商人の娘 6
「はぁ……、まあアレだな。威力不足は練度不足ってことにしておくか。
いまのままじゃ戦闘には心もとないから、毎日練習はしとけよな? ――で、だ。
あーまぁ? 同じパーティになるわけだからぁ? 一応いっておくけど…………これからもよろしく、な」
若干の仕方なく感は出しながらも、フローラのパーティ加入を認める気になったみたいだ。
……たぶん、始めからそうするつもりだったと思うけどね。
「え、いいの? ――コホン。
いいよ。このわたしがニコちゃんの仲間になってあげましょう~」
フローラの方も負けてなかったみたいだね。
しかも、そんな事考える間に、どちらからともなく手なんて握ちゃってるし。
「調子いいこと言って……。
威力不足なのは本当だからな? マジで練習しろよ?」
「は~い、わかってま~す。ほらほら、ア~ちゃんも手だして~」
「へ? ぁ、うん」
そして、そこに重ねられる僕の手。
僕も忘れずに混ぜてくれる……ぅぅ、いい娘だなぁ。
「ねえねぇ、これからどうす――」
「GAAAOOOOOOOOOO!!!」
「「っ!?」」
という流れで、新たな仲間となったフローラが話し始めた……が、それを邪魔するように重低音な雄叫びが一帯に響いた。
そのお腹に響く野性味溢れる声に、二人はビクッと驚きを返している。
「今のって……熊かな? 多分、こっちの方からしたよね?」
声がした方向を振り向けば、木々の合間からのそりのそりと大きな生物が登場だ。
生命反応で何かが近付いて来てたのは分かってたけど、野生の熊だったかぁ。
「バグベアかよっ!? 標的が自らきてくれるなんてね……こ、好都合じゃんっ」
「えっ。これが討伐対象なの? ……ふーん」
どうやら、この熊を僕達は倒しに来ていたらしいね。
依頼の貼り紙には討伐対象の絵は載ってたけど、アレ毛むくじゃらの動物くらいにしか見えなかったんだよね。
書くなら、もうちょっと似せて欲しいよ。
というか、誰が書いてるんだろう? 受付嬢かな?
……あの人、絵はあまり得意じゃないみたいだ。
「む、り……っ!! 無理、むりっ、むりぃぃっ!?
なにあれすごく大きいよ!? ニコちゃんはともかく、あたしやアーちゃんよりも大きいんだよっ!
倒せるわけないよ!」
「……なんであたしを除いたのかは聞かないが、とりあえず落ち着け。
あたしたちがついてるんだから大丈夫だ」
早々にフローラの心が折れたみたいだ。
二メートルくらいはありそうだし、こんなの見たらそういう反応にもなるよね。
でもこいつ、Dランク推奨のモンスター――つまり、前に会った猪と同ランクの雑魚ってことなんだよねー。
「アイリス、あいつに一発入れてくれるか? そしたら、隙をついて一気に片づけるからさ」
「うん? んー……それだったら、フローラに魔法使ってもらおうよ。
ほら、実際にモンスターに使ったらどれくらいのダメージ与えられるのかって、知っておきたくない?」
雑魚モンスターってことは、僕が一発攻撃した時点で倒しちゃいそうだからね。
せっかくこんな森の奥まで来たんだし、もうちょっとゆっくりやろうよ。
「……そもそもダメージになるとは思えないんだけど……ま、アイリスのが魔法は詳しいしな。
いう通りにしてみるか。ってことで、フローラさっきのうぉーたーぼーるだったか?
アレ、あいつに当ててみてくれ」
「ぇっ、え? ……うんっ、やってみる! んー…………っ」
オロオロしてたと思ったら、素直に頷いて魔法の発動準備に入るフローラ。
二コラの言葉で落ち着いたのかな? う~ん、信頼してるねぇ~。
ちなみに、バグベア? とかいう熊は、こちらの様子を窺っているだけで襲っては来ないみたいだ。
警戒心が高いのか、それとも僕達には興味がないのか……。
まさか、こんな凶暴そうな見た目して、実は草食だったりするのかな?
