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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1 days 〜2021〜

作者: りりーりー

えっちなのはいけないと思います

一日は24時間。

アナログの時計で言えば、時計針が二週した時。

自分の知識内で一日という区切りを説明すると、ざっとこんなものだ。

これまで私は、この一日という単位に対して特に気にする事もなければ執着する事も無かった。

漠然と意識の外側にあってたまにチラ見する位のもの、他の人だって大体同じ認識な筈だ。


けれども、今日だけは違った。

この一日だけは、どんな事が有ろうと経過していく時間の流れである事を痛感して過ごすのだ。

そして同じ日は二度と来ない。

これまでにあった、そしてこれからも訪れるであろう一日という区切りの中で、今日を完璧に同じくなぞる日なんて一生訪れない。

時間の流れは残酷な程に平等だ。

だから今日のこの日は、この日だけは特別だと意識し、そして想い続けるのだろう。


、、、


事の始まりは48日前までに遡る。

丁度先々月末の事だ。

私のただ一人の幼馴染で友人である、御堂白雪が死んだ。


〜〜〜


死後四日目

私、四方山かなかという人間は、幼馴染の遺影を前にしながら涙の一滴をも流せずにいた。

けれど悲しくないとか、そういう事では無い。

ただ浪費されるだけの時間が、焦りを伴って胸の中をかき乱しているのだ。

そこに落ち着いて泣くほどの余裕は無かったしらこんな下らない慰め会はとっとと終わりにしろ、という怒りが多分に含まれていた。

処理不可能、かつ理不尽な情報のうねり。それに呑まれているとも言える。そして周囲に一時的な外敵を見出して、精神的の安定を図ろうとしている結果がこの焦りなのかもしれない。

それでいて、亡失し渇き切った感覚も同じくらいに並立していた。

 私は彼女にまだ一つ大切な事を聞いて貰ってないなかった。

それだけが心残りで後悔で、この胸を満たす空虚さの元凶だった。


祭壇の中央に置かれている遺影。その元となった写真を撮影した時に、白雪はよもやこんな風に飾られるとは思っていなかっただろう。

私も思っていなかった。

額縁一杯に湛えた彼女の満面の笑みがより一層場の悲しみを盛り上げていて、腹が立つ。

遺影の元になった写真は、元々昨年夏に彼女と出掛けた時に、私が海をバックに撮影したものなのだ。

悲しみを盛り上げる為に撮ったんじゃない。


葬儀場を借りて行っているこの葬式。

しかし私にとっては余りに現実味が無く、余りに希薄で曖昧で滑稽で、そして飲み込めないものだった。

まただ。

カアっと目頭が燃えるように熱くなって、本当なら涙を溢す所なのにそれが出来ない。

幼馴染の死に目に涙を流せない自分に無性に嫌気が差した。

ふと黒いカーテンの隙間から覗く外の風景に目を移すと、そこは闇色そのものである。

当然だ、時刻は夜七時半を過ぎている。

そこにはいつも以上に無表情な私の顔が、窓に反射して小さく写っていた。

その顔には感情が砂一粒程にも感じられ無い。

嗚呼、ただ退屈で仕方が無い。

視線を前方に向けると白雪の母親と目が合い、小さく会釈されたので私も同じく返す。

そうすると白雪の母はまたハンカチで顔を覆った。

昔を思い出したのだろうか、まあいいや。

どんな受け止め方で有ろうとも彼女の死を認めているのだから。

正直言って羨ましい。

私はまだ彼女が死んだ事を納得してない、飲み込めていない。


〜〜〜


ほんのちょびっと昔話はこれで終いにしよう。

1番重要なのは今現在の現実、現状なのだから。

「ねえ、ユキっ!」

「「な〜に?」」

私の幼馴染の手を握ると氷のように冷たい。

でもしっかりと彼女は私に返事をした、それで良い。

今の白雪は死んでいる、けれども生きているのだ。

つい数時間前に、失意の私の元に突然現れた白雪は少なくともそう説明した、だからそういう事なのだ。

大好きな人を疑うほど自分は腐ってない。

だから信じる。

けど、疑いはしないけど


隠し事はする


冷たい身体に抱きついて顔を埋めて、罪悪感を噛みしめる。

(大好きなユキ、でも一つだけ教えてない事があるんだよ)

