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14 フランツ王子の事情その① 王子は退屈していた

 フランツ王子はヨーロピアン国の第三王子として生を受けた。


 母は妃妾とはいえ、名門のキエフル公国の出身であり、フランツの祖父のキエフル公爵はヨーロピアン国の重鎮として政治に関わっている。また、父である国王マクシミリヨン3世は平和を愛する比較的公平な人物であり、2人の妻にもそれぞれの子供たちにもなるべく隔たりのない対応に努めた。


 王はフランツの為に安全なルートを、第一王子、第二王子の地位を絶対に脅かさない存在となるよう彼を教育し、周囲にもそれを示した。

 かくして、彼は王子の身分を保持しながら、面倒な義務からは開放され、割合自由な環境を手に入れたのだった。


 兄王子達より自由だという事は、跡継ぎとしては期待されていないという事でもある。

 これといった目標もなく、欲しいものはたいてい手に入り、衣食住の心配もなく、周りはご機嫌をとる者ばかり。


 物心がつくと、王子は次第に生きることへ退屈を覚えるようになる。


 幸いな事に、双子の妹のフローラと、双子に献身的な愛情を注ぐ乳母のお蔭で、紙一重で常識を保つ人格を得る事が出来た。

 家族への愛、自国の民への愛も、ほどほどにはある。お付きの侍女や騎士達への感謝の念も、多少はある。


 もし、妹と乳母がいなければ、わがままを通り越し、狂気にかられていたかもしれないと自身でも考えた事がある。

 それくらい、微妙な危うい状態ではあった。


 10歳で、城外の学園に通いだした。学園の生徒は貴族の子息達が5割、貴族に仕える執事候補や上級侍女達が3割、裕福な商人の子供達が2割といった割合だ。


 一般市民と共に学ぶという事は、とても刺戟的であった。最初のうちは。


 慣れてくると、彼は理解した。彼の周りにいる人間は皆、城での配下であれ街の民であれ、彼の身分に憧れ怖れ、言葉を飲み込み、下心を持って群がってくるのだという事実を。

 

 12歳になる頃には彼の美貌は際立ち、周囲の令嬢や侍女や街の女将さん達も見惚れる程となり、彼の性格はますますひねくれていった。


 学園では、とっくの昔に学び終わっている一般教養を学ぶフリをしながら、王城の図書室で本を貪り読み、日々研鑽を積んだ。


 彼は、学ぶ事を楽しく感じた。知らない事を知る喜び。と、同時にいつも浮かんでくるこの問いに悩まされた。


 いったい、何の為に学ぶのか?


 知識をいくら得たところで、自分にはそれを活かす場所などないというのに。


 それでも学ばずにはいられなかった。なぜなら、もしかしたら、()()()()()()()()()()が、何某かのヒントが、書物にあるやもしれないのだから。


 14歳になった彼は、背が伸びスラリとした体型に、ますます美しく甘いフェイスで、表面上はにこやかに笑いながら、心の中で毒づくのが得意になっていた。


 見た目は麗しい、王子様。頭脳明晰で乗馬、剣の腕もよく、一般市民にも優しい、でも気まぐれで自由な掴みどころのないプリンス。

 

 彼の屈折した性格には、ますます磨きがかかった。

 彼は、人間というものに対し、自分自身に対して、ウンザリしていた。


 ひと月前、残念な令嬢が病気で寝こんだ時に神託を受けてかわったと噂を聞いた時、信憑性のない単なる噂だと断定した。


 その後に、神鳥がナルニエント公国領にあらわれ、神託を受けたジェシカが放浪の民を専任剣士に抜擢したと聞き、はじめて興味を持つた。


 今日の午前中は、父王と兄の第一王子、第二王子はとの月イチミーティングの日であった。そこで彼は父王より、ジェシカから届いた神鳥の件の報告書について聞かされる。

 報告書と、その場を実際に見た剣士や街の民達の話は一致しており、どうやら事実らしいと。


 神鳥が人に体を撫でさせるなど、前例がない。間違いなく、瑞兆であろう。ヨーロピアン国に吉を呼び込む者として、ナルニエント公国はもとより、今後はジェシカと専任剣士も丁重に扱うようにと指示された。

 

 フランツは、生まれて初めてと言っても過言ではないほどの衝撃と興奮に包まれた。


 会いたい。その令嬢と専任剣士に、今すぐ会いたい。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 湧き上がる衝動。他人にこんなにも興味を持つ事が出来たのかと、自分でも驚くほどの欲求。


 今すぐに、その2人を見たい。


 彼は父や兄達との会合を終えると、長年仕える専任騎士2人だけを連れて、その足でナルニエント公の城へと向かった。

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