現世の死霊 2
「……来た」
「そのようね……。私にも見えるところまで来てしまいましたわ」
彼女達の言う通り、真暗な森の中から数人の男が出て来た。
一見しただけでは普通の人にしか見えない彼らだが、そのフラフラとした足取りは得体の知れない不安を掻き立てられる……ような気もする。
まあ要するに、美少女達と肝試しが楽しめるってことだよ。
僕もいつの間にか陽キャの仲間になれたんだね。嬉しいなぁ~。
「進路が逸れてくれれば、と期待しましたのに……アンデッドの生者に対する嗅覚は相当なものですわね。
それでは、予定通り初めの一撃をお願いね」
「ああ。――そっちも外すなよ?」
「けっ、外すわけねぇだろうが――よッ!」
2本の矢が、今にも地面に刺さってしまうのではないか、と心配になる程の低空を飛んでいく。
その矢は確実にゾンビを狙っており、数瞬の後には先頭グループの二体の足に命中した。
「ぁぁぁああ?? ああアアア゜ア゜ア゜ア゜ア゜ッッッ!!!」
初めは小さなうめき声を発していたゾンビ達だったが、攻撃されたことを認識したのか大きな奇声へと変化していく。
だけど、弓矢の影響はそれだけだ。
既に死体となった彼らには、何の痛痒も与えられていないのだろう。
そして次の瞬間には、こちらに向けて走り出した。
「ア゜ッ――ングッ!?」
「思ったよりも迫力あるなぁ」なんて考えてたら、先頭のゾンビが派手に転んだね。
暗いから足元が見えなかったのかな?
……いや、違う? ああ、なるほどね。
あれは足自体がなくなった、と言った方が正しいみたいだ。
よく見れば倒れたゾンビのものだった足は、矢で地面に縫い付けられている。
痛覚がないから、無理に動かそうとして取れちゃったみたいだね。
とはいえ、足がなくなった程度ではゾンビは止められない。
地面を這ってこちらに近づこうと腕を伸ばした――ところで、後ろのゾンビが踏みつけて、今度はそれが転倒する。
その連鎖は多くのゾンビを巻き込み、見えている範囲だけでいえば、半数くらいの動きを封じたことになりそうだ。
「この隙に、残りの第一陣を叩きますわよっ! はあああああぁぁぁっっ!!」
ノラが転ばずに接近してきたゾンビの相手を始めた。
複数の敵から同時に攻められても、彼女の方が圧倒してるところを見ると、やはりゾンビというのはあまり強くないのだろう。
でも、接近戦なんてやっても大丈夫なのかな?
ゾンビものだと、噛まれたらウィルス的なのに感染して、ゾンビになっちゃうみたいな展開あると思うけど……。
「私らも負けてらんないねぇ! ほら、いくよっ」
「ああっ!」
それに触発されて突撃するハンナと主人公くん……と、槍と盾を持った人達。
こっちも普通に戦ってるし、そういうのは気にしなくても問題ないみたいだね。
さて、出だしは順調だ。とはいえ、敵は数が多いからね。
数人だけで、どこまで防ぐことができるかな?
「オオオォォッッ!! ォォォ――オ゛オ゛ッ!?」
「っ!? きゃぁぁああああ!! ゾ、ゾンビっ?! ゾンビが来てますっっ!!」
「――っしっっ!
落ち着け! 前衛が討ち漏らした敵くらい、冷静に対処すれば問題ないっ」
前衛陣をすり抜けることに成功したゾンビは、エルネに頭部を射抜かれて動かなくなった。
という感じで戦闘も進行してるけど、それはよりも重大なことが発生した。それは――
「は、はいぃ。そうです、魔法で……ひッ!? やっぱりゾンビは苦手なんですよぉぉぉ……っ」
「…………」
――怯えた様子のユリアが、僕の手を握ってきた事だ。
おそらくは無意識下であろう行動だが……小動物みたいで可愛いな~。
彼女の手は、僕と同じくらいの大きさで、さっき握ったエルネのよりは大きい。
だけど、こっちの方が柔らかさは上みたいだ。
最近、女の子の手を握る機会によく恵まれるよね。
これが美少女になった効果か……素晴らしいなぁ。
「ユリアさんは、アレが苦手なんですね」
「え、ええ、まぁ……はい……。
遭遇するのは今回が初めてではないのですが、どうしても慣れなくて……。
あっ、手……っ、ごめんなさいっ」
「ううん、このままでいいですよ。ボクもこの方が落ち着きますから」
離れそうになった手を、何とか繋ぎ止めることに成功した。
ふぅ、危ない危ない。この感触はもう少しくらい味わっていたいもの。
「次が来るぞっ!」
手に伝わる感触に向けていた意識を前方に戻すと、数を増したゾンビ達の群れがノラ達に襲い掛かっている。
たしかに、またこちらにも来そうな気配だね。
「つ、次はわたしが、やりますっ――<ヒール>っっ!!」
「ァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!! ァァ……ァ…………」
回復魔法に包まれたゾンビは、苦しむような声を上げるが次第に大人しくなっていく。
そして、魔法の効果が切れる頃には、地面に倒れて動かなくなった。
元の死体に戻ったようだね。
へぇー。ゾンビが相手だと、本当にダメージを与える魔法になるんだ。
「それじゃあ、ボクもやってみますね。<ヒール>」
「ッ! ァ…………」
一体くらいは僕も倒しておこうかなー、なんて軽い気持ちで放った魔法だったが、それに当たったゾンビは一瞬動きを止めた後、全身が砂のようになり跡形もなく崩れ去ってしまった。
「えっ。あ、あれぇ、思ってたのと違う……ような? あの、今の何か間違って――」
「す……っ、凄いっ!? な、何なんですか、その魔法は!? ヒール……??
アイリスさんが使ったのは、本当にヒールなんですか?!!」
「あぁ、えぇと……」
……ユリアのこの反応から考えて、どうやらやり過ぎてしまったみたいだ。
えぇぇー、たかだか回復魔法と思ってたけど、これまで加減しないといけないのぉ?
「……い、今のはまぐれですよ~。ほら、次はそんなことないですからね、<ヒール>~」
かなり威力を抑えた――と個人的には思ってる――ヒールを浴びたゾンビは、少しの間うめき声を上げてから、また砂のようになって崩れる。
「いやいや今度も何かの間違い……」と言ってから再度、魔法を使っても砂のようになって崩れ落ちた。
もう一度っ、と何回か試してみたけど、結果は大して変わらないね……。
「お、おいっ、アイリスっ! ポンポンと使い過ぎだ!
大物がいると言っていただろ? 魔力は温存しておけ」
「は、はい。そうですね……」
エルネに叱られちゃったし、回復魔法を試すのはここまでにしておこう。
……隣をみたら、ユリアも心配そうな顔してるしさ。
「すみません、ユリアさん。ちょっと張り切り過ぎちゃったみたいですね」
「……いえ、悪いことではありませんから。
見てください。アイリスさんが頑張ってくれておかげで、ノラ様達がだいぶ楽になりましたよ。
ですが、そのことよりも――」
とその時、前衛の方が俄かに騒がしくなる。
「ど、どうして……っ。どうして、ロータルさんがこんなところに……っ!?」
あの人は主人公くんの知り合いなのかな? 知り合いなんだろうねぇ、彼の反応からしてさ。
……でも、その人は手遅れだと思うなぁ。




