空の襲撃者 2
でも、ただ見てるだけっていうのも退屈になってきたよ。
……それに、よく考えるとサボってるとか思われたら、それはそれで後がメンドーだなぁ。
仕方ない。もう一方のパーティーも見てこよう。
そういえば、さっき敵は4匹って言ったけど、正確には全部で7匹だね。
『黄金の盾』側に4匹、『希望の剣』側が3匹の計7匹。
ま、あっちのパーティーにいたモブな人達だったら、きっといい感じに怪我してるでしょ。
「エルマー、1匹そっち行ったぞっ!!」
「了解……だっ! <ファストアロー>!」
「甘いワッ!」
お、やってるやってるー。
えっと……状況的には、あの弓兵が中心に戦ってる感じだね。
なんか普通に避けられてるけど、こっちも油断を誘ってるのかな?
「今度ハこちらの番ダなッ! キィシャァァッッ!!」
「うおおぉぉぉっっ!!! 俺が盾で抑えてるうちに……っ、やってくれっっ!!」
「ハイモ! ああ、待ってろよっ! ――<ファストアロー>ぉぉっ!!」
「ヘヘヘッ、そんナン当たるカッ!」
んー。エルネスタに比べると、矢の速度も狙いも劣っているような気がするなぁ。
やっぱり、モブが強いわけないよね……うんうん、しょうがないよ。それがメインとモブの違いだもの。
あ、一応言っておくと、カルラと比べれば彼の方がもちろん上手だよ?
ほら、彼女達はなんというか……可愛さ重視というか、癒し枠? だからさ。戦闘能力は求められてないんだよね~。
「今のは当てるところだろーがっ!!」
「う、うるせぇっ!! お前の馬鹿デカい盾が邪魔で、狙いにくいんだよっ!」
「次は僕が相手だっ! はああぁぁぁ<スラッシュ>っっ!」
そして、弓と盾の二人が言い争いを始めたところで、主人公くんが斬りかかるが……
「遅イ遅イッッ!」
これは鉤爪のような手で止められてしまう。
彼は力押しが得意ではないのか、ハーピーに力負けしているようだ。
一対一の戦いは分が悪そうだし、誰か援護してくれる人は……おっ、来た。
「私も、いるんだよっ! <ダブルスタブ>っ!、はッ!!」
「ッ!! グッ! ゥゥゥうううう…………っ」
その横合いから迫ったハンナが、両手に持った細い剣を突き刺す。
片方は防がれてしまったが、対応できなかったもう一方が相手の脇腹を切り裂き、余裕のあった表情を苦痛に歪まさせた。
ここまでやって、やっと一撃与えられました、という感じだ。
ノラ達の方がスムーズに戦ってたし、やっぱり『黄金の盾』の方が強いのかなー。
「――は?? おわぁぁあああっっ!!?」
と、主人公くん達の方を眺めていたら、少し離れたところにいた弓兵が騒ぎ出した。
どうしたの……ああ、なるほど。
彼は空中のお散歩に招待されたようだね。
こっちのハーピーに気を取られてて、別の奴が忍び寄ってる事に気付かなかったんだろうなぁ。
「くそっ、てめぇ!? は、離せ!! 離せよぉぉっ」
「くくっ、いいのかヨ? ほんとに離しちまうゼ?」
「えっ……いや、待てっ! 離すなっっ!? ここで落とされたら――」
彼の現在地は、既に一軒家の屋根くらいは超えた高さだ。
ここで落とされるのは……、たしかに怖いね……。
「おいっ、俺の仲間を返せよ!! <投擲>っっ!!」
「ふッ! 外れダヨッ!」
「うぉおいっ!? 俺に当たったらどうする気だっ、クラウス!!」
スキルを使って投げた槍も、上手く躱されてしまったね。
だけど、困るなぁ。あれを投げられると、彼が何の人なのか判別つかなくなるんだけど。
「くくく、そんなに返してほしいナラ、返すヨ。ほらッ!!」
「お、ぉおおわぁッ、マジかよ!? たすぅけてくれぇぇぇっっ!!」
情けない悲鳴を上げながら、一直線に落下してくる弓兵。
ところで、人間ってどのくらいの高さまでだったら耐えられるのかな?
