商人の娘 4
「それで? 何でケンカすることになったの?」
「ぁー……やっぱさ、この話やめない? あんまり面白いものじゃないし。……ダメ?」
さっき「話すのはいい」って言ったばかりなのに、もう気が変わっちゃったみたいだ。
というより、日和ったというべき?
さて、彼女はこう言ってるけど僕はケンカの理由が気になって……いるのかな?
よくよく考えてみると……うん、どうでもいいなぁ。
「んー、まあそうだね。ケンカの原因を聞いたからってボクに何が出来るわけでもないし、いい事ないもんね。
あでも、さっきみたいに気まずい空気になったら、二人で何とかしてよ?」
「えっ、そこで納得する……? あっさりしすぎでしょ…………」
おっと、これはやったかな?
ポッカリと口を開けて呆然としてる……思ったことを素直に伝え過ぎたかも。
もうちょっと興味があるフリくらいはしとくべきだったかぁ。
「――ははっ、なにそれ! ぜんぜん興味ないのな! あははっ!」
今度は急に笑い出したし……ど、どうしたの??
僕は面白いこと言った? いや、言ってないよねぇ?
「はははっ……はあ、はぁ。
ううん、あんたの能天気な顔見てたら気が変わったわ。すべて話すから、ちゃんと聞いといてよ?」
「へ? う、うん。ニコラがいいなら聞くよ……?」
能天気って、褒められてるとは思えないんだけど。
まあ、何だかご機嫌みたいだし、結果的には良かったのかな?
「どこから話すか……ま、始めからになるよな。
もう知ってると思うけど、フローラの父親って商人じゃん?
だから、昔はあいつもそれにくっついて色んなところを旅してたんだよ」
「へぇ、そうなんだ。でも、今は街で帰りを待ってるよね? 今日商会にいたのも、帰って来るって聞いたから迎えに来たんでしょ?」
「それはここ一、二年くらいの話だな。商売が軌道に乗ったからなのか、家を定めたみたいだ。
あいつは退屈してるみたいだけど、危ない旅に連れていくよりは留守番してた方が安心だし、あたしはいいんじゃないかと思う」
商売成功でマイホーム購入ねぇ。
何というか、幸せストーリーって感じだね。……どこからケンカの話になるのかな?
「でさ。あたしの住んでた街にもあいつら商売でやってきてたから……まぁ普通に知り合って、普通に友達になったんだよ」
「二コラの住んでた街に? へぇ、二コラってここの出身じゃなかったんだね」
「ん? そうだけど……そういや、あたしのことほとんど教えてなかったよな。あたしはグノーム王国の……って、この話は今度な?
話を戻すと、留守番するようになったってことは、こっちの街には来ない……もう会えなくなるってことでしょ?
だから、あたしがこっちに越してきたんだよ……」
友達に会いたいがために引っ越して来たってこと?
フローラのこと、大好きなんだな~。
「……なに、ニヤニヤしてんだよ。絶対、変なこと考えてるだろ?」
「えぇぇ? ボクのことは気にしないで、ほら続きつづき~」
「くっ、こいつ楽しんでるなぁ……こほん。そこまではいいんだよ、あいつも喜んでくれたし。
問題は、あたしが冒険者になることを伝えた後なわけで……、『わたしとは、もう一緒にいてくれないの?』って駄々をこねだしてさ。それでちょっとモメちゃって……」
その時のことを思い出したのか、彼女は俯いて黙ってしまった。
今もダメージ継続中のようだね。
それにしても、一緒にいて欲しいあまりにケンカするって。もう完全に両想いでしょ。
二人の仲は大体分かったけど、どこから冒険者になりたいって希望が出てきたんだろう?
少し気になるから、同情するフリして聞いてみようかな。
「そっか。大変だったんだね……。
ところで、どうして冒険者になろうと思ったの? 話の流れ的にちょっと唐突に感じたんだけど」
「あー、そこ気になっちゃうよなぁ。……フローラには、絶対しゃべるなよ?
あいつって、父親にべったりでしょ? だからきっと、そのうち自分も商人になると思うんだ。
そしたら、護衛も必要になってくるわけで。なら、あたしが冒険者になって守ればいいじゃんって気がついたわけよ!」
さて、本人の口から冒険者になった理由を聞けたわけだけど……何というか、信じられないくらいにフローラが起点の話だったね。
だけど本心であることは確かなんだろうなー。
語る表情が生き生きしてて、それが現実になるとまるで疑ってない顔してるもの。
「なるほどねー。何となくは分かったよ。
だけど、冒険者になるの急がなければ、ケンカもしなくていいんじゃないかな?
フローラが商人になってからとかさ」
「は? それだと遅いでしょ。
有名な高ランク冒険者になっておかないと、あたしに頼んでくれないかもじゃん。
あいつが『どうしても、ニコちゃんにお願いしたいのっ!』って、いってくるくらいじゃないとね~」
「あっ。ランクを早く上げたいのって、そういう……?」
お、思わぬところで、彼女が冒険者ランクを上げたい理由が判明してしまったよ。
分かってしまうと全然大したことなかったね。
……いや、あんな思い詰めた表情で言うことじゃないよね?




