酒場の看板娘達 5
というわけで、フローラとのケンカの経緯はそんな感じだったらしいよ。
え? どうでもいいと思ってないか、って?
い、いやいや。結局こういうのは当人同士の問題だし、僕は一歩引いた姿勢で冷静に見守ってるんだよ。
別に、しょうもない理由だったから興味を無くした……とかじゃないからね?
「へー、そうだったんだ。――あ、いつの間にか繁華街まで来ちゃったね。
せっかくだから、どこかでご飯でも食べない?」
「ま、待てまて。ここまで聞いたんだしさ……なんかないの?」
「んん? えーと……。ニコラもフローラも、お互いに大好きなんだな、って伝わってきたかも……?
だから、うん。たぶんそのうち、仲直り出来るんじゃないかな?」
「…………」
僕の反応が予想外だったのか、またもポカンとさせちゃったよ。
そんなに変なこと言った? そろそろお昼にはいい時間だから、割と普通な事だと思うのに……。
「はぁ、こいつ本当に興味ないのね……。いいけどねっ、頼る気なんて始めからなかったし。
けど、これだけは聞かせて。――あんたとフローラは、どういう関係なわけ?」
「ボクとフローラ? うーん、そうだねぇ……。
一週間くらい前にあの商会で知り合って…………また遊ぼうねって約束した関係?」
あれ? 考えてみるとフローラとの関係薄すぎない?
事実なんだから、どうすることも出来ないんだけどさぁ。
「え、それだけなの……? ふーん、そう。それだけなのか~」
うわー、何だか嬉しそうだよ、この娘。
彼女のこと、取られるかもしれないって警戒してたのかな?
ふふふ、ニコラも可愛いところあるよね~。
でも、僕だって出来ることなら美少女と仲良くなりたいし、これからどうなるかは分からないよ?
「ああ、飯だっけ? いいよ。
あたしはこのへん詳しくないけど、どっかいいとこ知ってんの?」
「うん。一つ、お気に入りの店があるよ。そこでいいかな?」
「お、いいね。じゃあ、案内任せたわ」
やったね。美幼女に食事の誘いを受け入れてもらえたよ。
思い返してみると、依頼中に軽食を一緒に食べたことがあるくらいで、ちゃんとした食事は初めてだね。
***
「ふーん、ここがお気に入りの店ねぇ。
まさか"エルフが働く店"に連れてこられるとは思ってなかったわ」
「そうそう。可愛いエルフ達がいるからつい通っちゃう――って、なんだぁ。ニコラも知ってたのね」
頼んだ料理を待っている間、せっせと店内を動き回るアンジェとラドミラを眺めていると二コラがそう呟いた。
どうやら、この店のことは既に知ってくれてたみたいだね。
「最近、よくうわさになってるからな。……にしてもエルフ、エルフって、可愛いドワーフもいるんだけどな」
何だか不満そうな独り言が付属してるね。
もしかして、エルフとドワーフの間には確執とかあったりするのかな?
「はい、まずはエール二つね。お待ちどうさま」
そんなことを話していると、カルラがその綺麗な赤い髪を揺らしながら飲み物を持ってきてくれた。
この店最大の売りといえる三人が揃ったわけだけど……んーまあ、確かにね。
彼女達がいるんだから、噂くらいには自然となるか。納得だよ~。
「いつもありがとね~」
「こちらこそ、毎日きてくれて嬉しいわ。
……ところで、あなたがお昼に、しかもお酒まで頼むなんて珍しいと思ったら、連れがいたのね?」
言われてみれば、転生してから初めて飲む気がする。
元々あんまり好きじゃないから当然からね、酒って。
今だって、ニコラが飲まなかったら注文してなかっただろうし。
「よかったわ。アイリスにも友達がいたのね~」
「へ? トモ、ダチ? ……そっちの方が気になるの?」
「ええ。だって、あたしたち以外と一緒にいるところ見たことないんだもの。
ここにくる時もいつもひとりだし、友達がいるのか心配しちゃったわ」
酒のことかと思ったら、すごーく失礼な話だったよ。
……いや、本来の僕はずっとボッチでやって来たんだから何も間違ってないんだけども。
というか、僕に仲間や友達がいる現世の方が間違っているんじゃ……?
「………………」
「あ、あの……気を悪くさせてしまったかしら?
ご、ごめんなさい! 悪気はなかったのよ? ただちょっと気になったってだけで――」
「ちょっと、いいかな?」
「え? ……えぇ」
一言断りを入れてから、目の前に置かれたジョッキを手に取った。
そして、なみなみと注がれたエールに口を付けて……
「んく……んく…………んっ」
「!! いっきに飲まなくてもっ……! だ、だいじょうぶ?」
特有の苦みが口一杯に広がり、炭酸によるシュワシュワとした刺激が喉を通っていく。
あー、うん。この感じ、この感じ。ホント酒って――おいしくないなぁ。
やっぱり酒はやめて、水でも飲んでよーっと。
「……ふぅ。大丈夫、大丈夫だよ~。
ちょっと思考の迷路から出られなくなりそうだったけど、頭が冷えて冷静になれたし。
あっ、友達だっけ? そうそう、全くいないんだよー。だから、二人はずっと仲良くしてくれると嬉しいなぁ~。いいよね?」
「も、もちろんよ!」「あー、うん……」
二人に頷いてもらえて、嬉しいな~。
笑顔が引きつってるようにも見えるけど、大したことじゃないのから気にしない方向で、ね?
「えぇと……あたし、そろそろ戻らないとっ。り、料理をつくらなきゃ!」
「うん、頑張ってね~――あ、そうだ。水ももらえるかな?」
「ええっ、すぐに用意するわっ!」
カルラは料理担当だから、配膳とかは最低限のはずなんだよね。
それなのに、僕にはこうやって会いに来てくれて会話もしてくれる。
仲良し感があって嬉しいな~。
「あ、あのさぁ」
「うん?」
厨房の方を見ていた視線を正面に戻すと、ニコラが何だか気まずそうにしていた。
もしかして、カルラと仲良くし過ぎちゃったから、構って欲しくなっちゃったのかな?
「フローラとのこと、なんかゴメンな……。
あたしのことは気にしないで、ふたりで遊んだりしてもいいからな?」
「ん? んん……? えーと、ありがとう……??」
よく分からないけど、フローラと仲良くできる許可が出たよ。
微妙な空気になった気もするけど、結果ヨシということで――いいのかなぁ?




