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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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パーティ結成 6

「なっ!? なに、ここ……?」



 おっと、そうこうしてたら彼女達がやって来たみたいだね。

 ゴブリン達の死体は放置したままになってるから、それを見て戸惑ってるよ。



「あの大きなのは……スタークトータス?」


「止まってはいけない!! とにかく走り続けないと――」


「や、ヤツが来るよっ、みんな避けて!?」


「BUMOOOOOOOOOOO!!!」



 最後尾を走っていた男が叫ぶと、猛スピードで爆走する獣が登場した。

 縦幅は人間と同程度だが、四足獣であるそれは横幅の方が大きい。


 もし横から見たのであれば、その巨体がよく分かったことだろう。


 立派な牙が口から二本突き出してるね。

 あの速度で突き刺されたら、普通の人は風穴が開いちゃうかもね。



「(あのリーゼって()達、何とか避けられたみたいだね)」


「(ワイルドボウは、突進力はあっても方向転換が苦手だからな。

 動きをしっかり観察していれば、攻撃が当たることはない……はず)」



 ということは、猪が突っ込んで来ても真横に飛べば避けられるわけか。

 ……え、もしかして、あの猪は突進しか能がないの?


 なーんか思った以上につまらないモンスターっぽいなぁ。

 それなら、別の方向で楽しませてもらおうかな~。



「(……近くで見ると結構迫力あって、こわいなー。あ、そうだぁ、くっつけばこわくなくなるかもなー)」


「(むぐっ!? な、なんで抱きついて――っ!! ふざけてられる状況じゃないからなっ!)」



 正面から抱きつくよりも、後ろ抱きの方がしっくりくるね。

 体格差的にこう、頭の上に顎を載せるとぴったりだよ~。



「(まあまぁ~、ちょっとだけだから、ね? ニコラも、こうしてた方が落ち着くでしょ?)」


「(……ちょっとだけ、だからな? あと、すぐに逃げられるようにはしとけよ)」



 幼女らしく少し高い体温が心地いいね。それに……ふふ。

 不満そうな態度してるけど振り払おうとはしない辺り、彼女も満更ではないんじゃないかな~。



 と、僕達が甲羅の裏で遊んでいる間も、もちろん戦闘は継続中だ。

 攻撃をかわされた猪が、鋭い目を獲物へ向けて再度の突撃準備に入っている。



「BMOO! BMOOO!!」


「っ!! ――ご、ごめんなさいぃ。わたしぃ、もう走れないですぅ……」



 リーゼはここまで逃げるのにかなりの体力を消耗してるようで、二人の仲間に助けを求めてる。


 まあ、ずっと避け続けてたら体力がもたなくなるよ。

 それにしても……美少女が媚びてる姿っていいねぇ。つい、命懸(いのちが)けで助けたくなっちゃうよね。



「あ、ああっ! リーゼちゃんは俺達が守ってみせるよ! ――ということだ。カール、頑張れ次はお前の番だぞ」


「が、頑張れって……嫌だよ!! アルバンがやればいいだろ?!」


「……最後はもちろん俺の役目さ。だがな、俺はお前ならやれると信じてるんだ。

 それに、多少時間を稼ぐだけで十分なんだぞ?

 ヤツを撒いてから合流する、たったそれだけのことなんだ……簡単だろ?」



 何かあの二人、彼女の盾になる役目押し付け合ってない?

 美少女のお願いで死ねる機会なんてそうはないんだから、喜んで引き受ければいいのに。



「いやだ……嫌だ……っ!! そう言ってヤンも、クンツも戻って来ないじゃないか!?

 俺は同じにはなりたくないよっ!!」


「お、おいっ、カール!! 逃げるな!!」



 カールと呼ばれた男が、一言叫んでから逃げていく。


 ……それはそうと、また名前がいっぱい出て来たね。

 どうせ役に立つわけないんだから覚える気はないけど。



「BUUUMOOOOOOOOOOOOO!!」


「なっ!? なんで、こっちに来るんだよぉ~~っ!!」



 しかし、一人だけ逃げた事が逆に注意を引いたようで、猪は彼の方向に突進していく。

 闘牛……いや、闘猪? の始まりだね。どれくらい耐えられるんだろう?



「(……っ! 悪い、アイリス。これ以上は見てらんないわっ)」


「(え? それってどういう――ど、どこ行くのっ??)」



 二コラは体を包むように回されていた僕の手を振り解くと、巨大な猪に突っ込んで行った。


 あ、そういうことか~。彼女もリーゼの可愛さにやられて囮役をやりたくなったんだね。

 僕もあの突進程度で死ねる自信があれば、代わりになりたいくらいだもの。



「うわぁあああっ!! ――こっちだデカブツっ! うりゃあっっ!!」


「MOOOOOOO!! BU? BUMO、BUMOO!?」



 そして、そのまま勢いに任せた一撃を猪の横腹へ叩き込んだ。


 あの猪、ホントに目の前しか見えてないんじゃないか? ってくらい接近するニコラに気付かなかったね。

 Dランク冒険者向けのモンスターって話だったけど、この単純さならもっと低ランクでも倒せるんじゃないの?



