酒場の看板娘達 1
「アイリス様、でしょうか?」
宿へと戻り、フロントの前を通り過ぎようとしたところで従業員に声をかけられた。
うわ、なんだろ……。呼び止められるようなことをした覚えは……まぁ、あるよね。
朝食の時なんてかなり騒いでたし、その事で注意されるのかなぁ。
「……はい、そうですけど。何か用ですか?」
「レオノーラ様から伝言を預かっておりますので、お伝えさせて頂きますね」
え、伝言? そんなことしなくても直接言えばいいのに……。
あの後、何かあったのかな?
「レオノーラ様方は、急遽グノーム王国へ向かわれたとのことです。
また、お詫びではないとのことですが、お客様の十日分の宿泊費を頂戴しております」
おぉっと? こんなに早く出発するなんて、当然聞いてないよ?
……ま、置いて行かれたってことは理解出来たよ。
考えられる可能性としては、「アイリスさんとは会いたくない」って、ユリアが言ったとかかなぁ……。
「そうですか。ご苦労様です」
悲しくはあるけど、彼女がそう思うのも仕方ないところがあるよね。
それに、出会って日の浅い僕より同じパーティの彼女を優先するのも当然だしさ。
縁があったらまた再会することもあるかもしれないし、今はノラの用意してくれたこの宿でゆっくりしておこうかな~。
「あ、そうだ。そのグノーム王国ってどこにあるんですか?」
「はい? ……失礼しました。
グノーム王国は、ここより東へと進んだ先に存在するドワーフの王国になります。
彼らは鉱物の加工に長けた種族ですので、冒険者の方々に人気がありますよ」
一瞬、困惑された? もしかして、一般常識レベルのことでも聞いちゃったのかも。
まぁ、「それで何か不都合があるのか?」って聞かれたら、特に何もないから別にいいんだけど。
「なるほど。ありがとうございます、よく分かりました」
エルフに続いてドワーフかぁ。なかなかファンタジー感があっていいねぇ~。
そのグノーム王国だっけ? 行ってみようかなぁ……。
まーでも、ドワーフって無骨とか髭もじゃなイメージがあるから、そこまで会いたくもないか。
うーん、もうちょっとこの街を観光して、それから次どうするか考えればいいやー。
***
その日の夜、僕は繁華街をぶらついていた。
理由は当然、ノラ達に置いて行かれた寂しさを紛らわせたくて――なんてどうかな? 悲劇のヒロインっぽくていいと思わない?
まあ、本当のところは「街の観光も兼ねて、いい感じに食事出来るところでも探そうかなー」って思っただけなんだけどね。
あの宿は夕食付きだから、こんなことする必要はないんだけど……部屋でダラダラしてたらいつの間にか夜になってたし、ちょっとは動きたいかなって、ね? そういうの、よくある事だよね?
あ、そうだ。街に出て、早速新発見しちゃったんだよね~。
なんと<隠密>スキルを使えば、周りの視線から開放されるんだよ~。
これでフードを目深に被ったり、ぶかぶかのローブで体の輪郭を分かり難くしたりしなくて済むね。
……え、今更気付いたのかよって?
…………。
ま、まぁ何にしてもね。
これからは人が多いところでは隠密状態になっておくことにするよ。
「それにしても……街並みは前にいたところと、そんなに変わらないね。西洋風というか、石造りというか……」
って、ただの隣街なんだからそれが普通かー。
転生したばかりの頃だったらもう少し楽しめたと思うけど、さすがにもう見慣れたなぁ。
観光はこれくらいにして、ご飯にしよっと。どこかに、いい感じの店は……。
「む、ココ……。うん、何となく当たりの気配を感じた」
立ち止まったのは、何の変哲もない大衆酒場と思える店の前だ。
何が気になったのかと言えば……店内から可愛い声が漏れ聞こえてるね~。
これは美少女店員がいるに違いないよ! ということで入ってみよう~。
「いらっしゃいませ~、好きな席にすわって――え? アイリスちゃん?」
入店した僕を出迎えてくれるのは、予想通りの美少女。
しかもファンタジーらしさ溢れる褐色肌のエルフ娘だ。
というか僕の名前知ってるし、どう見てもあの娘だよね……。
「ラドミラ……? え、何で? こんなところでどうしたの?」
「わぁああ~、本当にアイリスちゃんだあ~! また会えて嬉しいなぁ~。
わたしー? ここで給仕のお仕事をしてるんだぁー。えへへ、これ可愛いでしょ~」
そう言ってアピールする彼女の服装は、随所にヒラヒラとした装飾が施された、まさに可愛らしいウェイトレスといえるものだ。
問題は……いや、大変素晴らしいのは、彼女の成熟した体に対して服がちょっとだけ小さいことだねぇ。
そのせいで安っぽいコスプレに見えるから、如何わしさを感じちゃう……けど、それがまたいいかも~。
「すごい可愛い、すごい似合ってる…………ハッ!
……そ、そうだぁ。ラドミラがいるってことは、あの二人も一緒なのかな?」
「うん。アンジェちゃんも、そこに――」
「きゃあっ!?」
ん? 店内から可愛らしい悲鳴が聞こえてきたね。
少なくとも、まだ他に可愛い娘がいるのは確定だ~。




