商人の娘 5
「さ、あたしらも依頼みつけるよー」
リーゼ達がいなくなり見やすくなった掲示板を二人で眺める。
思ったよりも時間とられちゃったし、そろそろ僕達もどの依頼を受けるか決めないとね。
「どんなのがいい? せっかくだからDランク向けのにしてみる? それとも、今日はまだ――」
「ニコちゃん……っ、アーちゃん……っ」
と、依頼内容を確認し始めたところで、背後から思ってもみない人物の声が聞こえてきた。
咄嗟に振り返れば――既に三人称視点で確認済みだが――やはり、思い描いた通りの美少女が立っていた。
「あれ、フローラ? 冒険者ギルドに用事?」
「え゛っ。……どうしてここにいるんだよ。ここはおまえのくるところじゃないだろ」
拗ねた二コラの一言が効いたのか、心なしか彼女は震えているようにも見える。
いや、違うかな? そうじゃなくて、もしかして……泣いてる?
「……っ。お願い、わたしも二人のパーティにいれて……っ!!」
***
場所は変わって、近隣の山の中へと移動してきた。
主目的はもちろん、冒険者ギルドで受けた依頼のためではあるんだけど、今は珍しい同行者を二人で見守っているよ。
「んんーっ、<ウォーターボール>! どうかなどうかな? 魔法、ちゃんとつかえてるでしょ?」
少し興奮気味なフローラのひらの上には、水で出来た小さな球体が出現していた。
彼女はそれを見せつけるように差し出してくる。
「うんうん、間違いなく魔法だよ。フローラって魔術師だったんだぁ~」
「っ! そうだよア~ちゃん。なにを隠そう、わたしは未来の大商人であり、大魔術師でもあるのだあ~!」
僕が感心してる素振りを見せたら分かりやすく上機嫌になったね。
ふよふよと浮かぶ水の塊を誇らしそうに持ってて、今にも「フンスッ!」と言いそうなくらいだ。
あ、そうだ。何をやってるのか説明しないとだよね?
フローラがパーティに入りたいって言ってきたから、試験? みたいなことをする流れになったんだよ。
それで、彼女が得意だっていう魔法を見せてもらってたわけだね。
この世界でも魔法が使える人って割と貴重らしいから、合格はもう決まったようなものじゃないかな~。
「うーん……。どっちかっていうと、ちゃんと戦えるのか知りたかったんだけどなぁ……。
他の魔法は使えないんだっけ? 攻撃魔法とか」
と思ったけど、二コラは納得してなかったね。
二コラだってフローラのことが大好きなんだから、素直に入れてあげればいいのね~。
え? お前は美少女だから仲間にしたいだけだろって?
い、いやぁ? そんなこと……ないですよぉ?
「攻撃魔法? ふふ~ん。
そんなのよりこっちのが大事なの、ニコちゃんにはわからないかな~。
……なんとこれ、飲み水になるんだよ!」
「ん? 飲み水……? えーと……うん。た、確かにね?
飲み水の確保? って、どんな時でも必要になるよねー?
あ。じゃあせっかくだし、一口もらっちゃおうかな~」
一言断ってから、パクっと空中に浮いているそれを口に含む。
ちょうど一口分の量だね。
冷たく澄んでいて……ほんのりと甘い――おそらく、美少女成分が溶け込んでいるからだろうね。
おっと、さすがにこれは口にしない方がいいかな。
「んんっ、冷たくておいしい~」
「でしょ~? 行商について行ったときは、こうやってお手伝いしてるんだ~」、
「いや、じゃなくてっ。そうじゃなくて!
モンスターに襲われた時、どうすんのってこと!
あたしらも守るけどさ……戦う手段がなんもないのは不安でしょ?」
なんだ、フローラのことを心配しての言葉だったのね。
……結構、過保護なのかな?
冒険者になろうとしてるんだから、危険があることくらい本人も分かってると思うんだけど。
「やっぱり、フローラに冒険者は向いてないと思うぞ?