「――<ウォーターボール>っ! お願いっ、当たってぇ~!」
なんて事をぼーっと考えてたらフローラの魔法が発動した。
彼女が放った水の弾は、さっきと同じように大きな放物線を描き、熊へと飛んでいく。
対する熊は、魔法の発動に一瞬戦闘体勢となったが、結局その場から動かなかった。
水の弾が大きく上空に飛んだことで、外したと勘違いしたんだろうね。
そして、放物線の頂点を越えた水の弾が、標的目掛けて降下していき――
「GAUUッ!?」
「おー、また当たったね~。しかも、顔に命中になんてダメージ大きいんじゃないの?」
上への警戒が疎かな熊は、水の弾を顔面で受けていた。
頭って大抵弱点になるよね。もしかしたら、一発でノックアウトになるんじゃないの?
「GAAAUUUUUUUッ!!」
「ね、ねぇ、アーちゃん? ……これ、効果あったのかな?
モンスターさん元気みたいだよ? すごく元気に叫んでるよっ!」
フローラのいう通り、熊モンスターは彼女の魔法を受けても何の痛痒も感じてるようには見えない。
僕も雑魚モンスターから攻撃された時、ダメージを受けないというか、痛くも何ともないのと同じだね。
「い、いやいや、そんなことはないよ! ほら、あの顔を見てっ!
さっきよりも何かこぉ……、落ち込んでるような? 弱ってるような……何かそんな感じしない??」
けど、ホントの事を言って、「冒険者なんてやめる!」とか言い出されたらもったいないので、それっぽいことを言ってみた。
頑張って考えたからね。ちょっと無理があった気もするけど、十分フォローになったはず――
「しないわ! たんに毛が濡れたせいだわ!!」
はい、そうだよね……。フォロー出来てないよね……。
良かれと思ってやったのに怒られたよぉ。
「だから、威力不足つっただろ! ――まずいっ、いまので怒らせたかっ!
こっからはあたしがやる。フローラは観戦してろ――冒険者の戦いがどんなもんか、しっかり見とけよなっ!」
「ニコちゃんっ!?」
こっちを振り返りもせず、一連のセリフを吐いて熊に突撃していく二コラ。
いつもはあんな事言わないのに……フローラの前だからって、カッコつけたね。
「アーちゃんっ、ニコちゃんをとめてっ!! あんな大きなモンスターさんに攻撃されたら、ニコちゃん死んじゃうよぉーっ!!」
「ん? そうかもしれな――二コラなら何の問題もないよ。
二コラだって、冒険者になって成長してるんだからさ。大丈夫、ボク達は見守っててあげよう?」
「っ!!」
そう。僕が魔法の加減をマスターしたように、彼女も冒険者をしてる中で成長していた。
おそらくは、その成長の中で最も分かりやすい成果を見せてくれようとしてるんだと思うね。
「バグベア! あんたごとき、あたし一人で相手してやんよっ! <フルスイング>!!」
両手で握りしめた、その小さな身体では逆に振り回されてしまうのではないかと心配させる程に大きなハンマーを、標的目掛けて振り抜く。
それは防御を考えない、ややもすれば捨て身の一撃だ。
いま発動したスキルは防御力が下がる代わりに、攻撃力を上げる効果があったはずだよ。
二コラ、何にも使えるスキルなかったらしいから、たった数日でも成長するものなんだね~。
「うおらぁぁぁぁぁぁっ!!」
「GAUU!!」
対して、律儀にも大きな腕で対抗してくれる熊。
ハンマーの分があるとはいえ、リーチの上では熊の方に分があるんだから、無防備な本体を攻撃すればいいのにね。
なーんて冷静に眺めていると、カンッ! と甲高い音が響いて、重そうな物体が弾き飛ばされた。
クルクルと回って二コラの背後に落ちたそれは――どう見ても、彼女のハンマーだね。
「……へ?」
「GAAAOOOOOOO!!」
うーんと…………まあ、成長してたとしても、それと勝てるかどうかは別物だよね~。
というか、二コラの事はよく知ってるよアピしてみたのに、これじゃあ台無しなんだけど?




