隊商護衛 5
ハーピー戦による被害は、キャラバン側・冒険者側共に大したことはなく、戦闘で乱れた隊列を組み直すことで、再出発の準備はほぼ整った。
とはいえ、そのまま出発とはならないみたいで、次に始めたのは倒したハーピー達の埋葬作業だった。
戦闘が終わってすぐに土いじりだなんて、過酷だよねー。
ま、僕は馬達にヒールをかける担当だから、そっちの作業は横目で眺めてるだけだったけどさ。
さて、そんなことを考えてたら埋め終わるみたいだし、そろそろノラ達のところへ行ってみようかな~。
「モンスターもちゃんと埋葬してあげるんですね」
「ええ、彼女達にも弔われる権利はありますもの。
それに、アンデッド化のリスクを考えれば、粗雑なことはできませんわ」
ふむ、"アンデッド化"ね。
さすがは異世界、変な現象もある……んん? そういえば、魔法やスキルに関係ありそうなものがあった気が……。
「アイリスさんは、ヒール以外にも聖属性の魔法が使えたりするんでしょうか?」
「聖属性ですか? ……いえ、使えません」
「……そうですか。わたしもヒール以外は使えないので、教えてもらえれば、と思ったのですが……。
他の聖属性魔法を使える方は希少ですし、高名な司祭様でもないと扱えませんよね」
ユリアは、今の嘘を信じたようだ。
あ、もちろん他の聖属性の魔法も、それ以外の火や水、風、雷、土の属性も使えるし、死属性――死霊を生み出したり、操ったりすることもできる魔法も使えるみたいだよ。
でもとりあえず、そういうことは黙っておこうかな。
ユリアも希少とか言ってるし、下手に「使えますよ~」とか言ったら、後で絶対メンドーな事になるよね。
「レオノーラ殿、こちらは終わりましたが、どうしますかな?
まだ日は高いですが、無理に進むこともありませんし、野営の準備など始めてしまいますか?」
そんな話をしていたら、商人さんの登場だ。
この相談をノラにするということは、彼女を冒険者側の代表として認識してるのかな?
さっきの戦いでノラ達の活躍が目立ってたから、と考えてもおかしくはないんだけど……。
「お気遣い感謝しますわ。
ですが、こちらも問題はありませんし、先へ進むことをオススメしますわ」
「そうですか? ……ユリアさんやアイリスさんは、どうですかな?
お疲れでしたら、遠慮なく言ってもらって構いませんよ」
「わたしも問題ありません」
「ボクも、そこまで疲れてないので大丈夫です」
この人の言葉からは、妙に下心を感じてしまうんだよねー。
見た目とか、フインキとか……何かがそう思わせるのかな?
「お三方がそういうのであれば、出発するとしますかな~。ハッハッハ!」
「ええ、そうしてくれると助かりますわ。
もしかすると、逃走したハーピーが仲間を引き連れて戻ってくる、ということもあり得ますので」
「っ!? そ、それはいけませんなっ。出来るだけ急ぐことにしましょうっ!」
商人さんはやって来た時とは変わって、慌ただしく戻って行った。
うん、ちょっと緊張感が足りない人だよね~。
***
ハーピー達の埋葬を終えてしばらく街道を進んだ後、そろそろ日が落ちてきた辺りで野営を行うことになった。
街道の脇にはある程度の間隔を開けて、野営にピッタリという感じの開けた空間が点在しているみたいだ。
簡易的な竈まで設置されていることを考えると、誰かしらが整備してるのかな。
「はい、アイリス。あなたの分よ」
ノラが手渡してくれたのは、乾燥したよく分からない穀物や野菜をお湯で戻したスープ――要するに、今日の晩御飯だね。
調理スペースが限れているという話だったから、僕は用意しておいた材料だけ渡して、調理は彼女達にお任せすることにしたんだぁ。
「ありがとうございます。……ん、美味しいですね」
「そ、そう? それは何よりね……」
答える彼女の笑顔は引きつっている。
たしかに、味だけでいえば普通って感じだけどね。
でも、元々がカピカピの保存食だから、それにしてはいい味だと思うし……考え方次第では、美少女の手料理だしさ。
それだけで十分美味しいよね~。
「そういえば、アイリスさんはわたし達と別れた後、どうされてたんですか?」
「え? そうですね……」
いつものように可愛い笑みを浮かべたユリアが、問いかけてくる。
カルラ達との事は……話すと長くなりそうだし、それ以外にしておこっと。
「まずは冒険者になって、薬草とかの採取依頼をやりましたね。
あとは……森でモンスターを狩ったり。あっ、そうだ。ゴブリンを倒したりもしましたよ」
「――ちょっと待って。森でモンスターを……?
それにゴブリンとも戦うなんて、危険だったのではないかしらっ」
ノラがどんどん過保護になってる気がする……。
やっぱり、僕の見た目が戦闘に向いているようには見えないせいなのかなぁ?
「ノラ様、いくら何でも心配し過ぎじゃないですか?
アイリスさんだって、どこかのパーティに参加されてのことでしょうし……」
「あぁいえ、一人ですよ?」
「えぇっ? それはさすがに……」
返答を聞いたユリアは苦笑いだ。あの、優しい笑顔はどこへ……?
うーん、最近は美少女と行動する機会ができたけど、前世では一人行動が主だったからね。
それが最も落ち着く状態だから、仕方ないんだよ。
「で、でも、武器だってこれがありますし……ほら、この盾で防御も出来ますから、ね?」
脇に置いておいたダガーとバックラーをアピールしてみる。
これがあれば、駆け出し冒険者的には問題ない……と思うなぁー。
「ねえ、アイリス。あなたが冒険者になることを止める資格は、私にはありませんわ。
けれど、無茶はしないでほしいの。せっかく助けた命なのですもの、大事にしてほしいわ。
分かっては……くれないかしら?」
彼女は真剣な瞳で見つめながら、言い聞かせてくる。
これが、噂に聞く"お姉様"属性というもの、なのか……っ。
これは頷くしかないよ……うん、それ以外の選択肢なんてないよね。
「は、はぃ、分かりました……。もう危ないことはしないと誓います……」
「ええ、いいお返事ね。それでは、食事に戻りましょうか」
……もちろん、その場凌ぎの誓いだけど。
"命大事に"は、僕の行動方針には存在しないみたいだよ?




