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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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パーティ結成 11

「あ、そこ危ないわ。ほら、こっち」


「うん、ありがと~」



 優しい言葉と共に軽く手を引かれて、僕は素直に従う。


 この暗い森の中を明かりもなしに進んでるから、こんなやりとりも何度目かになるね。

 先が全く見えないのは少し不安だけど、こうやって丁寧に扱ってもらえるのは案外悪くないな~。



「大したことじゃないのに、礼なんていわなくていいから……っ。そ、それよりもっ!

 そろそろセイメイカが生えてるポイントが近いんだから、アイリスもまわりに注意しろよな!」



 あー、そうだった。そのなんとかって花を探すためにここへ来たんだった。

 夜の森を二人で散歩してたら、もういいんじゃないかな~って、思い始めてたよ。



「はーい、了か……あ。その花の事、ボク何も知らないや。

 夜になると光るって事はさっき聞いたけど、それ以外の特徴って何かあるの?」


「光ってる花なんて他に聞いたことないし、それで十分――お、そんなこといってたらみつけたわ。

 あそこに見える光がそう……じゃ、ない? なんだアレ??」



 いつの間にか、少し離れた場所にボヤっとした赤い光が現れていた。

 彼女は初め、それを目当ての花だと考えたようだが、「何かが違う」と気付いたようだ。



「よく見えないけど、光ってるんだしアレじゃないの?」


「セイメイカの光は青白いはずなんだ。

 だから、アレはちが――え、増えた……?」



 ニコラに向けていた視線を戻すと、確かに先程まで一つだった光が二つに増えている。

 さらに、その赤い光は次第に大きくなっており、まるでこちらへと迫って来ているように見えなくも――



「てか、こっち来てんじゃん!?」


「あー、ホントだぁ。どんどん近づいてるね~」


「のんきだなっ!? いや、あんたはいつもそんな感じか……??

 って、いってる場合じゃないでしょ、あたしっ!

 と、とにかく逃げるよっ!!」



 慌てた様子の彼女に手を引かれて、暗闇の中を走り出した。


 うーん、もっと怖がってる感を出すべきだよね……。

 でもタネが分かってると、どうしても緊張感が不足しちゃうなぁ。



「ア、アレー? よく見たら光じゃなくて、火っぽくなーい?」


「なっ!? なんで火が浮いて……っ! しかも、追いかけてくるんだよっ!?」



 僕のワザとらしい棒読みセリフにも、本気の驚きで返してくれる二コラ。

 優しいなぁ……まあたぶん、それだけ余裕がないんだろうけど。



「そうか、モンスターだっ!! アイリス、あいつに水魔法を使ってみて!」


「ふぇっ? ……ま、魔法?」



 どうやら、モンスターの可能性に思い当たってしまったみたいだね。

 まさか気付かれるとは思ってなくて変な声が出ちゃったよ。


 おっと、それはいいとしても魔法はマズいかなぁ。

 水魔法なら効果はないと思うけど、間違って効いたら困るし。


 なにより、お化け役の人? に攻撃するのはマナー違反だよね。



「あー、ちょっとそれは…………。は、走りながら魔法使うのはむ、難しいなぁ?」


「くっ、魔法は集中しないとつかえないかっ! だからって立ち止まる余裕はなさそうだし、どうしたら……っ」



 僕のテキトーな言い訳で納得してくれたよ。


 一般的な魔術師がそういうものなのか、それとも彼女が魔法に(うと)いだけなのか。

 どっちなのかは分からないけど、今は好都合なので掘り下げるのは止めとこっと。



「走っても走っても全然引き離せてない……。

 ねえ、アレって本当にモンスターなのかな? もっと怖いものかもしれないよ?

 そんなのに、もし追いつかれたらボク達…………」


「し、心配すんなっ! 追いつかれるわけないんだから、あんたは前だけ見てなってっ!」



 握った手にぎゅっとされる感触を得て、彼女から言葉以上の思いを感じたような気がした。

 いいね~、なかなかに盛り上がってきたんじゃない~?


 ――とその時、前方にも光が見えてきた。



「ん? え、前からも光? もしかして、他にもモンスターが……?」


「この青白い光は……っ、きっとこんどこそ本物のセイメイカだ!

 想像してたよりも光が強いし、これなら――アイリス、あそこまでいったら後ろの火の玉と戦うよ!!

 あたしが囮になるから、そのすきに魔法を頼む!」


「あ、えぇと。で、でも、それだと二コラが危ないよ?」


「このまま逃げるだけじゃジリ貧だし、あんだけ明るけりゃあんた一人でも動けるでしょ?

 ……だいじょうぶ。あんな消えかけの火なんかに、あたしがやられるわけないじゃん」



 前を走る二コラが振り返り、優しく微笑んでくれた。

 それはいやに穏やかで、何かを確信しているような表情だった。



 そして、そのまま光を発し続けるその場所へ到達すると――星屑の海のド真ん中に僕達は放り込まれた。


 足下では無数の光点が輝き、頭上は相変わらずの暗闇が支配する。

 まるで地面と空が反転したかのような錯覚をしてしまう。



「きれい…………」



 漏れ出た言葉が静寂の夜の森に溶けていく。

 その呟きは果たしてどちらのものだったのか、僕達自身にも分からないくらい自然に出たものだった。



「――はっ!? 火の玉は……消えた??」



 現状を思い出した二コラが後ろを振り返ったが、しかし、そこには元の暗闇が延々と広がっているだけだった。


 んーと……これで終わりなのかな?

 もうちょっとスリルがある感じだと思ってたけど……まあ、想定とは違ったけど良いものが見れたから、いいか~。



「どこ行っちゃったのかな?

 う~ん、いきなり消えるっていうのもおかしいし、ボク達の見間違いだったりしてね~」


「アレが見間違いだったなんてありえなっ!? ――い、いや、そうだよな……。

 ないものはない! コレが現実なんだっ、ちゃんと現実を受け入れるべきだよなっ!

 アイリス、この袋に花を集めるぞ! で、すぐに街にかえる!」


「え、そんなに急いで帰らなくても良くない? ゆっくりしてから……う、ううん、何でもないです……。

 さ、さぁ早く袋を一杯にして、帰ろっか~」



 二コラがジーーっと見つめてくるよぉ。絶対「ふざけたこといってないで早くしろ」って目だぁ。

 せっかくいいフインキの場所に来たから、名残惜しいと思っただけなのになぁ。


 割とガチで拒否られてちょっと傷ついたので、この後は黙々と花集めに専念したのであった。

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