鈍い刃物で刺突するが如き胸の痛みに打ち震える。

よしよしと赤子をあやす様に細い白雪の手が背中を這う。

冷たい。


白雪はその生の歩みを止めるその時まで、私の真意を知る事がなかった。

そして今も。

総ていずれ伝えるいつか伝えると先送りを重ね甘えた私の過失だ。

彼女に罪はない。

学校の制服を身を包んだ白雪の胸から頭を上げて、ぼんやりとその顔を眺める。

形の良い桜色の唇がとても魅惑的で、それにむしゃぶりつきたい衝動に駆られて私は自己嫌悪。

「「どうしたの?」」

「ううん何でもないよ。ユキが可愛いなって、それだけ」

生前と変わらない笑顔が咲く、死んでからも鈍感な奴め。

「「嬉しいよ、カナ」」

ここまで言っても気がつかないか、朴念仁も良い所だ。

ぐしゃりと髪を乱してやる。


ぐしゃぐしゃ、ぐしゃぐしゃ


もうやめてよぉ、と間延びした柔らかな白雪の声が、私にだけくぐもって聞こえた。

しかし自らアクションを起こさない自分にまた自己嫌悪。

抱きついたまま、半分開いたカーテンから射し込んだ月光が眩しい事に今更気が付いた。

そのまま少し日に焼けた壁を見ると、カレンダーが先々月から捲られてなかった。

いや、そもそもあの日から今日まで一度も学校に出席すらしていない。

(嗚呼、自分堕落してるなあ)

