商人の娘 3
「では、私はこれで失礼しますよ。予定が詰まっていましてね」
「まっ、話はまだっ……!」
縋るようなお義父さんの言葉を無視して、副店長は席を立ってしまう。
そして、数歩進んだところでこちらを見て……あ、目が合っちゃった。
「おお、これはアイリスさんではないですか! また当商会の護衛依頼を受けてくださったのですかな?
いや、本日出発予定のキャラバンはなかったはず……となると、何かご入用ということですか。
そういうことであれば、この私が伺いましょう。なに、大抵のものは取り揃えておりますので心配無用ですよ!」
うわ、見つかったと思ったらすぐに近寄って来たよ。
というか、さっき「予定が詰まってる」とか言ってなかった? こちらを優先してくれるってこと……?
いらないなー。美少女なら嬉しいけど、おっさんは求めてないんだよ。
「……この人と知り合いなのか?」
「う、うん。前に依頼でね」
それに、この状況で話しかけるのはホントにやめて欲しかったね。
二コラが聞いてこなかったら、百割無視してたよ。
「おっと、このようなところで立ち話とは……。私としたことが、配慮に欠けていました。
さ、あちらに商談用の個室があります、詳しいことはそちらで。お連れの方もどうぞ、どうぞ……おや?
レオノーラ殿達ではないか? ドワーフのお嬢さんに、それに……それ、に……っ!?」
ペラペラと話していた副店長だったが、フローラを見た途端に固まってしまった。
彼女を見てこの反応をするってことは、あの人の娘だって知ってるのかな?
「ど、どうしてフローラがここにいるんだいっ!? 私が伝えた予定では、数日後に戻ることになっていたはず……っ」
「……パパの知り合いって人が家にきてね。『今日、お父さんが帰ってくるよ』って教えてくれたの。
だから、迎えにきたんだよ? ……ねえ。さっきの話、本当なの?」
こちらに気が付いたお義父さんも話に入ってきたよ。
それにしても、その知り合いって人はかなり親切な人みたいだね。
わざわざ余計な事を伝えてこなければ、こんな重い空気も出来なかったのに。
「ぉ、おおっ! き、急用を思い出しましたっ。
申しわけないが、ご用件は他の者にお願いします!!」
そして、親娘の会話が始まって早々に副店長は逃げ出したね。
逃げ足速いなー。流石、ワイバーン戦ではいつの間にか消えていただけのことはあるよ。
「本当、なんだ……」
「っ! ……そ、そう心配するんじゃない!
お父さんはこの程度のピンチ、何回も乗り越えてきたんだよっ?
だから全て私に任せて、フローラは安心して家で待っていなさい」
なーんだ、よくある事なのか~、それなら大丈夫だね~。
無理矢理作った笑顔にも見えるけど、きっとあれは余裕の笑顔ってヤツだよ。
「ニコラさんに……そちらは以前もこちらでお会いしましたね? アイリスさん、でしたか?
お恥ずかしいところをお見せしました。本日は立て込んでおりますので、これで失礼します。
……フローラ、家へ帰ろうか」
「……うん」
くたびれた中年男と、華奢で繊細な少女の背中が共に遠ざかって行く。
あーあ、また連れて行かれちゃったよ。
父親だからって、毎回美少女と帰るのズルくない?
まぁ、帰っちゃったものは仕方ないし、こっちの娘に色々と聞いてみようかな~。
「えっと、色々と聞きたいんだけど。まずは……友達、でいいんだよね?」
「…………ああ」
上の空という感じだったけど、一応返事はしてくれたね。
凄く真剣に、二人が出て行った扉を見つめてるから「ボクの話なんて聞こえてないかも」って不安だったよ。
「そっか。でも、ケンカしてると何かと不便じゃない? 仲直りはしないの?」
「あぁ――んっ!? なんで知って……いや、さっきのやりとり見てたら誰でもわかるか……。
仲直りするのは、あっちが謝ってきたらね……あたしは悪くないんだから」
拗ねた表情も可愛いなあ~。……おっと、間違えた。
じゃなくて、「彼女の反応を見るに、思ったより根深い問題なのかもしれないね」って、言いたかったんだよ。
「よかったら何があったか教えて――」
「ちょい待ち。話すのはいいけどさ、先に目的を済ませない?」
目的……? あれ、僕たち何でこんなところに来たんだっけ?
「その顔、まさか忘れたの? はぁ。ハーピーの羽がもっと高く売れないか交渉しなきゃでしょ?
とりあえず、あそこのカウンターで聞いてみるか」
あっ、そういえばそんな目的があったんだった。
どうでも良い事って忘れちゃうものだよね~?
ということで、商会の人と交渉してみたんだけど、高く買い取ることは出来ないってさ。
……ん? 交渉したのはもちろん二コラだよ? 僕はやりたくないから当然だね。
何でも、冒険者ギルドとの取り決めがあるらしくて、ギルドで提示された以上の値段では買い取れないみたいだよ。