「き、キミはギルドで会ったドワーフのっ!?」


「あ、ああ、偶然だな……。

 パーティは違うけど同じ冒険者だし、特別に加勢してや――へ?」



 若干かっこつけながら振り返った彼女が見たものは、既に走り出している男の背中だった。



「は、はあっ!? 普通この状況で自分だけ逃げる!?」



 あーあ、また置いて行かれちゃってるよ。

 ホント、可哀そうな娘だなぁ。



「BUMOOO!! BUUUMOOOOOO!!!」


「!? ――み、みぎゃああぁあああぁぁぁ!?」



 さらに言えば、リーゼ達も反対方向へと逃げていったから、この場に残っているのは彼女だけだ。

 なので、攻撃された怒りも合わさって、ニコラが猪の標的になっていた。


 ……僕だけ隠れてても仕方ないし、そろそろ出て行こうかな。



「お~い、手助け要る~? って、どこ行くのー? こっち戻って来てよぉーー」


「――無理、ムリッ、むりっ!! 追いつかれたら死ぬぅぅっ!!!」



 どんどん遠くなっていくなー。これは追いかけっこかなぁ。

 いいや、魔法を使えば何とでもなる――ん、待てよ?


 この甲羅、もしかしてああすれば……うん、意外といけるかも。



「えっと。まずは甲羅と猪が一直線になるように回り込んで――巻き込まれないように注意してねー?」


「なにーーっ!? 何かいったぁーっっ!?」


「遠くて聞こえてない? まあ当たるわけないって~、普通に考えて大丈夫だよね~。

 結構重そうだし、軽くスキルも使って<シールドバッシュ>っと」



 バックラーで押し出すように軽く叩くと、甲羅はかなりの速度で直進していく。

 その速度は猪の突撃を上回っており、見る見るうちに距離を縮めている。



「う、後ろから何かきてな――へ???」


「MOOOOOOOO――BU!?」



 また、その破壊力も十分なようで、触れた樹木が片っ端から倒壊する程だ。


 よし、命中! しかもあの甲羅、速度は若干落ちてるけど、止まらないでそのまま滑っていくよ。

 思い付きだったけど、いい感じの攻撃アイテムになったね。


 さてと、一応安否確認をしておこうかな。



「ニコラ、大丈夫だった? 怪我は……うん、見た感じ無さそうだね」


「メノマエトオッタ。アレ、ナニ?」


「何で片言? あれはほら、あの亀だよ。丁度いいところに落ちてて良かったよね~」


「カメ? ……アハハ、なんだスタックトータスか~。

 ――ぴぃぇぇぇっ!? もうちょっとで死ぬとこだったじゃんっ!!?」



 うわぁ、泣き出しちゃったよ。そんなに怖かった?

 幼女をなだめる方法……困ったなぁ、そんなの僕に分かるわけ無いよ……。


 こうなったら一か八か、さっきやった事を試すしかないね!



「え、えい! どう、かな?」


「むぐぅ!? …………どうって……な、なんで抱きつくのさ?」


「やっぱり、こうするのが一番落ち着くと思ってね」


「……無駄に柔らかいのが当たって、なんかムカつく」



 えー、その柔らかいのが最高だと思うんだけどなぁ。

 この身体のなかで一、二を争うくらい気に入っている部分なのにー。



「今回だけ、だから……。次、同じことしたら怒るからなぁ」



 それは許す、ってことだよね? やったぁ~。



「それとっ……助けてくれたことは感謝してるから、ありがと……。

 っ! さ、さぁ! あいつ、本当に倒せてるか心配だし、確認しにいくよっ」


「うん、そうだね~」



 猪の死体がある方へスタスタ歩いていくニコラ。


 ふふ、一瞬しか見えなかったけど、顔が真赤だったね~。

 パーティ解散の危機かと思えば、実は攻略一歩手前だったのか。



 ――ちなみに、ワイルドボウとスタークトータスがどうなったかと言えば……。



「なっ、なに、コレ……っ!?」



 木々がなぎ倒されて出来た道を進んだ先に、体の半分が押しつぶされてミンチになった猪と、ヤモリ? のようなものが転がっていた。


 ……モザイク必須って感じのグロ画像になってるよ。

 ニコラが息を()むのも頷けるね。



「この辺に散らばってる破片みたいなのって、甲羅と石だよね?

 ――となると、岩に激突してバラバラに砕けたって感じなのかな」


「あぁ、うん。そう、だろうな。……たぶん」


「ふーん。あの甲羅の本体、こんなヤモリみたいなのだったんだね」



 まさか、あの硬そうな甲羅が砕けるなんてね。

 手加減してコレってことは、してなかったら叩いた瞬間に砕けてたかも?



「……やっぱ早まったか? だけど仲間として考えるなら、頼もしいといえるかもしれないし……」


「どうかした? 早く討伐証明になる部分を回収して帰ろうよ」


「え? ハ、ハハハッ、そうだな! そうしようっ!!」



 あー。これは絶対引かれてるよー。

 うーん、彼女との距離は近づいたのか遠のいたのか……判断の難しいところだなぁ。

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