パーティ結成 11
「あ、そこ危ないわ。ほら、こっち」
「うん、ありがと~」
優しい言葉と共に軽く手を引かれて、僕は素直に従う。
この暗い森の中を明かりもなしに進んでるから、こんなやりとりも何度目かになるね。
先が全く見えないのは少し不安だけど、こうやって丁寧に扱ってもらえるのは案外悪くないな~。
「大したことじゃないのに、礼なんていわなくていいから……っ。そ、それよりもっ!
そろそろセイメイカが生えてるポイントが近いんだから、アイリスもまわりに注意しろよな!」
あー、そうだった。そのなんとかって花を探すためにここへ来たんだった。
夜の森を二人で散歩してたら、もういいんじゃないかな~って、思い始めてたよ。
「はーい、了か……あ。その花の事、ボク何も知らないや。
夜になると光るって事はさっき聞いたけど、それ以外の特徴って何かあるの?」
「光ってる花なんて他に聞いたことないし、それで十分――お、そんなこといってたらみつけたわ。
あそこに見える光がそう……じゃ、ない? なんだアレ??」
いつの間にか、少し離れた場所にボヤっとした赤い光が現れていた。
彼女は初め、それを目当ての花だと考えたようだが、「何かが違う」と気付いたようだ。
「よく見えないけど、光ってるんだしアレじゃないの?」
「セイメイカの光は青白いはずなんだ。
だから、アレはちが――え、増えた……?」
ニコラに向けていた視線を戻すと、確かに先程まで一つだった光が二つに増えている。
さらに、その赤い光は次第に大きくなっており、まるでこちらへと迫って来ているように見えなくも――
「てか、こっち来てんじゃん!?」
「あー、ホントだぁ。どんどん近づいてるね~」
「のんきだなっ!? いや、あんたはいつもそんな感じか……??
って、いってる場合じゃないでしょ、あたしっ!
と、とにかく逃げるよっ!!」
慌てた様子の彼女に手を引かれて、暗闇の中を走り出した。
うーん、もっと怖がってる感を出すべきだよね……。
でもタネが分かってると、どうしても緊張感が不足しちゃうなぁ。
「ア、アレー? よく見たら光じゃなくて、火っぽくなーい?」
「なっ!? なんで火が浮いて……っ! しかも、追いかけてくるんだよっ!?」
僕のワザとらしい棒読みセリフにも、本気の驚きで返してくれる二コラ。
優しいなぁ……まあたぶん、それだけ余裕がないんだろうけど。
「そうか、モンスターだっ!! アイリス、あいつに水魔法を使ってみて!」
「ふぇっ? ……ま、魔法?」
どうやら、モンスターの可能性に思い当たってしまったみたいだね。
まさか気付かれるとは思ってなくて変な声が出ちゃったよ。
おっと、それはいいとしても魔法はマズいかなぁ。
水魔法なら効果はないと思うけど、間違って効いたら困るし。
なにより、お化け役の人? に攻撃するのはマナー違反だよね。
「あー、ちょっとそれは…………。は、走りながら魔法使うのはむ、難しいなぁ?」
「くっ、魔法は集中しないとつかえないかっ! だからって立ち止まる余裕はなさそうだし、どうしたら……っ」
僕のテキトーな言い訳で納得してくれたよ。
一般的な魔術師がそういうものなのか、それとも彼女が魔法に疎いだけなのか。
どっちなのかは分からないけど、今は好都合なので掘り下げるのは止めとこっと。
「走っても走っても全然引き離せてない……。
ねえ、アレって本当にモンスターなのかな? もっと怖いものかもしれないよ?
そんなのに、もし追いつかれたらボク達…………」
「し、心配すんなっ! 追いつかれるわけないんだから、あんたは前だけ見てなってっ!」
握った手にぎゅっとされる感触を得て、彼女から言葉以上の思いを感じたような気がした。
いいね~、なかなかに盛り上がってきたんじゃない~?
――とその時、前方にも光が見えてきた。
「ん? え、前からも光? もしかして、他にもモンスターが……?」
「この青白い光は……っ、きっとこんどこそ本物のセイメイカだ!
想像してたよりも光が強いし、これなら――アイリス、あそこまでいったら後ろの火の玉と戦うよ!!
あたしが囮になるから、そのすきに魔法を頼む!」
「あ、えぇと。で、でも、それだと二コラが危ないよ?」
「このまま逃げるだけじゃジリ貧だし、あんだけ明るけりゃあんた一人でも動けるでしょ?
……だいじょうぶ。あんな消えかけの火なんかに、あたしがやられるわけないじゃん」
前を走る二コラが振り返り、優しく微笑んでくれた。
それはいやに穏やかで、何かを確信しているような表情だった。
そして、そのまま光を発し続けるその場所へ到達すると――星屑の海のド真ん中に僕達は放り込まれた。
足下では無数の光点が輝き、頭上は相変わらずの暗闇が支配する。
まるで地面と空が反転したかのような錯覚をしてしまう。
「きれい…………」
漏れ出た言葉が静寂の夜の森に溶けていく。
その呟きは果たしてどちらのものだったのか、僕達自身にも分からないくらい自然に出たものだった。
「――はっ!? 火の玉は……消えた??」
現状を思い出した二コラが後ろを振り返ったが、しかし、そこには元の暗闇が延々と広がっているだけだった。
んーと……これで終わりなのかな?
もうちょっとスリルがある感じだと思ってたけど……まあ、想定とは違ったけど良いものが見れたから、いいか~。
「どこ行っちゃったのかな?
う~ん、いきなり消えるっていうのもおかしいし、ボク達の見間違いだったりしてね~」
「アレが見間違いだったなんてありえなっ!? ――い、いや、そうだよな……。
ないものはない! コレが現実なんだっ、ちゃんと現実を受け入れるべきだよなっ!
アイリス、この袋に花を集めるぞ! で、すぐに街にかえる!」
「え、そんなに急いで帰らなくても良くない? ゆっくりしてから……う、ううん、何でもないです……。
さ、さぁ早く袋を一杯にして、帰ろっか~」
二コラがジーーっと見つめてくるよぉ。絶対「ふざけたこといってないで早くしろ」って目だぁ。
せっかくいいフインキの場所に来たから、名残惜しいと思っただけなのになぁ。
割とガチで拒否られてちょっと傷ついたので、この後は黙々と花集めに専念したのであった。




