酒場の看板娘達 3
一騒動が終わり店内が落ち着いたので席を案内された。
場所は奥の一番隅っこだね。うんうん、一番目立たなくて一番落ち着く位置だなぁ~。
「あの、アイリスさんはどうしてこの街に?」
「ん? そうだねぇ……。
皆と別れた後、キャラバンを護衛する依頼を受けてね。その依頼が、ちょうどこの街までだった……まあ、まとめるとそんな感じかなぁ。
というか、アンジェ達は自分達の国……えっと、ドリュアス共和国だっけ? そこに帰ったんじゃなかったの?」
ちなみに、ラドミラに代わってアンジェが注文を取ってくれることになったみたいだね。
あと、ドリュアス共和国というのは彼女達の故郷であり、主にエルフが暮らす国……らしいよ?
数日前――つまり彼女達と別れる直前――にした会話では、確かそう言っていたはず。
「依頼で……。そう、ですか。
はい、今もその途中です。ここ、アイヒホルンを経由するのが最も安全な道なんですよ」
「経由ってことは、またすぐに出発しちゃうのかー。
じゃあ、ここで働くのは短期間になるのかな。残念だね……」
「ええと、それは…………。
カルラちゃんに口止めされてるので、わたしが話したことは秘密にしてくださいね?
実は、路銀が底をついてしまったんです。なので、しばらくはここで働いて、お金を貯めないといけないんですよ」
カルラが口止め?
それにお金がないって、その原因はもしかして……。
「それって、所持金全部ボクに渡したからだよね?
言ってくれれば返したのに……。それでも足りないなら、あげる――」
「い、いえっ、そういうつもりで話したんじゃないですよっ!?
だから、それはしまってください! あれは正当な報酬として払ったものなんですからっ」
財布を取り出したら、アンジェに慌てて止められてしまった。
お金なんていくらあげても問題ないのにね?
無くなったら、ゴブリン達のところに行ってもらってくればいいんだし。
「そっか。ボクも無理に渡したいわけじゃないし、要らないって言うならいいけど……。
でも、必要なら遠慮なく言ってくれていいよ? ボクもしばらくはこの街にいると思うからさ」
「ぁ……は、はい! ありがとうございます!
でしたら、この店にも通ってくださいね? カルラちゃんもラドミラちゃんも……それに、わたしも嬉しいですから……っ」
この街での滞在期間が長くなる――それが決まった瞬間だった。
元々、何日滞在するかなんて考えてなかったけどね。
でもまあ、「この娘達がいる間は、僕もここにいるんじゃないかなぁ」と。
頬を赤くして照れ笑いする彼女を見ていたら思えてきたよ。
「うん、きっと三人に会いたくて常連になっちゃうと思うな~。
……あれ、そういえばカルラは? まだ見てないんだけど……」
「カルラちゃんですか? それなら厨房に……そ、そうでした!
注文まだ聞いてなかったですよねっ? 話し込んでしまって、ごめんなさい!」
「それはいいんだけど……え、カルラが厨房に?」
ということは、彼女は料理担当なの?
……あはは、それはないよね~。僕と同じで、料理とか全く出来ない感じがするし~。
「? すごいんですよ、カルラちゃん!
なんと初日で店長さんに認められて、一緒に料理を作ることになったんです!
昔から料理上手ではあったんですけど、人間さんにも気に入ってもらえたのは嬉しかったです~」
「へ、へぇー、そうなんだぁ……。
(てっきり、つまみ食いしてるのかと思ったけど違ったのか……)
じゃあ、カルラが作ったものが食べたいなぁ~。それって、どれになるの?」
「はい、ええと。あれとアレ、それにアレもそうです!」
壁に掛けられた料理名らしき札を嬉しそうに指差して教えてくれた。
いくつか見覚えのある料理名があるね。確か前の街で食べた気がするよ。
嫌いなものはなかったし、この中からテキトーに選んでみようかな。
それにしても……フフフ。美少女の手料理が食べれるとはねぇ~。
やっぱり、この店を選んで正解だったよ!