイトだ。
僕は右手を差し出したまま彼女の顔を見られないでいる、怖い、何だ、この怖さは?
返事が来るまでの数秒間はやたらと長く感じてしまい、思わず彼女の方をチラリと見た。
彼女はうつむき気味に目を伏せながら何かを考えているように見えた
神様どうか……。すると彼女は恥ずかしそうに口を開く。
「うん、いいよ……」
その瞬間、頭上から温かな光が降り注ぎ目の前は眩しい光に包まれた。
「やったー‼」
全ての思いを吐き出すように大声で叫んだあと、両手を握りしめながら再び喜びを噛み締める。
そのまま彼女の方に視線を向けると僕の言動にやや驚いたのか固まってしまっていた。
それが驚きなのか、若干引いているのかはわからないがここは一旦落ち着こう。
「ゴメン、一人で興奮しちゃって、あまりにも嬉しくて」
「うん、少しびっくりしたけど……でもいいの?私なんかで」
「何言っているのさ。秋山さんがいいのだよ。こちらこそ僕なんかが彼氏で悪いけどよろしく‼︎」
再び差し出した僕の右手にそっと手を添えてくれた彼女。
うわ〜柔らかくて温かい手。そしてほのかに香るいい匂い。何だ、コレ。
少し恥ずかしそうにうつむく仕草が超可愛い〜〜、何この可愛い生き物は?
こんな子が僕の彼女、彼女だって……だめだ、ニヤつきが止まらない
「そんなに喜んでくれるのは嬉しいけど、私男の人と付き合うどころか
あまりしゃべった事も無いし多分私と付き合っても
つまらなく感じちゃうと思うの……ガッカリさせてしまったらゴメンね」
申し訳なさそうに小声でそう話してくれた。
ガッカリなどする訳がない、今すぐ結婚してくれと言いたいぐらいです
「僕だって女の子と付き合ったことなんて一度もないし、他の女子と話した事もほとんどない、本当だよ‼︎」
「そうなんだ……実を言うと私も前から田村くんの事、いいな……思っていたの」
なんと、実は両思いだった⁉︎これを奇跡と呼ばずして何と言うのだろうか。
「僕も女子には友達いないしこんなに話した女の子は秋山さんしかいない
でも彼氏として秋山さんをがっかりさせないように頑張るよ」
すると彼女は少しだけホッとしたような表情を浮かべ、恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ私達、初めて同士、初心者カップルだね」
この時、僕はこの子の為なら命さえも惜しくない。いやこの子の為に死にたいとさえ思った。
こうして僕こと田村圭一と彼女、秋山詩織は彼氏彼女の関係、つまり恋人同士となったのである
これから二人だけの最高で至福の時が訪れる事を信じて疑わなかった、そうこの時までは……
自己紹介が遅れましたが僕の名前は田村圭一、特に自慢する事も無いどこにでもいる高校二年生です。
今、隣にいるのは僕の……彼女、秋山詩織さん。物静かで控えめな性格の優しい女の子です。
やや背が低くスレンダーなスタイルに少しウエーブのかかった髪型が何ともキュート、
そのたれ目がちの眼差しで見上げられると僕の血液は逆流し心臓が爆発寸前になります。
ボキャブラリーの少ない僕の言葉では彼女の可愛さを十分に表現できないのが残念ですが
今皆さんが想像した三倍は可愛いと思ってください。
彼女に告白した帰り道、僕達は一緒に駅まで歩いた。
気分がフワフワして何を喋ったのか記憶に無くただただ幸せな時間が過ぎ
駅への道のりがやたら早く感じた。
駅で彼女を見送った後、急いで自宅へと帰り速攻で自室に戻ると
制服を着替えることもなくそのままベッドに転がり枕をギョッと抱きしめた。
「秋山さん……いや、詩織、好きだよ、大好きだ」
そんな恥ずかしい台詞を吐きながら僕は思わず枕にキスをした。
こんな何の変哲もない枕を仮想の秋山詩織とするのは役不足も甚だしいが
この際それはどうでもいい、この溢れる想いをどこかにぶつけずにはいられなかったのだ。
「付き合っているのだから呼び方が秋山さんじゃあ変だよな……詩織?