だいたい、なんで急に冒険者になろうと――って、そんなの決まってるか……。
ホラーツのことだよな……そこまで悪い状況なのか?」
おっ、根本的なところに斬り込んだね。
僕からは聞きにくかったから、聞いてくれて良かった~。
「…………たぶん、そう。
パパ、詳しいことは教えてくれないから、正確にはわからないの……。
でもね、毎日一緒なんだよ? パパが追い詰められてるのくらい、わたしだってわかるよっ!」
「…………」
僕には、フローラの父親のことは分からないけど。
真剣な彼女の表情が、事態が相当に逼迫してることを教えてくれる。
ってことで、一緒に冒険者してお金貯めないとだね!
そうと決まればさっそく――
「事情はだいたいわかった――が、やっぱりフローラは冒険者になるべきじゃない。
金をかせぐ方法なら他にもあるし……ほら、自分でもいってただろ? 『報酬が多くても、命には釣り合わない』って。
あたしがいうのもなんだが、間違った考えじゃないしな」
「……うん、そこは変わってないよ? でもね、いまは時間が大事なの。
冒険者よりお金がもらえる仕事って、ないんだもん」
二コラはあくまでフローラに冒険者になって欲しくないみたいだけど、フローラも引く気はないと。
このままだと話が進まないし……ここは少し強引にでも、僕が話を進めるしかないね!
「とりあえず、攻撃魔法が使えればいいんだよね?
それなら簡単――というか、もう使ってたよ?」
「えっ? どういうことなのアーちゃん? わたし攻撃魔法なんて…………」
「んーと、気付いてないだけなのかな? じゃあ、実演した方が早いね。
<ウォーターボール>で、的はあの木がいいかなっと」
フローラが生み出したものと同じサイズの水の球体を自分の手の上に生み出して、近くの木に向けて放つ。
一直線に飛ぶ水の弾は、即座にして狙った木に命中し――指先程度の穴を残した。
「ね? もう使ってたでしょ?」
よし。何回も魔法を使ってたおかげで、魔法の扱い方が上手くなってるね~。
……え、どこがって?
ふふふ。ちょっと前の僕だったら木を薙ぎ倒したりして、二人に引かれてたところでしょ?
それなのに木は健在。いや、それどころか穴も木の半ばくらいまでで貫通もしてないんだよ~。
うんうん、力加減はマスターしたと言っても過言じゃないね。
「ぇ、アーちゃんも魔術師だったの? ……ううん、そっちよりも気になることがあるよね。
これ、別の魔法じゃないの? わたし、こんな怖い魔法使ってないよ……」
「またまたぁ~、どう見ても同じ魔法だったでしょ~?」
僕が軽い調子で言ったからかもしれないけど、半信半疑って顔されたんだけど?
……おかしいなぁ。発動時に出現する魔法陣も見てるんだから、何の魔法か分かってるはずなのに。
「ま、いっか。フローラも試してみてよ。そうすれば、同じことができるって分かるから」
「そうだよね、やってみなくちゃわからないよね……っ!
んぅぅっ……<ウォーターボール>! それで、え、と。
たぶん、木にむかって『飛んでいけ!』って思えばいい……はずっ、きっと! ――いけっ!」
可愛らしい掛け声に合わせて、新たに作り出した水の球が彼女の手元を離れた。
それは大きな放物線を描いて飛んで行き……おそらくは、狙った通りの木に命中した。
「で、きた……? できたよっ、ア~ちゃん!」
「う、うんっ、すごいよフローラ! しかも、やったね、命中だよ! お、おめでとう~」
ひまわりみたいな満開の笑顔を咲かせたフローラが、僕の両手を握ってぴょんぴょんと跳ねている。
魔法のことよりも、この可愛い動きに驚いちゃったよ。
まあ、ウォーターボールは本来こうやって使うもののはずだから、むしろ彼女の使い方がイレギュラーだったんだけどね。
「できたっていっても、少し濡れただけ、か……。
これじゃあ、モンスターにはダメージにならないよなぁ」
そんな二コラの小さな呟きが僕にだけ聞こえてきた。
もう一度フローラの魔法が命中した木を見てみるが、表面が軽く濡れた程度で大きな変化はなかった。
んー確かに、攻撃魔法と呼べるかは怪しいラインかなぁー。
……水やり魔法って言った方が正確かもしれないね。




