パーティ結成 6
「なっ!? なに、ここ……?」
おっと、そうこうしてたら彼女達がやって来たみたいだね。
ゴブリン達の死体は放置したままになってるから、それを見て戸惑ってるよ。
「あの大きなのは……スタークトータス?」
「止まってはいけない!! とにかく走り続けないと――」
「や、ヤツが来るよっ、みんな避けて!?」
「BUMOOOOOOOOOOO!!!」
最後尾を走っていた男が叫ぶと、猛スピードで爆走する獣が登場した。
縦幅は人間と同程度だが、四足獣であるそれは横幅の方が大きい。
もし横から見たのであれば、その巨体がよく分かったことだろう。
立派な牙が口から二本突き出してるね。
あの速度で突き刺されたら、普通の人は風穴が開いちゃうかもね。
「(あのリーゼって娘達、何とか避けられたみたいだね)」
「(ワイルドボウは、突進力はあっても方向転換が苦手だからな。
動きをしっかり観察していれば、攻撃が当たることはない……はず)」
ということは、猪が突っ込んで来ても真横に飛べば避けられるわけか。
……え、もしかして、あの猪は突進しか能がないの?
なーんか思った以上につまらないモンスターっぽいなぁ。
それなら、別の方向で楽しませてもらおうかな~。
「(……近くで見ると結構迫力あって、こわいなー。あ、そうだぁ、くっつけばこわくなくなるかもなー)」
「(むぐっ!? な、なんで抱きついて――っ!! ふざけてられる状況じゃないからなっ!)」
正面から抱きつくよりも、後ろ抱きの方がしっくりくるね。
体格差的にこう、頭の上に顎を載せるとぴったりだよ~。
「(まあまぁ~、ちょっとだけだから、ね? ニコラも、こうしてた方が落ち着くでしょ?)」
「(……ちょっとだけ、だからな? あと、すぐに逃げられるようにはしとけよ)」
幼女らしく少し高い体温が心地いいね。それに……ふふ。
不満そうな態度してるけど振り払おうとはしない辺り、彼女も満更ではないんじゃないかな~。
と、僕達が甲羅の裏で遊んでいる間も、もちろん戦闘は継続中だ。
攻撃をかわされた猪が、鋭い目を獲物へ向けて再度の突撃準備に入っている。
「BMOO! BMOOO!!」
「っ!! ――ご、ごめんなさいぃ。わたしぃ、もう走れないですぅ……」
リーゼはここまで逃げるのにかなりの体力を消耗してるようで、二人の仲間に助けを求めてる。
まあ、ずっと避け続けてたら体力がもたなくなるよ。
それにしても……美少女が媚びてる姿っていいねぇ。つい、命懸けで助けたくなっちゃうよね。
「あ、ああっ! リーゼちゃんは俺達が守ってみせるよ! ――ということだ。カール、頑張れ次はお前の番だぞ」
「が、頑張れって……嫌だよ!! アルバンがやればいいだろ?!」
「……最後はもちろん俺の役目さ。だがな、俺はお前ならやれると信じてるんだ。
それに、多少時間を稼ぐだけで十分なんだぞ?
ヤツを撒いてから合流する、たったそれだけのことなんだ……簡単だろ?」
何かあの二人、彼女の盾になる役目押し付け合ってない?
美少女のお願いで死ねる機会なんてそうはないんだから、喜んで引き受ければいいのに。
「いやだ……嫌だ……っ!! そう言ってヤンも、クンツも戻って来ないじゃないか!?
俺は同じにはなりたくないよっ!!」
「お、おいっ、カール!! 逃げるな!!」
カールと呼ばれた男が、一言叫んでから逃げていく。
……それはそうと、また名前がいっぱい出て来たね。
どうせ役に立つわけないんだから覚える気はないけど。
「BUUUMOOOOOOOOOOOOO!!」
「なっ!? なんで、こっちに来るんだよぉ~~っ!!」
しかし、一人だけ逃げた事が逆に注意を引いたようで、猪は彼の方向に突進していく。
闘牛……いや、闘猪? の始まりだね。どれくらい耐えられるんだろう?
「(……っ! 悪い、アイリス。これ以上は見てらんないわっ)」
「(え? それってどういう――ど、どこ行くのっ??)」
二コラは体を包むように回されていた僕の手を振り解くと、巨大な猪に突っ込んで行った。
あ、そういうことか~。彼女もリーゼの可愛さにやられて囮役をやりたくなったんだね。
僕もあの突進程度で死ねる自信があれば、代わりになりたいくらいだもの。
「うわぁあああっ!! ――こっちだデカブツっ! うりゃあっっ!!」
「MOOOOOOO!! BU? BUMO、BUMOO!?」
そして、そのまま勢いに任せた一撃を猪の横腹へ叩き込んだ。
あの猪、ホントに目の前しか見えてないんじゃないか? ってくらい接近するニコラに気付かなかったね。
Dランク冒険者向けのモンスターって話だったけど、この単純さならもっと低ランクでも倒せるんじゃないの?