適度な怪我じゃないと、回復魔法が効かないんだけど……。
「死ぬっ!! 死んじまうって!?」
「うおおおぉぉぉぉぉっっ! ――とおぉぉぅぅ、ぅっ!! ぐぅぅっ……だ、大丈夫か?」
弓兵の落下地点に、ギリギリで盾使いが滑り込んだ。
自身の巨体を活かした救助方法だね。
「だい、じょうぶじゃねぇが……何とか、生きてるわ……あんがとよ……」
うん、ちゃんとダメージは受けてる。すぐに治さないとね。
「はいはーい、回復魔法ですね。<ヒール>」
「あぁ、回復魔法はありがてぇが、まだ体中が痛く――ねぇな……?」
「全回復したと思うので、戦闘に復帰していいですよー」
「マジかよ……っ。すげぇな、助かったぜ! そんじゃもういっちょ頑張ってくるわっ!!」
後はまた、眺めるだけの場所に戻って……とその前に、主人公くんがこちらに近づいて来た。
何か用でもあるのかな?
「すまない! 仲間が世話になったみたいだっ! 感謝するよ!!」
彼はそれだけ告げて、前衛へと戻っていった。
戦闘中なのに律儀だねぇ。
さてと、これでもう僕の仕事は終わりだぁ~。
後はゆったりと観戦していよう……って、わけにもいかないのかな。
上空で待機していた最後の一匹が、僕のことをじっと見ている。
おそらく『希望の剣』の面々は気付いてはいないのだろうね。
うーん、頭上だから死角になりやすい場所なのかなぁー。
もう分かってると思うけど、僕は見えてるよ。
前にも使ったことがあると思うけど、3人称視点が見えるようになる魔法を発動させて、地面から見上げている状態で固定してたからね。
ほら、ずっと空見上げてると首が痛くなるし……色々と覗けるしさ。
まあ、それは置いといて。
ハーピー達からすれば、敵を回復させる存在は目障りにしか思えないから、僕が狙われるのは当然か。
だけど、考え方によっては、むしろチャンスかも。
だってさ、やっぱり気になるものね。……あの羽毛の下がどうなってるのかとか。
あの邪魔ものを毟り取れば、その謎も解決するよね。
相手は鳥人間だから……そうだ。羽を切り落とせば簡単に捕まえられるかな?
さっき見た限りだと、急降下する時も大したスピードは出てないし、たぶん狙えると思うんだよね~。
そうと決まれば、気付かれないようにダガーを手に持って、と。
「――ッッ!!」
外見的には頭上を全く気にしていない僕目掛けて、ハーピーが静かに急降下してくる。
よーし、いい感じだよ~。そのままー、そのままー……待って? これはマズイかも……。
「アイリスっ、そこから逃げてっ!!」
そう叫んだノラが、こちらに全力で駆けてくる。
誰にも気付かれてないと思ったんだけど。そっか、彼女は気付いてたのか……流石だね~。
「気取られたか!? チッ!! でも、モウ遅いんダヨッ!!」
「間にっっ、あってええぇぇぇっっ!!」
目の前で、硬質なもの同士がぶつかる音が響く。
ノラは盾で、ハーピーの鉤爪による一撃を受け止めていた。
今度は一歩も押し込まれていないから、完全に防ぐことに成功したみたいだね。
「はっっ!! ――<スラッシュ>っっ!!!」
「なッ!? ッグガァッッ!! …………」
さらに盾で相手の体を払いのけると、その勢いを活かした一閃で胴体を袈裟切りにする。
胴体を切り裂かれ、大量の血を噴き出し続けるハーピーは倒れてそのまま動かなくなった。
そして、彼女がこちらに来たということは、あの2人も……。
「<ファストアロー>っ」「<ウィンドカッター>!」
「「ぎゃアアアぁぁぁぁッッ?!!」」
続いて飛んできた高速の矢と、風の塊が残りのハーピーを仕留める。
はい、戦闘終了だね。
って、それはいいんだけど……あー、重要なところが血で真赤に……。
汚れちゃったし、また遭遇した時にでも色々と調べればいっか。
「ありがとうございました。また、助けられちゃいましたね」
「気にしないで? 当然のことをしただけ、ですもの」
ノラ……セリフはカッコイイけど、返り血がべったりなのはちょっと……。
うん、僕も戦闘後には気を付けよう。とりあえず、彼女にもクリアの魔法を使って綺麗にしないとね。




