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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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輝く花 1

「お、おめでとうございますっ。こちらが新しい冒険者プレートですっ」


「ん、どうも……」



 受付嬢が緑色の小さな木の板をニコラへ手渡した。


 要するに、彼女がEランクの冒険者に昇格したってことだよ。

 ここ数日で簡単な討伐依頼をいくつかクリアしたから、順当だね。


 ……まあ、簡単過ぎたせいでほとんど記憶に残ってないくらいだけど。



「昇格おめでとう~……って、あんまり嬉しそうじゃないね?

 どうしたの? もしかして、まだあのこと気にしてたり……」



 ニコラは片手に収まる粗末な板を、複雑そうな表情で見つめている。


 高位の冒険者になるのが目標みたいだし、ランクが上がったのならもっと喜んでもおかしくないのに……。

 やっぱり、自信満々だったのに酔い潰れたり、レイスに驚かされて気絶しちゃったり、翌日一人ではいられなくなったり……そんなアレコレが尾を引いてるのかな?



「? ……な、なにかあったのでしょうか?」


「それは忘れろ、っていったっしょ?

 ――そっちのあんたも、よけいなことは気にしなくていいから」



 幼女に険しい顔で睨まれてしまったよ。

 まぁ睨まれたと言っても、幼女の愛らしい視線に変わりはないんだけどね~。


 ただ、この気弱な受付嬢には効果があったようで、それ以上は聞けなくなったみたいだ。

 ご丁寧にも、手で口を覆って「もう余計な事は言いません!」ってアピールまでしてるし。



「あー、そうだったね~。ごめんごめん、忘れてたよー」



 謝ってはみたものの、弱ったニコラは可愛さ増し増しだったからね。

 あの姿は永久保存版として、忘れることはないだろうなぁ。



「くっ、絶対忘れる気ないだろ、コイツ……っ。

 はぁ……、こほん。それはまあ、いまは置いとくとして――なんであんたはDランクになってんのさぁ」



 ニコラが言うように、僕の首元にある冒険者プレートはDランク冒険者の証である黒色の板に変わっていた。


 一緒に行動してる僕もランクが上がるのは当然ではあるんだけど、こういうのってランクが高くなるほど条件が厳しくなるんじゃないのかな?

 どうして、同じタイミングなんだろう?



「だよねー。ボクも昇格の基準がよく分からなくて『え、もう上がるの?』って、自分でも思っちゃったし」


「いつも通り軽いな……(あたしは、あんたに追いつけたって、ちょっとうれしかったのに)」



 それは消え入りそうな程に小さな呟き。

 しかし、その呟きに僕は小さくはない衝撃を受けていた。


 彼女がランクを上げたい理由に、僕のことなんて関係なかったよね……?

 えっ、ということは彼女の中において僕の存在がそれだけ大きくなった、と――そういうことだよね?


 こっちの方が断然重要だよ~。



「あのぉ。アイリスさんは今のパーティを結成される前の功績がありまして……そちらも加味した結果、Dランク昇格となっておりますぅ。

 で、ですが、ニコラさんもこの短期間でEランクに昇格されたのは、すごいと思いますよっ。

 少なくとも、私がこちらの職員を始めてからは最速ですから……っ!」


「あ、あぁ……。ありがと」



 心の中で勝手に舞い上がってたら、珍しく受付嬢が饒舌(じょうぜつ)に捲し立てて来たね。

 どうしたんだろうね? 突然のことで、ニコラも引き気味だよ。


 ……というか、ここの受付嬢は早く昇格した事を褒めてくれるの?

 確か、「あんまり無茶するのは良くない」とかなんとかって、前にいたギルドでは怒られたような…………。



「ま、そんなことはどうでもいいや。

 じゃあ、これからどうしよっか? 今日は新しいプレートもらったし、もう帰る?

 あ、昇格祝いなんていいと思わな――」


「せっかくだから! Eランクの依頼うけるぞ。

 まだまだ喜んでられるランクじゃないしな」



 話を強引に断ち切ったニコラは、そう言って掲示板の方へスタスタと行ってしまう。


 ふむ。こうやって無理矢理引っ張っていってくれると楽でいいね!

 彼女も僕のことをなかなか理解してきたみたいだよ~。




 ***




 冒険者ギルドの掲示板には、様々な依頼内容が書かれた紙切れが所狭しと掲載されている。

 その中で、僕はとある依頼の貼り紙を眺めていた。



「ん? そっちにあるのはランクがまだ足りないぞ? あたしら向けのはこっちな」



 ニコラが掲示板の隅の方を指差している。


 どの依頼でも冒険者ランクという制限は設けられていて、それをクリアしていなければ受注することは出来ない。

 ただし、パーティの場合はその中の最高ランクが上限になるらしく、今の僕達ならDランクまでは受けることができる。



 とはいえ僕達が低ランクに属することには変わりないので、彼女の言うように低ランクの依頼が集まるとこだけを見れば十分なんだけど――



「気の早いヤツだなぁ。それ、今のあたしらじゃ受けられないからな?」


「あ、うん。ちょっと気になったものがあったから、見てただけだよ」


「気になったってなにを……って。あー、そういうことか」



【急募!! 迎撃依頼:ファイアワイバーン】

 必須ランク:A以上

 報酬:金貨百枚  ※追加報酬の用意あり

 備考:都市近郊に出現した、ワイバーンを討伐ないし撃退せよ。

 本件は大変な危険を伴うものであり、命を惜しまない者の参加を歓迎する!



 こんな依頼があったから、つい目が止まっちゃったよ。

 備考とか、ずらずら書かれるとそれだけで読む気なくすから斜め読みだけど、他のはシンプルなものばかりだから気になっちゃうね。




「……ホラーツには同情するけどさ。

 ワイバーンなんてバケモノに挑むのは、ほんとーーにっっ! 無謀だからな?

 アイリスだって、それくらいはわかってる……よな?」



 いつになく必死に訴えられてしまった。

 ワイバーンって強いかな? うーん、弱かったと思うんだけどなぁ。


 まぁでも、ノラ達が簡単に()られたくらいだから、一般的にはそういうものなのかもね。



「……うん、もちろん分かってるよ。

 心配しなくても、ゴブリンの時みたいに近寄っていったりしないってー。

 それで――ほらーつって、誰なの?」


「はぁ? ……名前聞いてないのか? ほら、フローラの親父(おやじ)だよ。

 商会で会ったから、わかるよな?」


「ぁぁ、あの人のことね。言われてみれば、そんな名前だった気がする。

 ど、ド忘れしちゃってたなぁ、あはは……」



 で、どうしてフローラの父親の話が出たんだろう?

 んんー……。あっ、そういえば商会で見てた時に、ワイバーンにキャラバンが襲われたって副店長と話てたような気がする……。


 もしかして、あれの犯人ってこいつなの?



「……。さ、いいかげん依頼さがすぞー。いつまでも遊んでいられな――っ!?」



 無駄話を切り上げて、低ランク向けの依頼が集められたエリアに視線を戻したところで、ニコラが固まってしまった。

 何か面白いものでも見つけたのかな? アレ、何か見覚えのある人達が……何となく、メンドーなことになりそう……。


 フードを深く被って、<隠密スキル>も発動して――うん。静かにしてやり過ごすことに決めた、っと。

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