酒場の看板娘達 7
「おかわりぃ……はやくぅ、もってこーぃ……」
耳元をすくぐるように可愛らしい寝言が聞こえてくる。
なんと今、僕の背中では愛らしいドワーフが無防備に寝てるんだよ~。
どうしてこうなったかというと……
「ドワーフのくせに、あれくらいで酔いつぶれるなんて情けないわね」
「それ、見てただけのカルラちゃんがいえることじゃないよ……」
もちろん、彼女が泥酔するまで僕が負けなかったからだよ。
……ドワーフよりも強いだなんて、いくら何でも酒豪過ぎるよね……。
「アイリスさんは大丈夫なんですか? かなり……というか、二コラさんよりも飲まれてたと思うんですが……」
「そ、そうだねぇ。ニコラも周りも飲めってうるさいから、ちょっと流されちゃったかなー」
心優しいアンジェは、僕のことも心配してくれてるよ。
途中から集まって来て、面白半分に「飲め! 飲め!」コールしてた観客とは大違いだね。
もしかしたら、酔った後に介抱すると見せかけて、色々しようとしてたのかもしれけど……ま、僕にはこれがあるから不可能だったね。
「でも大丈夫、酔ってない……というか、たぶん酔えないからね」
「?」
久しぶりに意識の内に入ってきた半透明のウィンドウに、こんな表示が出ていたんだよね。
【ログウィンドウ】
<毒耐性>が発動しました。
酒――というよりもアルコールなのかな? ――は毒判定になるみたいだ。
いくら飲んでも「酔った感覚が全然しないなぁ」と思ってたら、スキルの影響だったというわけだね。
酔えもしない酒ね……うん。やっぱり、現世でも酒はあんまり飲まないだろうなぁ。
「受け答えもはっきりしてますし、足取りも確かなので大丈夫だとは思いますが……。
ニコラさんはわたしが運びましょうか? もし転んだりしたら、危ないですし」
本気でこちらの事を心配していると理解出来る程、一直線な瞳で見つめられてる……っ。
本心を言えば、背中の暖かな感触は手放したくない! けど、この綺麗な目を見てると、頷くべきだって思えてくるぅ……。
「そこまでしなくてもいいんじゃないかしら?
アイリスって意外に力あるし、このくらい楽勝だと思うわよ」
「か、カルラちゃん失礼だよ!
アイリスさんだって女の子なんだから、嫌かもしれないよっ!」
僕は馬鹿力だと認識されてるみたいだね。
美少女に力持ちって言われるのも、ま~悪くないかな~。
「ううん、心配してくれてありがとね。
カルラの言う通り、ニコラをおんぶするくらい何ともないから、大丈夫だよ~」
考えてみると、ニコラはいつも通り斧や防具を身に着けてるから、かなり重いはずなんだよね。
だから、たぶんアンジェには持てないかな…………。
あ、「重過ぎて、押しつぶされそうになってるアンジェも見てみたいな~」なんて、考えてないからね?
「それじゃ、そろそろ行くね? また来るから~」
「ええ、明日も待ってるわ」「はい、また明日です」
どうやら明日も来ることは確定してるみたいだね。
こうなってくると、毎日通って常連にならないといけないな~。
***
「んぅ…………んん? えっ、ここ……どこ?」
簡素なベッドで身を起こした幼女が、部屋を見回して不安気に呟いた。
おそらく、彼女の記憶に合致する場所が存在しなかったために、軽く混乱しているのだろう。
「あ、起きたね。ここはボクが泊ってる宿だよ~。
ニコラがどこに住んでるか知らないから、とりあえずここに運んだってわけだね。
……ボーっとしてるようだけど、体調とか大丈夫かな?」
「アイリスの……?
昨日はあたし、あんたと一緒に酒場へ行ってそれで、それで……。
うわぁ、やらかしてんじゃん…………」
彼女は昨日の一連の流れを覚えているようで、顔を隠すようにポフンと再度ベッドに横になった。
とりあえず元気そうだし、二日酔いとかもなさそうだね。
「あー、その……さ。迷惑かけた、ゴメン……」
「ん? 別にいいよ。全然、ぜーんぜん、迷惑じゃないから」
「ほんと……?」
こちらの様子を窺うためだろう、隠れていた顔を一部だけ出して問いかけてくる。
そこから見える顔は見事に赤く染まっており、彼女の照れ具合が分かるようだ。
彼女のこんな弱った姿が見られるなんて、連れ帰ってきて正解だったよ~。
「うん、ホントホント。迷惑だなんて、これっポッチも思ってないよ」
「そっか、あんがと……。あれ、この服……?」
「そのままだと寝にくいだろうから着替えさせたんだよ。
でもボクのだと、サイズ合ってないよね? ゴメンね、でもそれくらいしかなくてさ~」
いわゆる"彼シャツ"ってヤツになるのかも。
転生して小柄になった僕の服でこんなことが出来るとはね。流石はドワーフってところかな。
「いや……。なにからなにまで、その……悪いな」
「だから、いいって~。……おかげで役得もあったしさ」
「?」
おっと、つい本音が……。え、「役得って何だよ」って?
それはまぁ、ヒミツかなぁ。ん~でも、言える範囲だと……モチモチ肌だったね、見た目通りだったよ。
「き、気にしないで? た、大したことじゃないからぁ……。
あーそうだー、今日はどうしよーか? こんな時間だし、せっかくだからもう一泊してく?」
「こんな時間って、今は――えっ?」
窓から入った西日によって、この部屋は茜色に染め上げられていた。
そのことに彼女も気付いたようで、窓の外を改めて確認して驚いたみたいだ。
最近は冒険者し過ぎてたから、幼女を眺めて終わる穏やかな一日? というのもいいものだな~。




