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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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空の襲撃者 1

 護衛の方針を共有し、積み荷の検査も完了したので、キャラバンはアイヒホルンへ向けて出発することになった。

 到着までの日数は3~5日が目安らしく、モンスターに遭遇するとか、何かしらのアクシデントに出会わなければ最短の3日を狙えるみたいだね。


 で、その1日目。



「――しっっ!!」


「おおっと危ネェッ! そこノ弓持ちーっ! 人間にしては、イイ腕してんじゃんッ」




 南の森に並行する形で整備された街道を数時間進んだところで、早速の戦闘発生だー。

 ま、商人さんがフラグ立てちゃったからね。こうなることは分かってたよ。



「エルネっ! 空中のハーピーを打ち落とすのは、至難の業ですわっ!

 地上に降りてきた瞬間を狙いましょう!」


「イイねぇッ! よく分かってるじゃん! でモ、残念!!

 そんな遅ェ弓じゃ、アタシ達は捉えられネェんだよッ!」



 敵の見た目は、顔や胴体が人間の女で手足が鳥? って感じのモンスターだね。

 ノラが「ハーピー」と叫んでいたから、たぶんそういう名前の種族なんだろうね。


 うーん、それにしても……あの羽毛は邪魔だなぁ。

 せっかくのほぼ全裸なのに、上半身も下半身も重要な部位が見えないじゃないか。



「おいッ、油断し過ぎダゾッ! ワナの可能性も考えろ!」


「ハァ? 隊長は慎重過ぎなんダヨ。アイツらはただのエモノ――」


「<ファストアロー>っ! お喋りなら戦いが終わってからにするんだな」


「――ア゛?? ッッングッァァアアあああっ?!」



 エルネスタが次に放った矢は、油断したハーピーの翼を見事に貫通する。


 んん? たぶん、さっきよりも矢の速度が速かったから、避けられなかった……のかな?

 あのスキルは、矢の速度と威力を上げる系のスキルだったはずだし、そうだと思うんだけど……見た目の変化はあんまりないから、イマイチ分からないや。



「こッ、こんくらイッ! 問題ネェェッ…………ッ!!」



 必死になって翼をばたつかせるハーピーだったが、その片翼(かたよく)に受けたダメージは大きく、真っ逆さまに落ちる状況を変えることは出来ない。

 そして……



「はぁぁぁぁあああああああっっっ!!」


「っ!! くそォォォっ――ガッ!!?」



 地上に落ちてきたハーピーは、ノラの鋭い剣筋に出迎えられる。

 お、文字通り首が飛んだね。


 なるほど。初撃の矢からノラの話まで、油断を誘うための演技だったのかぁ。

 戦いも色々と考えてるんだねぇ~。



「チッ、言わんことではないな。反撃だ、風を放テッ!」


「は、はイ! ……ウ、<ウィンドカッター>ッ!!」



 やや後方に位置したハーピーが、見覚えのある魔法を使う。

 この風の魔法に対抗する相手は、もちろん決まってるよね。



「させませんっ! <ウィンドカッター>!」



 ユリアが唱えた魔法は、同じように風の刃を生じさせ、二つの風刃が中空で衝突する。



「キャああああアアアッ!?」



 魔法を使ったハーピーが何かに切り裂かれて、甲高い悲鳴を上げている。


 どうやら、ユリアの魔法の方が上だったみたいだね。

 だけど、風のぶつかり合いって、目視だと勝敗が分かり辛いというか……地味だなぁ。



「大丈夫カッ!? ……まだトべるな?」


「……ハ、はい。問題ありまセン……」



 ユリアの魔法は確実に相手の体力を削ったが、ハーピーはまだ戦闘の意思を失ってはいないようだ。

 相手の魔法で威力が減衰したのかもしれないけど、結構タフな敵みたいだね。



「ごめんなさいっ、仕留めきれませんでした……っ」


「いえ、十分よ。もう一度やればいいだけですもの」



 ノラからユリアへフォローが入る。


 でも、戦闘中だから短いやり取りになってしまうのが惜しいね。

 もっと見つめ合ったり、抱きしめたり、キスしたりしてくれた方がこっちは盛り上がるんだけどなぁ……。



「そうカ。だが、オマエは一度戻れ」


「わ、私ハ、まだやれますッ!」


「ムリはするな。それに、拠点に戻ってあのカタに報告すルのも、また任務ダ」


「…………はイ……ッ!」



 ()()()()? 彼女達は、誰かに命令でもされてるのかな?

 とは言っても、ゴブリンだって組織的に動いてるんだし、不思議なことでもないか。



「逃がすかっ! <ファストアロー>っっ!」


「同じ手が効くカ!!」



 隊長と呼ばれていたハーピーが、その鳥のような足の鉤爪(かぎづめ)で矢を弾き落とす。

 矢に触れた時に甲高い金属音が響いたから、あっちも相当硬いんだろうね。



「<ウィ――」


「遅イッッ!!」



 次にユリアが魔法を唱え始めたところで、彼女目掛けてハーピー二匹が突っ込んで来た。

 これは勝負を決めにかかってるね~。


 あっ、説明し忘れてたけど、敵はハーピーが四匹だよ。

 その内の一匹はさっき倒して、もう一匹も今逃げたから、残りはこの突っ込んで来た二匹だけって事だね。



「ぐぅっっ!! ……私がいる限り、後衛に近づけるとは思わないことね?」


「やるナ、人間ッ!」



 急下降によって威力が上乗せされたハーピーの攻撃を、丸形の盾で見事に防ぐノラ。

 衝撃をすべて殺すことはできなかったみたいで、少し後ろに押されてはいたが、それでも現状は彼女達の方が優勢だろう。


 それに……



「――ンドカッター>!! 次こそはっ!」


「ヘヘッ! 避けちまえバ魔法も無意味ダヨッ!」


「……私もいる。<バックスタブ>」


「ハ? ――ガァハッッ?!!」



 もう1匹の方も、魔法を回避した事に安心して動きを止めたところを、隠密スキルで隠れていたミアに背後からの一撃をもらっている。

 そのままバタンと倒れて……ああ、ぴくぴくと痙攣(けいれん)してるね。


 あれはもう死んだも同然だぁ。



「クッ、残りは私ダケのようだナ……最後まで付き合ってモラウゾ? 人間ドモッッ!!!」


「あちらの覚悟は本気のようですわね。みんなっ! 気を引き締めますわよっ!!」


「はい!」「ああ」「……殺る」



 さて、最終局面という感じだね。でも、流れ的には彼女達の勝ち確なんだろうなぁ~。


 ん? 僕はさっきから何をしてるのかって?

 もちろん見物を……ほら、回復担当として、ね? 全体をしっかり観察するのが大事なんだよ……たぶん。

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