いやいきなり呼び捨てもどうだろう?何か偉そうだし……詩織ちゃんがいいかな、しおりんとかもアリか?
付き合い始めたらキスっていつぐらいにしても大丈夫なのかな?
ググったら出てくるかな?それにおっぱい触るのってどのくらいで……
いや何を考えている、あーちくしょう、幸せの妄想が止まらない‼︎」
そんな不毛で至福の未来計画を脳内で展開し、悶えながらベッドの上で転がり回っていた時
何か視線を感じ咄嗟にドアの方に目を向けた
するとそこにはドアの隙間から覗いている母親の姿があったのだ。
「何覗いているのだよ、母さん‼︎」
「圭ちゃんも男の子だねえ〜母さん少し安心したよ」
母はニヤニヤしながら息子の恥ずかしい行動を観察していたのである
何という悪趣味だ。先程の言動を見られていたのかと思うと恥ずかしくて死にそうになる。
「黙って息子の部屋を覗き見るとか最低だろ、早くどっか行けよ‼︎」
「はいはい、お邪魔虫は消えますよ」
僕は母親の背中を押すように退場を促した
健全な思春期の男子高校生の妄想行為を母親に見られるとか、最悪を通り越して地獄の所業である。
「圭ちゃんも普通の男の子で母さん安心したわ、アイドルばっかり追いかけて
一時はどうなってしまうのかと心配していたのだけれど……」
母親が何気なしに呟いた一言。そう僕の唯一普通でないところ
それはあるアイドルが大好きであり、アルバイトのお金も全て注ぎ込むほど
夢中になっている事である。
僕が大好きなアイドルの名は【お台場坂49】。
十代の女の子が中心で活躍している大人気アイドルグループである。
その中でも僕が一推しなのがナンバー2の大橋さやかちゃんだ。
運営が主催する半年ごとに行われる【お台場坂49選抜総選挙】において
二回連続で二位を獲得、〈不動のナンバー2〉と呼ばれている子である。
だから握手会に行ったり公式ファンクラブの入会したり
ファン同士でファミレスで一晩中熱く語り合うこともあった。
もちろんその事は彼女には話していないし話す予定もない
ドン引きされるのが目に見えているからである。
僕だってアイドルと付き合えると思って応援していたわけではないし
理想の彼女とかでもない。落ち込んでいた時に【お台場坂49】の歌を聴いて励まされ
それ以来ファンになったのだ。〈アイドルの歌なんて〉とバカにする奴もいるが
誰が何と言おうと僕にとっては【お台場坂49】の歌が最高だ
と胸をはって言える
彼女には言えないが……
翌日、学校の教室で秋山さんと顔を合わす。いつもの日常がどこか新鮮で胸が高まる。
「おはよう田村くん」
「あっ、おはよう秋山さん」
何でもない朝の挨拶、でも今日の挨拶は特別な意味を持つ
何せ今、目の前にいるのは僕の彼女なのだ、もちろんクラスの誰もその事は知らない
秋山詩織は大人しい女子である。口数も少なく一人で本を読んでいることが多い
クラスの女子と話している時も自分から積極的に話すというよりは聞き手に回っていることが多い印象を受ける。
挨拶の後、お互い照れ臭くなって思わず視線を逸らす。
そんな取り止めのない一連のやり取りすら悪くないと思える心地よさ
こんな幸せがずっと続くならこの世界はなんて素晴らしいのだろうと思った。
いかん、こんなことに浸っていては、肝心な事を伝えなければ。
「ねえ秋山さん、二人きりで話したいことがあるのだけれど
今日の放課後、駅前のファミレスとかでどうかな?」
クラスの連中に聞こえないよう、僕は彼女の可愛い耳元に口を近づけて小声で囁いた。
「うん、いいよ、私も話したいことがあったし……」
おお、何という以心伝心。やはり僕たちは相性ピッタリだ。
ふと彼女を見ると恥ずかしそうにうつむいていた
そんな姿を見せられると今ここでクラス中の奴らに向かって叫びたい騒動に駆られる
〈この可愛い女の子、僕の彼女なのです‼︎〉って。
もちろん口には出さない、そんな事をすれば彼女が恥ずかしく感じるからだ
本当は僕にそんな度胸がない事とはあくまで別の問題である。
放課後までとにかく待ち遠しい、もどかしいとも言えるのだろうか?
