依頼の報酬 1
旅路では色々なことがあったが、僕達は残った荷馬車を護衛してアイヒホルンの街に到着した。
街に入ってまず向かう先は、冒険者ギルドとかじゃなくて依頼主である商会だよ。
なぜなら、商会の人達からすれば僕達は死人扱いだろうからね。
先に生存報告だけでもしておいた方が、その後の事がスムーズに進むんだよ。
「もしや、レオノーラ殿に……アイリスさんまで!? お二人も生きておられましたか!!」
……と、ノラ達が提案するからやって来たわけだけど、そしたらエー……キャラバンの責任者をしていた商人さんに出迎えられた。
この人も生き残ってたんだね。
ワイバーンが逃げた後も戻って来なかったから、てっきり死んだと思ってたよ。
「ええ、そちらもお元気そうで安心しましたわ」
「ハッハッハ……あのような場所で、ワイバーンの襲撃に会うなど前代未聞のことですからな。
私も死を覚悟しましたが、皆様の懸命な時間稼ぎと、『希望の剣』の方々による誘導のおかげで首の皮一枚繋がりました。
お二人には、心からの感謝を…………ところで、他の方は……」
商人さんは周囲を一度見回すと、恐る恐る尋ねてきた。
僕とノラの二人だけで商会に来たから誤解させてしまったみたいだね。
もちろん、他の皆も元気だし何の問題もないよ。ただ……。
「そう、彼らも無事でしたのね……。
仲間達のことも心配ありませんわ。アイリスが回復魔法で癒してくれましたから、目立つ怪我もありませんの。
けれど、装備の方が大きく損傷してしまって、ここには連れて来られなかったのですわ」
彼女達も替えの服くらいは持ってたんだけど、武器や防具の類はそうもいかなかったみたいだ。
なので、新しい装備の調達とかを優先することになり、無傷だった僕はこっちへ来ることに……。
ミアは装備品へのダメージが比較的少なかったし、入れ替えてくれても良かったのにね。
……まぁ、僕は彼女達のパーティメンバーじゃないから、報告は別扱いっていう問題もあるんだけど。
「そうでしたか! それは、お互い不幸中の幸いでしたなあ。
我々も多くの荷を失ってしまいましたが……なに、命が助かっただけ儲けものですよ」
「でしたら、さっそく本題に入った方がよろしいですわね。
本題というのは、西門で検査中の荷を確認して欲しいのですわ。
全部ではありませんが、結構な荷を回収できましたのよ」
「おおっ!! しかも荷の回収までしてくださるとは……っ!
流石は音に聞く『黄金の盾』の皆様――と、アイリスさんですな!!
これは追加報酬を用意いたしませんと!」
へぇ、追加報酬なんてくれるんだね。
どちらかというと「失った荷の分はしっかり弁償してもらいますよ!!」とか、怒られるのかと思ってたよ。
「それは助かりますわ。……装備のことで、私達も何かと入用ですの。
では、その交渉を先に済ませてしまいましょうか。いいですわよね、アイリス?」
「え? ああ、えっと。ボクは追加報酬なんていいですよ。装備の被害もなかったんですし……」
とはいえ、僕としては追加報酬と弁償、正直どっちを言われても良かったんだよねぇー。
弁償って言われたら、「半分くらいは守れたんだから、コレで満足しなよ?」って感じで、押し通せばいいんだからさ。
追加報酬のために交渉なんてしないといけないのなら、むしろメンドーになっただけかも……。
「あなたは私達の介抱もしてくれましたし、重要な役割を果たしてくれましたのよ?
ですから、堂々と報酬を得る権利がありますわ。
……それに、こういうことはちゃんとしませんとダメですわよ。
冒険者としても、大事なことなのですからね?」
「え、ええっとー、交渉ってあ、あんまり得意じゃなくて……」
また、ノラお姉様に窘められちゃったね~。
でもやっぱり交渉とかやる気が出ないし……どこかに、僕の代わりをしてくれるような、頼りになる素敵なお姉様はいないかなぁー?
「し、仕方ありませんわね……っ。今回はあなたの分も代わりに交渉しますわ。
……けれど、今回だけですわよ?」
お、俯いたりチラチラ見上げたりして、渋ってたらなぜか代わってくれた~。
本当にノラは素敵なお姉様だよね~。
「は、はい。よろしくお願いしますぅ」
「ええ、私が引き受けたからには何も心配は要りませんわ。
すぐに終わらせますから、少しここで待っていてね」
それにしても、彼女はお金なんて気にしないタイプだと思ってたから、報酬に反応したのは少し意外な気もするね。
んー、でもこのダガーやバックラーだって割と高かったと思うし、彼女達の方が高い物使ってるはずだよね。
そう考えたら、当然の事なのかなぁ。
きっと高ランクの冒険者は、その分お金も必要になるんだろうね。