「き、キミはギルドで会ったドワーフのっ!?」
「あ、ああ、偶然だな……。
パーティは違うけど同じ冒険者だし、特別に加勢してや――へ?」
若干かっこつけながら振り返った彼女が見たものは、既に走り出している男の背中だった。
「は、はあっ!? 普通この状況で自分だけ逃げる!?」
あーあ、また置いて行かれちゃってるよ。
ホント、可哀そうな娘だなぁ。
「BUMOOO!! BUUUMOOOOOO!!!」
「!? ――み、みぎゃああぁあああぁぁぁ!?」
さらに言えば、リーゼ達も反対方向へと逃げていったから、この場に残っているのは彼女だけだ。
なので、攻撃された怒りも合わさって、ニコラが猪の標的になっていた。
……僕だけ隠れてても仕方ないし、そろそろ出て行こうかな。
「お~い、手助け要る~? って、どこ行くのー? こっち戻って来てよぉーー」
「――無理、ムリッ、むりっ!! 追いつかれたら死ぬぅぅっ!!!」
どんどん遠くなっていくなー。これは追いかけっこかなぁ。
いいや、魔法を使えば何とでもなる――ん、待てよ?
この甲羅、もしかしてああすれば……うん、意外といけるかも。
「えっと。まずは甲羅と猪が一直線になるように回り込んで――巻き込まれないように注意してねー?」
「なにーーっ!? 何かいったぁーっっ!?」
「遠くて聞こえてない? まあ当たるわけないって~、普通に考えて大丈夫だよね~。
結構重そうだし、軽くスキルも使って<シールドバッシュ>っと」
バックラーで押し出すように軽く叩くと、甲羅はかなりの速度で直進していく。
その速度は猪の突撃を上回っており、見る見るうちに距離を縮めている。
「う、後ろから何かきてな――へ???」
「MOOOOOOOO――BU!?」
また、その破壊力も十分なようで、触れた樹木が片っ端から倒壊する程だ。
よし、命中! しかもあの甲羅、速度は若干落ちてるけど、止まらないでそのまま滑っていくよ。
思い付きだったけど、いい感じの攻撃アイテムになったね。
さてと、一応安否確認をしておこうかな。
「ニコラ、大丈夫だった? 怪我は……うん、見た感じ無さそうだね」
「メノマエトオッタ。アレ、ナニ?」
「何で片言? あれはほら、あの亀だよ。丁度いいところに落ちてて良かったよね~」
「カメ? ……アハハ、なんだスタックトータスか~。
――ぴぃぇぇぇっ!? もうちょっとで死ぬとこだったじゃんっ!!?」
うわぁ、泣き出しちゃったよ。そんなに怖かった?
幼女をなだめる方法……困ったなぁ、そんなの僕に分かるわけ無いよ……。
こうなったら一か八か、さっきやった事を試すしかないね!
「え、えい! どう、かな?」
「むぐぅ!? …………どうって……な、なんで抱きつくのさ?」
「やっぱり、こうするのが一番落ち着くと思ってね」
「……無駄に柔らかいのが当たって、なんかムカつく」
えー、その柔らかいのが最高だと思うんだけどなぁ。
この身体のなかで一、二を争うくらい気に入っている部分なのにー。
「今回だけ、だから……。次、同じことしたら怒るからなぁ」
それは許す、ってことだよね? やったぁ~。
「それとっ……助けてくれたことは感謝してるから、ありがと……。
っ! さ、さぁ! あいつ、本当に倒せてるか心配だし、確認しにいくよっ」
「うん、そうだね~」
猪の死体がある方へスタスタ歩いていくニコラ。
ふふ、一瞬しか見えなかったけど、顔が真赤だったね~。
パーティ解散の危機かと思えば、実は攻略一歩手前だったのか。
――ちなみに、ワイルドボウとスタークトータスがどうなったかと言えば……。
「なっ、なに、コレ……っ!?」
木々がなぎ倒されて出来た道を進んだ先に、体の半分が押しつぶされてミンチになった猪と、ヤモリ? のようなものが転がっていた。
……モザイク必須って感じのグロ画像になってるよ。
ニコラが息を呑むのも頷けるね。
「この辺に散らばってる破片みたいなのって、甲羅と石だよね?
――となると、岩に激突してバラバラに砕けたって感じなのかな」
「あぁ、うん。そう、だろうな。……たぶん」
「ふーん。あの甲羅の本体、こんなヤモリみたいなのだったんだね」
まさか、あの硬そうな甲羅が砕けるなんてね。
手加減してコレってことは、してなかったら叩いた瞬間に砕けてたかも?
「……やっぱ早まったか? だけど仲間として考えるなら、頼もしいといえるかもしれないし……」
「どうかした? 早く討伐証明になる部分を回収して帰ろうよ」
「え? ハ、ハハハッ、そうだな! そうしようっ!!」
あー。これは絶対引かれてるよー。
うーん、彼女との距離は近づいたのか遠のいたのか……判断の難しいところだなぁ。