半分位、白雪の死を言い訳にしてして。

そんな現実から目をそらそうと、またぎゅっと胸元に顔を埋めた。

くそ、まな板な私と違い、デカイ。

死んでも胸は小さくならないのか。


「ねえ、ユキ」

私は問うた。

こんな感じで彼女に呼び掛けたのは今日で何度だろうか。

「本当に、本当に居なくなるの?」

信じられない、否信じたくない。

「「そうだよ。

わたしは肉体を持った死者。

死後49日になる24時間前だけこうして肉体得て、望んだ1人の現世の人間の前だけで活動出来る。最後は消えてなくなる。」」

決まって白雪はこれを説明するたびに私の手を弱く握る。

こんなに近くで白雪を感じられるのに、彼女は自身を死者だと言うのだ。

しかし、一旦死んで焼かれて彼女一家の墓に納骨されたのを見て、それを飲み込まざるを得ない。


白雪は今日何度目かの絶望に打ちひしがれて居る私の肩を、するりと撫ぜた。

だけど言葉は発さず、静かな時間だけが流れた事を憶えている。


、、、


有り体に言ってしまえば、私は白雪の事が好き。

恋愛としてでも、愛玩としてでも、友好としてでも、とにかく全ての感情を以って彼女が好き。

好きで好きで好きで、とっても好きで愛してる。

偽りのない本気の想いであり、私の中で最も純粋な部分だ。

そして、白雪にまだ伝えていない感情だ。

嗚呼、苦しい。

胸が灼けるように痛く苦しい。

白雪に拒絶される未来を恐れているが故だ。


さて今日一日何をしたかと言えば、白雪が死んでから何を思ったのかを言葉にしてぶつけたりぶつけ返したりと、まあそんな所である。

外に出歩くという選択肢ははじめから無かった。

今更になってデートとして外を出ても良かったんじゃないかと恨めしく思っている自分が憎い、が悔いは無い。


タイムリミットは、後一時間に迫っていた。

しかしまあ私は情けない人間な訳で、自分の想いをこの後に及んでまだ伝えていない。

「「後、もう少しだね」」

嫌で嫌でたまらない、ずっと消えないで欲しいのに。

しかし時間は平等、正確に同じ速度で流れる。

川のように淀みも無ければ急流もない、ただひたすらに正確。

カチッ、カチッと聴こえる時計の秒針の音は、流れというより足音のに似ていると思った。

死神の足音に。


「・・・、っ・・、」

私はさっきからずっと抱きついたままだった。

そしてその間ずっと私はバレない様に静かに泣いていた。

そう、泣いていた。

その事に今気が付いた。

あの通夜の日に祭壇を前にしても無く事が出来なかった自分が、泣いているのだ。

いよいよ白雪の死を、私自身が受け入れて納得しようとしているのだろう。

認めたくないのに。

「ねえ、ユキ」

しゃくりを上げない為に、泣き顔を見られない為にそのままの状態で、問う。

「このまま、本当に消えちゃうんだよね?」

僅かな逡巡を挟み。

「「・・・うん」」

やっぱり肯定した。


、、、


私の身体が、白雪に抱かれた。

地に墜ちた新雪の様に冷たい身体に、ぎゅっと、ぎゅっと抱き締められた。

彼女は静かに涙をこぼして居る、肩が少し濡れてた事で分かった。

後45分。

私は、決心した。


、、、


ねえユキ、聞いて欲しい事があるの。

なに?と返す白雪の声は震えて居る。

私も込み上げたものが今にも決壊しそうだ、けれど言い終わるまでは我慢してやる。



私はユキの事が好き。


恋愛でも友情でも何でも、どう受け取ってもらっても構わない。


私はその総ての感情を以ってユキの事が好きなの。


最後の最後でゴメンね、女同士なのに気持ち悪いって思ったよね。


でも好き、私は貴女の事を愛してる。



私を抱くユキの冷たい身体が急に強張って、より力強くなった。

嗚呼冷たい。

涙が燃えるように熱い。

私は声を上げて泣きながらそのまま無言で抱かれる。

今日一日で、そして今の告白で思いの丈を全て語り尽くしたと思ったのに、想いと言葉がまだまだ溢れてくる。

なので仕方が無い、総てぶつけるてやる。

ぶつけてぶつけて、気が付くと15分が経っていた。


、、、


残り30分。

ユキは一言、「「そっか」」と言った。

その口調はとても穏やかで、私は安心した。

温い湯に包まれるみたいに胸のあたりがぽかぽかして、幸せだ。

言いたい事を言ってスッキリした、勿論ちょっぴりだけ名残惜しさも有るけれど。

よかった、拒絶されなかった?

「「カナ」」

「何?」



「「ゴメンね」」



、、、

ベランダに出よう?とユキは私の手を取る。

引き摺られるように続く。

大した掃除もしていないベランダは色々汚れていたけど、それ以上に10月の寒さが寝間着の姿の私には辛い。

「ゆ、ユキ」

隣に立つヒトを、見られない。

白雪は何も言わずに、寝間着の袖を摘まんだ。

「なんで、ゴメンなの?」

「「聞きたい?」」

やっぱり白雪を見れない。

「・・・うん」

なら、顔を揚げて?

若干戸惑ったが、えいやと一息に顔を揚げた。

揚げた視界には、田舎町らしいショボくれた夜景と宇宙の輝石が境界線を失って瞬いていた。

近い光と遠い光。

生者と死者。

あの星はきっと墓標なのだろう。

嗚呼、星も街並みも、魅力的なのに怖い。

そしてどうしてか新鮮だった。

「「久し振りの外の風景はどう?」」

私はようやくユキを見られた。

少しだけ背が高いユキも街並みに目を落としていて、そこに表情の彩は無い。

「悪くない」

そっか。

「ねぇ、ゴメンてどういう事なの?」

もう時間はあまり無い、せめてユキの真意だけは聞きたい。

「「そのままの意味、だよ。

私はカナの想いには答えられない」」



「「私はカナが嫌いだから」」



え?

ユキは私を見て嗜虐的に嗤った。

私は、否定された。

否定されたのだ。

「嫌、い?」


「「うん、大っ嫌い」」


嫌らしい笑みを浮かべて、にこやかに言う。

こんな風にわらうユキを、今までに私は知らない。

「何でっ、ッいやぁ!?」

そして次の言葉を紡ごうとした時、私の袖を摘まんでいた指が手首に絡みついたかと思うと、ユキは強引に私を壁に押し倒した。


、、、


「「本当、大っ嫌い」」


夜景と星と月光を背負ってユキは言う。

「えっ…んんぅっ」

答える間も無く、唇を唇で塞がれる。

それは突然に過ぎた。

「やめ、ッ!」

私を壁に押し付ける身体が冷たくて、口内を強引に蹂躙する舌もまた冷たい。


舌と舌が絡み合って、唾液が吸われる。

その度に変な感覚が脳髄を蕩けさせる。

ユキはまるで腹を空かせた肉食獣のように、私を貪る。

「「くっ、んむっ〜ッ」」

定期的に喉を鳴らし唾液を嚥下し飽く事無く奥歯から前歯、から表と口の中を舐め回して、唾液を此方に流し込んだ。

何か喋ろうとすると、舌を絡ませて封じられた。水音が口から溢れて、密着した私達の胸元を生暖かく濡らす。

「んんんっ…」

「「…ン」」

舌でコロコロと色んな所を弄ばれる。

突然に始まって状況が飲み込めない。しかし、始まりと同様、唐突に口と口の交わりは終わった。

壁に力無くもたれる。

肺が空気を求める、喉が荒く喘ぐ。

「「・・・」」

離された私とユキの間で太い唾液の糸が架かかり、重力に引かれて雫となり胸元に落ちる。

息が荒いのは私だけだ。

「なんで…こんな事するの?」

何も語らないユキ。

嫌い、大っ嫌いと言ったのに強引にキスするユキ、私はそれでも嫌いになれなかった。

だからその真意を聞きたいが為に蕩けた口を開く。

「「・・・嫌いだから、傷付けたいから。貴女を傷物にしたいからよっ!」」


嘘つき


その言葉のどこに本心がある?