あ〜この気持ちをどう表現すればいいのか、国語は苦手じゃないが選択肢に困る、日本語って難しいな。
長かった一日の授業を終え、待ちに待った放課後である
僕達はクラスの奴らに気づかれないように別々に駅前のファミレスへと向かった。
ファミレスに到着すると彼女はもうすでに来ていて本を読んでいた
静かに本を読んでいるその姿は文学美少女というフレーズがピッタリのたたずまいである。
「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」
ウエイトレスさんがお決まりのセリフを読み上げる
すると彼女は僕の姿に気が付きこちらを見ながらニコリと微笑み右手を振った。
「いえ、連れが先に来ているので、同じ席で」
この時の僕はいわゆる〈ドヤ顔〉というやつだったかもしれない
本当は〈連れ〉という部分を〈彼女〉と言い換えたかったのだが
節操のある僕はあえてそれを控えたのだ。
「ごめん、待った?」
「ううん、私もさっき来たところだよ、本を読んでいたから」
彼女は読んでいた本をそそくさとカバンにしまう、思えば話すきっかけは本だったな……
彼女と初めて話したのはクラスの席替えで隣同士になった際に
何気なく聞いた〈それどんな本なの?〉という質問だった。
特に気になった訳でも無かったが隣同士だし話すきっかけとして何となく切り出したのだが
その時の彼女は嬉しそうに答えてくれた、思えばそれが始まりだったのだろう。
こうして僕は彼女と少しづつ話すようになり、そして僕は自然に恋に落ちた。
「そういえば秋山さんも僕に話があるって言っていたけど何?」
「う〜ん、私の話は後でいいよ。まず田村くんの話からで」
「そう?じゃあ僕から話すよ、あのさ……僕たち、その……つ、付き合っているよね
だからさ、その、お互いの呼び方というか、何というか
いつまでも秋山さん、田村くんではあまりに他人行儀というか
だから違う呼び方にしないか?という提案なのだけれど」
「はい、私もその提案に異論はありません」
「そう?じゃあさ、秋山さんの事をどう呼んだらいいのかな?
詩織ちゃん、しおりん、しーちゃん、それとも男らしく詩織?」
昨夜必死で考えた彼女の呼び方候補の中から厳選したものをプレゼンとして提出した
「愛称よりも名前で呼んで欲しいな、だけど、詩織と呼ばれるのにはまだちょっと恥ずかしいし……しおりちゃんで」
少し恥ずかしそうに目を伏せながら、絞り出すような小さな声で僕にそう告げた
長い道のり〈実際は一日〉を経て、これから僕は彼女のことをしおりちゃんと呼ぶ事に決定した
これは本人公認でありオフィシャル決定事項なので誰にも文句は言わせない‼
いや、文句をいう人もいないだろうけど。
「じゃあ私は田村君のことをどう呼んだらいいのかな?圭一君、圭ちゃん、圭くん、けっちゃん?」
「そうだね……圭一君はどことなく他人行儀だし、圭ちゃんは母親にそう呼ばれているから何となく嫌かな
〈けっちゃん〉は何か食べ物みたいだし、圭くんにして欲しいのだけれど……いい?」
「うん、じゃあこれから私は圭くんって呼ぶね⁉︎」
満面の笑みで僕に告げて来てくれた純白の天使。何だ、コレ?
