空の襲撃者 4
四人が決意を固めると、それを待っていたかのようにワイバーンが高度を下げ始めた。
その動きはゆったりとしたもので、何の警戒心も抱いていない様は、まさに王者の風格だ。
「舐められたものですわね……っ」
「敵とすら認識されていないのだろうな。
……だとすれば、ヤツが降りてきたのは食事のためか?」
一瞬、再度頭に血が上りかけたが、何とか耐えることに成功する。
……そう、頭は冷静に。そして、この胸に燃え盛る怒りは、あいつにぶつけますのっ。
「おそらく、小細工は通用しないでしょう。なので、とにかく全力で仕掛けますわよっ」
大雑把な方針のみを伝え、ワイバーンへ向かって突き進む。
作戦なんて呼べるものではないけれど、私は何も心配することはない。
……だって、信頼する仲間達はそれだけで最良の動きをしてくれるのですからっ。
「無礼な亜竜よ! あなたの敵はこちらですわよっ――はあああああぁぁぁぁぁっっっ!!」
最大限の気迫と共に鱗へ振り下ろした剣は、硬質な音を響かせて弾かれてしまう。
くっ、硬い!! 傷つけることもできないだなんてっ!?
「GUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
攻撃されたことで、初めて敵と認識したワイバーンが反撃姿勢になった。
「はあっ――<ファストアロー>!」
が、それは最も信頼する弓兵が上手く牽制して、攻撃圏外に逃れるだけの十分な時間を作ってくれる。
「ちっ、硬い鱗だ。刺さりもしないか……」
「次は、わたしの番です! ……<アイスショット>!!」
連続して放たれる矢から間を置かず、人の頭部ほどもある氷塊が魔法によって出現する。
ユリアは、それをワイバーンの胴体へと狙いを定め――射出した。
「ッ!! GUWAAAAA!」
しかし、目の前で発射されたそれは射線を容易に推測され、その巨体からは想像できないような素早い身のこなしで避けられてしまう。
……避けられた? では避ける必要がある、ということですのね。それなら……っ!
「こちら、ですわよっ! <スラッシュ>っっ!」
次は、横薙ぎの一閃を当てる。
先程の振り下ろしに比べれば劣ってしまう威力を、スキルによってカバーした一撃ではあったが、同様に衝撃ごと硬い鱗で阻まれてしまった。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!」
「っ! ――<防具強化>!! ぅぐッッ!?」
さらには、ワイバーンの強靭な尻尾による反撃を受けてしまう。
強烈な一撃ですわ……っ。咄嗟に防御力を上げていなければ、危ないところでした。
……けれど、狙い通りですわねっ!
「……<アイスショット>!!」
ワイバーンの意識から外れたユリアの魔法が、再度放たれる。
全く同じ魔法ではあるものの、今の攻撃で体勢を崩した状態では避けられない一撃だ。
「……ッ! GUWAAAAAAAAAAッ!!」
「なっ!?」
避けられないはずであった魔法は、ワイバーンが吐き出した灼熱の炎で相殺……いや、溶かされて完全に消滅してしまう。
しかも、その炎は後衛のユリアとエルネを焼き尽くさんと、なおも迫る勢いがあった。
「ファイアブレスだ、防げるかっ?」
「は、はいっ――<アクアウォール>っ!」
突如、人間の背丈くらいは覆い隠せる水の壁が出現し、炎をせき止めることに成功する。
「……油断。<バックスタブ>――ッ!! 刺さらないっ!?」
ミアはいつものように気配を殺して敵の背後へと近づき、そして生物にとって弱点であるはずの首にナイフを突き立てたが、やはりワイバーンの鱗はそれを通さない。
「GUWAAA!! GYAAAAAAAッ!!」
「しまっ!? ――がふっっ!!」
「ミアっ!!?」
ワイバーンに振り落とされた彼女は、身動きの取れない空中で尻尾攻撃の餌食となり、木々の茂みへと弾き飛ばされてしまった。
先程受けた衝撃を考えれば、ミアは最悪……っ。今は目の前の相手に集中しませんと……っ!!
「ミ、ミアさんっ!? すぐにヒールを……っ」
「待て! 先にワイバーンを――またブレスかっ!! <ファストアロー>っ、くっ、気にも留めないっ!?」
再びブレスの予備動作をとるワイバーンに幾本もの矢を射かけるが、何の痛痒も与えることができないと理解されてしまった攻撃は無視されてしまう。
「こちらには、私もいますわっ! <パワースラッシュ>っ!! っっ! これでもダメ……っ!!」
「GUWAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「何度だって防いでみせますっ!! <アクアウォール>っ!」
再度二人の前面に出現した水の壁は、炎のブレスを無効化することに成功する――なのに、この違和感は何かしら?
先程と比べて……ワイバーンの姿勢が浅い? ま、まさか……っ!?
「二人共っ、そこから逃げ――」
「なっ!?」「ちっ!?」
そう警告を伝えようとした時には手遅れで、ワイバーンは唐突に飛び立ったかと思うと、水の壁の上から頭をのぞかせる。
……こうなってしまえば、ユリアとエルネを守っていた壁は意味をなさない。
「GYWAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!」
そのままワイバーンはファイアブレスを放ち、新たに完成した食料の前へ降り立つ。
「そ……そんな……っ。……どうして、私はこんなにも無力、なの……?」
ユリアとエルネがいた場所にあるのは、折り重なるように倒れた二つの黒い塊。
戦闘中のミアは、常時気配を悟らせないようにしていますけど、おそらくは重症か手遅れ…………それでも諦めるわけにはいかない。
ここで諦め、素直に殺されるだなんて、あの子達に失礼過ぎますわっ!
「……いつの間にか、一対一ですわね。流石はドラゴンに連なるもの……ここで戦えたことを、光栄に思いますわ」
卑小な人間の一人語りになど、興味もないのだろう。
一瞬目を向けるだけで、すぐにユリアとエルネであったものに意識を戻してしまう。
相手にもされていない……そうですわね。むしろそれで構いませんわ。
……最後に狙うは、比較的に柔らかいはずの口の中。空腹なのでしたら、この身をエサにして挑めば一矢報いるくらいはできるかしら?
「ですからっ、まだ私がいると!! 言っているでしょぉっっ!!」
相手の攻撃を誘発するため、適当な言葉を叫びながら全力で突撃する。
それに対する反撃は――爪? ……ブレスか、噛みつきでしたらよかったのですが、仕方ありませんわね。
左手のラウンドシールドを構え直し、迫りくる鋭い爪に備える。
そして、爪が当たる寸前にスキルを発動し――
「GUWAAA!」
「<防具強化>っ!! ……ッッ、ぐぶっ!?」
――金属を削る耳障りな音と、胸部を貫く強烈な苦痛を最後に、私の意識は途絶えたのだった。
【レオノーラ視点 終了】




