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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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隊商護衛 8

「――そこは危険よっ!? 早く逃げてっっ!!」



 ゆっくりと走る馬車の荷台、そこで寝ていた美しい金髪をした騎士風の少女が、悲鳴にも似た叫び声を上げながら起床した。

 彼女は現状を把握しようと周囲を見回すが、すぐに暢気な少女の声が聞こえてくる。



「あ、よかった~。ノラさん、ちゃんと意識が戻ったんですね~」


「えっ……アイ、リス? いきてます、の……? っ!! よかった……っ、生きていてくれてよかったですわっ」



 うーん、抱きついてくれるのは嬉しいけど、ほぼ鎧の感触だから微妙なんだよね……。


 おっと、状況が分からないよね。

 簡単に説明すると、実はノラは死んでなかった……とかじゃなく、僕がレイズデッドの魔法をかけて蘇生させたんだよ。

 他の娘達にも同じようにしたから、みんなもそのうち起きるんだろうね。



 それにしても……魔法を使えば復活させられるなんてねー。

 これでまた一つ、テキトーなところで死ねない理由ができちゃったよ。


 んんー、アンデッド化に蘇生魔法かー……どっちも不可能なくらい酷い状態の死体なら、本当に死んだ事になるのかな?

 でも、炭化でダメということは、灰になるくらいはしないといけないってこと……?



「本当に、よかった……っ。(リア、今度は救うことができましたわ……)」



 抱き着いたままのノラが、小さく呟いた声が聞こえた。

 "リア"……? ユリアのこと? でも、そんな呼び方は聞いた覚えがないような……。



「けれど、よく助かりましたわね。たしか、あなたが乗っていた馬車は、火の海に飲み込まれて…………」


「えぇっとぉ、それは…………。し、信じられないかもですが……っ!

 あの時は偶然にも馬車の外に出てまして、それでたまたま助かったんですよ!

 うんうん。そうだった、そうだったっ……で、ノラさん達がワイバーンと戦っている間に、安全なところへ避難して…………」


「え? ちょっと、待ってくれるかしら。私達がワイバーンと、戦う……? 何の話をしているの??」



 彼女は、困惑顔で聞き返してくる。

 もしかして、忘れちゃったのかな? いやいや、まさかねぇ……?



「……ボクが見た時は、四人でワイバーンと決死の戦闘をされてましたよ?」


「じょ、冗談ではない、のよね? けれど、そんな記憶は……」



 ノラは嘘を……? でも、彼女がそんな嘘をつく理由はないと思うし……え、じゃあ本当に……?。



「……っ! すまんっ、いつの間にか寝てしまっていたようだっ」


「…………どうしたん、ですかぁ? あれぇ、ここはぁ……?」


「……?」



 お、残りの三人も目を覚ましたみたいだね。

 ちょうどいいや、彼女達にもワイバーン戦のことを聞いてみよう。


 ……その前に、注意事項くらいは伝えてあげないとね。



「おはようございます。ちょっと聞きたいことが出来たんですけど……ユリアさんとエルネさんは、あまり動かない方がいいですよ?」


「えぇ~? どうしてですかぁ~? ……んんーっ」



 寝起きの緩慢な動作で伸びをしたユリアから、はらりと布が落ちる。

 ――それにより現れたのは、あどけない少女の(けが)れない裸体であった。



「ユ、ユリアっ!? なんでお前、裸で寝てる――って、私もかっ!?」


「はだかぁ~? なにいって……きゃああああああああああああああああ!! ど、どうして!? わたしに、何が起きたんですかぁ~~!?」


「二人の服は、ワイバーンの攻撃でお亡くなりになったので、とりあえずその辺にあった布をかけておいたんですが……ダメでしたか?」


「ダメですよ!! こんな薄い布一枚で乙女の肌を……え、ワイバーン??」



 こっちも覚えてない感じかな?

 んー、エルネの方も困惑してるみたいだし、どうやら全員同じような状態みたいだ。


 ということは、ある程度の記憶がなくなるような特性が、蘇生にはあるのかもしれないなぁ。

 ……じゃあ、この状況を活かしてイイ感じにねつぞ……説明してあげよう~。



「みなさん記憶があいまいなようなので、ボクが見た出来事を説明しますよ。まずは――」



 ま、僕がワイバーンと戦ったところはなしにして、彼女達がワイバーンを撃退したことにすればいいよね。

 ノラ達が勝てないモンスターを、僕が一人で戦ったなんて言ったら絶対にメンドーな事になるし。



「……記憶はないが、この状況では信じるしかないのだろうな」


「そんなことがありましたのね。……感謝しますわ、アイリス。

 戦いで疲労して、倒れてしまった私達を介抱してくれたのは、あなたなのよね?」


「その前にっ、ノラ様の怪我は大丈夫なのですか……?

 鎧がそんなことになるなんて……っ、お、大怪我をされているとしか思えないのですが!?」


「一応、回復魔法は使っておいたので、目立つような怪我は残ってないと思いますよ」



 ユリアはなおも心配そうではあるが、それ以上は何も言わない。


 おお、意外と僕の魔法も信用されてるんだね~。

 念のため蘇生した時に確認したから、本当に傷跡は残ってないはずだよ。……そう、全身(くま)なく見たからね~。



「あんのー、取り込み中のところ悪いんですが、そろそろ到着しますんで……」



 彼女達と楽しくおしゃべりしてたら、御者台から遠慮がちに声が届けられる。


 ホントだぁー。馬車が進む道の先に、ブルクハルトと同じような城壁が見えるね。

 今日は色々とあったし、ゆっくり休めそうで良かったよ~。



「……気にはなっていたが、御者はどうしたんだ? 朧気(おぼろげ)だが、ワイバーンの襲撃で逃げ出していたように思うんだが……」


「ん? ああ。ワイバーンが飛んで逃げていくところを見た人が、何人か戻って来てくれたんですよ」



 後片付けとかは、みんな彼らにお任せ出来たから、そこは幸運だったね~。

 ノラ達を復活させたのは、半分くらいそれが理由だったのにさ。生き返っても、すぐには目覚めないなんてね。


 ……え、半分じゃなくて全部だろって? い、いや、そんなことはないよぉー。



「なので、彼らと協力して動かせる分だけでキャラバンを組み直しました。

 ……この馬車に積んであったものは勝手に降ろしちゃったんですけど、そこは許してくださいね?」


「そ、そうか。それは私が文句を言えることではないからな……。

 むしろ、色々と世話になった……ありがとう……っ。

 ……おい、ニヤニヤすんなっ! 聞いてんのかっ!? おいっ!」



 はい、可愛い照れ顔いただきました~。

 というわけで目的地にも無事着いたし、美少女達との交流も楽しめたし、今回の隊商護衛依頼も完了かな~。


 んん? 僕はそれが目的でこの依頼を受けたんだっけ?

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