脳が溶ける、全身から力が抜ける、もうこのまま時間が止まればいいのに……
ここで僕はハッと我に帰り肝心なことを思い出したのである。
「僕の要件はそれだけなのだけれど、し、しおりちゃんの要件は何だったのかな?」
今、しおりちゃんって自然に言えたかな?少し噛んだか?要件の内容よりもそっちの方が気になってしまう
そんな思いとは裏腹にしおりちゃんの表情が少し曇る。何だろう?どうやら何か話しづらそうだ
何か悩みを抱えているのであれば僕に相談して欲しい、しおりちゃんのためなら命だって惜しくない
例え君が魔王の娘だったとしてもちゅうちょなく愛せる自信があるよ‼︎
しかし、しおりちゃんの口から出てきた言葉は少し意外なモノであった。
「あのね、圭くん。実は会って欲しい人がいるの……」
この場面で会って欲しい人って……誰だろう、親とか?いやいやまだ付き合って一日で親って……
でも無くはないか。それとも友人、兄弟?
「会うのは別に構わないけど……誰に会うの?」
「それはその時に話すから、それじゃあダメかな?」
「別にいいけど……」
何やら意味深な提案である、何だろう?
僕は何か煮え切らない気持ちを抱えたまま帰路へと着くこととなってしまった。
「一体誰と会うのだろう……」
こうして僕は一抹の不安を抱えながら約束の、そして運命の週末を迎えた。
「ここだよな?……」
待ち合わせに指定された場所はとある住宅街にある小さな喫茶店
中に入るとほかに客は無く愛想のいい初老のマスターが対応してくれた。
僕は注文を済ませ落ち着かないまま店内を見渡ししおりちゃんを待つ。
そのまま五分ほど待っていると店の扉が開き〈カランコロン〉という喫茶店特有の音が店内に鳴り響くと
しおりちゃんが入って来た。白いワンピースにピンクのカーディガンだ
私服姿も最高に可愛い。そしてその後ろにもう一人の人間が居た。
「ごめんね、圭くん、遅くなって」
「いや、僕も今来たところだから……」
慌てた感じのしおりちゃんがペコリと頭を下げた。
もちろん僕は笑顔で返すがしおりちゃんの背後にいる人物
この人が今回僕に会わせたいという人なのだろう。
どうやら女性のようである。どうやらという曖昧な表現をしたのはその人物が
黒いサングラスに大きなマスクを付けているため非常に判別しにくい
だが背格好と仕草、そして長く伸びた黒髪から女性であることは間違いなさそうだ。
二人は僕と向かい合う様に座るがしおりちゃんはどう話を切り出そうか少し考えている様子である
さて、さっきから全く喋っていない後ろの人物、こいつは一体何者だ?
たまにしおりちゃんに小声で耳打ちしているのを見せつけられ僕的には釈然としない
女性相手に嫉妬するとかおかしいし、付き合って数日で独占欲を掻き立てられるとは自分でも意外である
「ごめんね、圭くん、変なお願いして、今日は私の隣に座っている友達に会って欲しかったの……」
友達?そうか、友達だったのか……想定していた人物像としてはかなりマシな展開といえる
だけどこの正体不明の人物は何者だろう?マスクとサングラスでほとんど顔が見えない、まるで逃亡犯だ。
「あのね、圭くん、その……この人はね……」
しおりちゃんはどう説明したらいいのか迷っているように見える
なにやら訳ありのようだ。
すると今まで無言だったマスク女が口を開いた。
「もういいわ、詩織、私から話す」
若い女性の声、多分僕たちと同い年くらいだろう……あれ?でもどこかで聞いたことがある様な声……
「うわぁぁぁぁ‼︎」
マスクとサングラスを外したその女性を見て僕は思わず立ち上がり叫び声をあげた。
「ちょっと、静かにしてよ、騒ぎにならない為にワザワザこの店を選んだのだから‼︎」
その人物は仰天する僕の姿を見て忠告するように語りかけてきた。
その謎の女性の正体が判明した……間違いない、いや間違える訳がない。
彼女の名は月島美月、僕の大好きな【お台場坂49】の不動のセンターにして絶対的エースだ。
これは夢か?夢だとしたらどこから?……何が何だかわからず僕の脳は完全にパンクしオーバーヒートを起こす。
あまりの事態に困惑しどうしていいのかわからない。しかし本当の試練はこれからなのである。
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