隊商護衛 6
晩御飯を食べ終えてから数時間が経った。
今、僕と一緒に火を囲んでいるのはノラとユリアだけで、エルネスタとミアは仮眠をとっている。
夜の間は交代で見張りを行うみたいだね。
……よく考えずにこの依頼を受けてしまったけど、彼女達が参加してたのは幸運だったかも。
もし、『希望の剣』だけだったら、気まずい夜を過ごすことになってたよ。
「昼間はモンスターに出会いましたけど、街道周辺でも襲われることって多いんですか?」
「そうね……。モンスターの行動次第になりますから、襲撃されるかどうかはその時々で変わりますわ。
けれど、街から街へと移動するだけだからと、護衛も連れない旅人が行方知れずとなるのは、珍しいことではありませんわね」
「そうなんですか。てっきり街道は安全だと思ってましたよ」
危険な世界だね。
夜に遭遇するものなんて、野生の動物か不審者くらいだった前世と対比しちゃうよ。
……ん? そういえば、護衛なしで故郷へと帰って行った3人のエルフ娘がいたような……。
いやいや、彼女達なら大丈夫だよね。たぶん元気にしてるって!
「そのような国が理想なのでしょうね……。
私達が一匹でも多くのモンスターを討伐して、そんな世の中を――ユリア……? どうしましたの?」
「ぅぅ……ん、…………」
急にノラの肩へ、こてんと頭を載せるユリア。
いつもこんな感じに甘えているんだとしたら、それはそれで微笑ましいことだけど……眠くなっただけみたいだ。
「ふふっ、限界のようね。悪いけれど、ベッドまでこの子を運んでくれるかしら?」
「はぁ、それはもちろん構いませんが……ボクに任せちゃっていいんですか?」
「? ええ、アイリスが問題ないのでしたら、お願いしますわ」
ユリア的には、ノラの方が嬉しいと思う……でもぉ、お姉様の許可が出たのなら、喜んで引き受けるよ。
せっかくの機会を逃す手はないよね!
「分かりました、任せてください! ……ユリアさ~ん、ボクと一緒にベッドまで行きますよ、っと」
既に眠気でゆらゆらしている彼女が倒れてしまわないように、その華奢な腰に手を回す。
そうなれば当然、密着しないといけないわけで……おお、柔らかい~、それに仄かに優しくて甘い香りが~。
「それと、アイリスもそのまま眠ってくれて構いませんから」
「えっと、いいんですか? 夜はまだ長いと思いますけど……」
「貴重な魔術師が疲労していては、何かあった時に困ってしまいますわ。
なので、あなたが休むのは私達のためにもなりますのよ?」
眠気は全くといえる程に感じてないけど、ノラがそういうのならユリアと一緒に眠ろうかな。
美少女と一緒に眠る……うへへ~。
「ありがとうございます。では、お先に失礼しますね」
「お休みなさい」
***
僕が進むと、ユリアも寝ぼけながら歩き出す。
こうして並んでみると、彼女の方が少し背が小さい。
体も本当に細いし、簡単に折れてしまうんじゃないだろうか。
……このまま草むらにでも連れ込んで、悪戯したくなっちゃうなぁ。
じょ、冗談だよ? いやいや、ホントだって! そんなこと本気で考えるなんて……ねえ?
さ、さて、僕達の寝床について説明しておこうかなー……。
ええと、ベッドとか寝床とか言ったけど、別にそんな大層なものではなく、地面に布を敷いただけの場所だね。
それなら移動しないで、みんながいるところで寝ればいいんじゃないの?
と思うけど、少し工夫がしてあって、その周りを囲うように荷馬車を配置している。
モンスターが襲ってきた場合は、「これが盾にもなる」とか言っていたような、いなかったような……まあ、何か考えがあるらしいよ?
「ユリアさーん? ベッドに着きましたよー? ……もしかして、ボクと一緒に寝たいですか?」
「ぅぅ? いいですぅ、一人で寝ますからぁ。ありがとう……ございましたぁ……」
彼女は、半分眠った声で答えてから自分の寝床へと入っていく。
くっ、さり気なく聞いてみたのにダメだったか……というか今、しっかり拒否してから眠らなかった?
普通にショックなんだけど……。
はぁ、もういいや。大ダメージをもらったし、僕も寝よっと。
………………うーん、何か物足りないような?
でも物足りないって、何が――ああ、そうか。数日前では、イイ感じの抱き枕(美少女エルフ)がいたんだった。
なるほどね。これが枕が変わると眠れないということかー。
それじゃあ仕方ないよね。誰か代わりになりそうな娘を――
「あっ」「えっ」
――と考えて目を開けたら、ユリアと目が合った。
「まだ眠ってなかったんですね?」
「ぇ、ええと……ふ、布団に入ったら目が冴えてしまって……っ。そういうこと、ありませんか……?」
「ああ、はい。偶にありますよね」
眠くなって布団に入ったはずなのに、結局は寝れなくて数時間退屈な時を過ごすアレ。
何でなるのかな? 不思議だよねー。
「…………。今日のノラ様、どう思いましたか?」
「へ? ノラさんですか? そう、ですねぇ……初めて会った時と同じで、お綺麗でした?」
唐突な質問への回答は、極々普通の感想しか出なかった。
でも、まぁ……うん、これしか答えようがないよね。
彼女と会ったのなんて、まだ二回目だしさ。
「……今日のノラ様は、本当に楽しそうで、何時もより輝いていました……」
「そうなんですか」
ふーん、僕にはよく分からなかったけど、ノラ大好きの彼女がそう思ったのなら、間違いはないんだろうね。
「アイリスさんは…………」
「?」
「アイリスさんは、ノラ様のことが……す、好きですか?」
ユリアの表情は相変わらず優しげなものだ。
だけど、その目はどこまでも真剣で……うん、この質問はどう考えても重要だぞ。
もし返答を間違えれば、大変なことになるのは確実だろう。
……ん? 待てよ。大変なことって、具体的にはなんだろうか?
刃傷沙汰とか……? それは悪くない、というか良いのでは……?
よし! 美少女と美少女を取り合って死ぬ。
そんな最高の最後を迎えるために、大袈裟に答えてみよう~。
「……大好きですよ」
「っ!? そ、それは友人として……ですよね?」
「友人……ノラさんがそう思ってくれるのなら、それでも嬉しいです。
ですが、出来ればそれ以上の関係になりたいですね」
「そ、それ以上って、どこまでの関係なんですかっ!?」
「ボクとしては、どこまでだって問題ないですよ。もちろんこの体を捧げる事も……」
「か、からだ~~~っっ!!」
「はい~。だって、初めて会った時には、命を助けてもらいましたし~。
今日もハーピーから身を挺して守ってもらいましたからね。
もう、この体はノラさんのモノと言っても過言では……あれ? ユリアさん聞いてますか?」
「…………」
返事がない。いつの間にか寝てしまったみたいだ。
えー、今イイ感じに盛り上がってきたところだよ? もうちょっと付き合ってくれてもさー。
……とりあえず言えるのは、ユリアに刺されて死ぬことはないってことかな?
いやいや、結論を急ぐ必要はないか。もしかしたら、僕が寝てるうちにヤッてくれるかもしれないし……まぁ、ほぼほぼ無い展開だとは思うけどね。
あーあ、もういいよ。寝よう寝よう。じゃあね、お休み。




