空の襲撃者 1
護衛の方針を共有し、積み荷の検査も完了したので、キャラバンはアイヒホルンへ向けて出発することになった。
到着までの日数は3~5日が目安らしく、モンスターに遭遇するとか、何かしらのアクシデントに出会わなければ最短の3日を狙えるみたいだね。
で、その1日目。
「――しっっ!!」
「おおっと危ネェッ! そこノ弓持ちーっ! 人間にしては、イイ腕してんじゃんッ」
南の森に並行する形で整備された街道を数時間進んだところで、早速の戦闘発生だー。
ま、商人さんがフラグ立てちゃったからね。こうなることは分かってたよ。
「エルネっ! 空中のハーピーを打ち落とすのは、至難の業ですわっ!
地上に降りてきた瞬間を狙いましょう!」
「イイねぇッ! よく分かってるじゃん! でモ、残念!!
そんな遅ェ弓じゃ、アタシ達は捉えられネェんだよッ!」
敵の見た目は、顔や胴体が人間の女で手足が鳥? って感じのモンスターだね。
ノラが「ハーピー」と叫んでいたから、たぶんそういう名前の種族なんだろうね。
うーん、それにしても……あの羽毛は邪魔だなぁ。
せっかくのほぼ全裸なのに、上半身も下半身も重要な部位が見えないじゃないか。
「おいッ、油断し過ぎダゾッ! ワナの可能性も考えろ!」
「ハァ? 隊長は慎重過ぎなんダヨ。アイツらはただのエモノ――」
「<ファストアロー>っ! お喋りなら戦いが終わってからにするんだな」
「――ア゛?? ッッングッァァアアあああっ?!」
エルネスタが次に放った矢は、油断したハーピーの翼を見事に貫通する。
んん? たぶん、さっきよりも矢の速度が速かったから、避けられなかった……のかな?
あのスキルは、矢の速度と威力を上げる系のスキルだったはずだし、そうだと思うんだけど……見た目の変化はあんまりないから、イマイチ分からないや。
「こッ、こんくらイッ! 問題ネェェッ…………ッ!!」
必死になって翼をばたつかせるハーピーだったが、その片翼に受けたダメージは大きく、真っ逆さまに落ちる状況を変えることは出来ない。
そして……
「はぁぁぁぁあああああああっっっ!!」
「っ!! くそォォォっ――ガッ!!?」
地上に落ちてきたハーピーは、ノラの鋭い剣筋に出迎えられる。
お、文字通り首が飛んだね。
なるほど。初撃の矢からノラの話まで、油断を誘うための演技だったのかぁ。
戦いも色々と考えてるんだねぇ~。
「チッ、言わんことではないな。反撃だ、風を放テッ!」
「は、はイ! ……ウ、<ウィンドカッター>ッ!!」
やや後方に位置したハーピーが、見覚えのある魔法を使う。
この風の魔法に対抗する相手は、もちろん決まってるよね。
「させませんっ! <ウィンドカッター>!」
ユリアが唱えた魔法は、同じように風の刃を生じさせ、二つの風刃が中空で衝突する。
「キャああああアアアッ!?」
魔法を使ったハーピーが何かに切り裂かれて、甲高い悲鳴を上げている。
どうやら、ユリアの魔法の方が上だったみたいだね。
だけど、風のぶつかり合いって、目視だと勝敗が分かり辛いというか……地味だなぁ。
「大丈夫カッ!? ……まだトべるな?」
「……ハ、はい。問題ありまセン……」
ユリアの魔法は確実に相手の体力を削ったが、ハーピーはまだ戦闘の意思を失ってはいないようだ。
相手の魔法で威力が減衰したのかもしれないけど、結構タフな敵みたいだね。
「ごめんなさいっ、仕留めきれませんでした……っ」
「いえ、十分よ。もう一度やればいいだけですもの」
ノラからユリアへフォローが入る。
でも、戦闘中だから短いやり取りになってしまうのが惜しいね。
もっと見つめ合ったり、抱きしめたり、キスしたりしてくれた方がこっちは盛り上がるんだけどなぁ……。
「そうカ。だが、オマエは一度戻れ」
「わ、私ハ、まだやれますッ!」
「ムリはするな。それに、拠点に戻ってあのカタに報告すルのも、また任務ダ」
「…………はイ……ッ!」
あのカタ? 彼女達は、誰かに命令でもされてるのかな?
とは言っても、ゴブリンだって組織的に動いてるんだし、不思議なことでもないか。
「逃がすかっ! <ファストアロー>っっ!」
「同じ手が効くカ!!」
隊長と呼ばれていたハーピーが、その鳥のような足の鉤爪で矢を弾き落とす。
矢に触れた時に甲高い金属音が響いたから、あっちも相当硬いんだろうね。
「<ウィ――」
「遅イッッ!!」
次にユリアが魔法を唱え始めたところで、彼女目掛けてハーピー二匹が突っ込んで来た。
これは勝負を決めにかかってるね~。
あっ、説明し忘れてたけど、敵はハーピーが四匹だよ。
その内の一匹はさっき倒して、もう一匹も今逃げたから、残りはこの突っ込んで来た二匹だけって事だね。
「ぐぅっっ!! ……私がいる限り、後衛に近づけるとは思わないことね?」
「やるナ、人間ッ!」
急下降によって威力が上乗せされたハーピーの攻撃を、丸形の盾で見事に防ぐノラ。
衝撃をすべて殺すことはできなかったみたいで、少し後ろに押されてはいたが、それでも現状は彼女達の方が優勢だろう。
それに……
「――ンドカッター>!! 次こそはっ!」
「ヘヘッ! 避けちまえバ魔法も無意味ダヨッ!」
「……私もいる。<バックスタブ>」
「ハ? ――ガァハッッ?!!」
もう1匹の方も、魔法を回避した事に安心して動きを止めたところを、隠密スキルで隠れていたミアに背後からの一撃をもらっている。
そのままバタンと倒れて……ああ、ぴくぴくと痙攣してるね。
あれはもう死んだも同然だぁ。
「クッ、残りは私ダケのようだナ……最後まで付き合ってモラウゾ? 人間ドモッッ!!!」
「あちらの覚悟は本気のようですわね。みんなっ! 気を引き締めますわよっ!!」
「はい!」「ああ」「……殺る」
さて、最終局面という感じだね。でも、流れ的には彼女達の勝ち確なんだろうなぁ~。
ん? 僕はさっきから何をしてるのかって?
もちろん見物を……ほら、回復担当として、ね? 全体をしっかり観察するのが大事なんだよ……たぶん。