なんで握ったままの手が震えているの?

視界がぼやける、じんわりと涙が溢れる。また私は泣いてる、今日は泣き虫らしい。

ユキの伏せられた顔が涙で滲み、口だけが薄く何かを言うように動く。

ゴメン、ね?

その意味を逡巡する間もなく

「「ねえ、するよ?」」

そう言って、今度は首元にむしゃぶりついた。

「「んん…ッ」」

「ぁ…ッ」

首に走るこそばゆさと、恐らく快感と呼べる感覚。

吸われている、のだろう。

一度離して無造作に口の唾液の拭うと、今一度首に口を付ける。

ピリピリとした快感が、下腹部の疼きを助長させた。快感が最後まで達するか否かの所で口が離れた。

今度は、唇に軽く触れる程度のキスを一瞬くれる。

そしておもむろに立ち上がった。

「「ホント、大っ嫌い」」

私を見下ろすユキは吐き捨てるようにいったら、

吸われた首元がヒリッと熱く燃えた。

「「も〜、何でこんな奴と死ぬまで付き合い続けてたんだろう。アハハっ」」

無意識に痣になってる所を手で抑えるとまだ唾液で湿っていた。

一瞬だけ室内の時計を見たら、もう長身は12を指しかけていた。

「それでも私、好きだよ?」

ユキの顔が苦痛を我慢するように歪んで、そしてそれを強引に笑みに変える。

「「はははっ、残念。私はカナの事なんか大っ嫌い。

あ〜あ、こんな奴との夜景が冥土の土産になっちゃうなんて、ツイてないなぁ」」

じゃあなんで、ユキは泣いてるの?

「「煩いなぁ、もう」」

ずずっとユキは鼻を啜る。


、、、


そのまま動かないで、何も言わないで佇みながら、私達は部屋の時計がカチンっと長針と短針がてっぺんで重なる音を聞いた。


死神が、手にした大鎌を振り下ろした音だ。

残り1分を切る。

怖気が走った。


「「お終い、か」」


ユキは少しだけ名残惜しそうだ。

冷たい身体が、擦り切れるように色彩を失っていく。

色が、形が空間に溶けていく。

全身が総毛立った。


嫌だ

嫌だ

嫌だ


「「はぁ」」


嫌だ

嫌だ

嫌だ

「嫌だ、待って行かないでよっ!」


手を伸ばしてかき抱こうとするけど、もう実体は無かった。

朝霧が風に流されてかき消えるように。

「お願い、行かないでよっ…一人にしないでっ」

色水が流水に揉まれて透き通るように。

「嫌いでも良いから、何だっていいから行かないでっ!!!」

掴めないと分かっても、その幻影に縋り付く。

「「私の事なんて、早く忘れちゃいなよ。良い事無いよ?」」

昼間の説明が正しいのなら、文字通り存在そのものが、魂が消えるのだろう。

「そんな事、言わないでよっ!」

叫ぶ、けど時間は残酷な程に平等だった。

波打ち際に描いた文字と同じく、掻き回したラテアートと同じく、時と共ににユキは消えていく。

また、私は泣いていた。

泣けていた。

きっと今、彼女の死を納得したのだ。


泣きじゃくる私を見て、ユキは笑った。

さっきの嗜虐的な笑みじゃない。

普段、愛し見ていた笑顔だ。

「行かないで、置いて行かないでっ!」

彼女はもう、ほんの全身の輪郭を残すばかりになってしまった。

「お願いっ!傷物になったて良いよ、メチャクチャにしちゃっても良いから、だからさぁっ!」

ユキはふと、顔を仰いだ。


「「カナ、上を向いてご覧?」」


言われるがままに満月が微笑む夜空を見上げるけど、涙で何もかもがぐちゃぐちゃだ。

私の心とおんなじに。



「「月が綺麗ね」」



長針と短針、最後に秒針が重なった。


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