隊商護衛 4
「ええと、それではキャラバンの護衛計画を立てましょうか。アイリスもそれでいいわよね?」
「はい。ボクもそのつもりでしたから」
弛緩した空気が流れていたが、仕事の話になった途端に彼女達のフインキが変わった。
おー、やっぱりベテランの冒険者だね。
これなら計画の中身も彼女達メインで考えてもらった方がいいよね?
ま、僕は誰かが怪我をしたら、回復魔法を使うくらいしか役割はないと思うけど。
「いや、それは少し待ったほうがいい。もう1パーティ参加する予定――」
「あれ? そこにいるのはレオノーラじゃないか。キミ達も同じ依頼を受けていたんだね」
現れたのは、毒にも薬にもならない感じの凡庸な顔をした青年だ。
腰には、地面につきそうなくらいに長い剣を下げている。
おそらくは剣士なのだろう。
あの、大した特徴はなくとも、穏やかな表情と童顔気味な顔は……間違いない、主人公顔だよ。
絡まれるたら厄介な事になりそうだし、フードを目深に被ってなるべく目立たないようにしておこっと。
「カミル? それに『希望の剣』の皆さんも……そう。
今回の依頼では、仲間ということね。数日程度ですけれど、よろしくお願いしますわ」
「ああ、お互い目的は一緒なんだし、程良く協力しようか」
ん? よく分からないけど、2人の間からはピリリとした空気を感じる。
それに『希望の剣』か……。
たぶん「皆さん」って言ってたのは、後ろにいる人達のことを指してるのかな?
「(アイリスさんは、彼らのこと知りませんよね?)」
ススっと耳元まで近づいて来たユリアが、小声で問いかけてくる。
流れ的に、彼らのことを説明してくれそうだし、ここは甘えようかな。
「(そうですね……。やはり、あの方達も有名なんですか?)」
「(少なくとも、この街の冒険者の間では有名ですね。
リーダーで剣士のカミルさん、槍兵のクラウスさん、弓兵のエルマーさん、大盾兵のハイモさん。
そして――)」
「決めることは、早く決めちゃいましょ? 長話する必要もないし」
主人公顔の彼の後ろから、黒髪ロングの女性が出てきた。
黒髪美少女だ~、ちょっと懐かしくも……ん? 最近黒髪の人に会ったような……?
んー、思い出せないし、勘違いだよね。
「そうですわね。あまり無駄話をする仲でもありませんし、手短に済ませましょうか。
私達が概ね二つのパーティであることと、隊列の長さを考えますと――」
「その気取った前置きも、ね。私達は前を警戒する、あんたたちは後ろ。はい、これで終わりよ」
黒髪の彼女は、なかなかに鋭い口調と目をしている。
ノラのことが気に入らないのか、元々の性格なのかまでは知らないけど、仲が悪いのは決まりだね。
「(最後に、あの方が二刀細剣使いのハンナさんです。
彼女達五人が、Bランク冒険者パーティー『希望の剣』の全メンバーですね)」
「(なるほど。『希望の剣』ですか)」
ふーん、Bランクね。
たしかノラ達もBランクだって言ってたし、お互いライバル意識とかあるのかもね。
……こっちで張り合ってるのは、ノラしかいないように見えるけど。
エルネスタとミアの2人は、もう警備の段取りを話し合い始めてるみたいだ。
「……そっちも、それでいいわね?」
「え?」
急に話の水を向けられると戸惑ってしまうよ。
隠密スキルで気配を消しておけばよかったかな?
いや、依頼中は一緒に行動するんだし、挨拶くらいはしておいた方が無難か。
「え、えっと、初めまして。ボクはアイリスと言います」
「ああ、ほんとだ。初めて見る人がいるね。
もしかしてキミは……『黄金の盾』の新人さん、なのかな?」
「いえ、違います。一人で参加した冒険者です」
「そ、そっか。……ふぅ。おっと、キミはアイリスだったね。
僕はカミル。冒険者パーティー『希望の剣』のリーダーだ」
もうユリアから聞いたよ。とは思ったが、まあ仕方ない。
それが挨拶だよね。
「それで、あの……こんな格好をしていますが、回復魔法使いとしての参加でして……まだ、Eランクなんです。
なので、警備とか戦闘の方はお任せしてもいいですか?」
「へえー、回復魔法が使えるのか。
うん、いいよ。そっちは僕たちに任せてくれ」
よし。メンドーなところは丸投げ出来た。
これで、後ろの方でゆったりと見物させてもらうことができるね。
「それじゃあ、後方支援はよろしく頼むよ」
主人公くんはそう言って、手を差し出してきた。
おお、ちゃんとつけていた手袋を外してからだよ。
こういうの実物で初めて見たけど、何となく剣士? 騎士? っぽいというか、ファンタジーな感じがするよね。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ああ。……だけど、小さな手だなぁ。
いくら魔術師とはいえ、冒険者ならもう少し筋肉をつけた方がいいよ?」
「えぇと、そう……ですか?」
彼は握った手に軽く力を入れたりして、僕の手を確かめているようだ。
違うことに気を取られて、つい男の手なんて握ってしまったのが間違いだったよ……。
「腰の得物はダガーでしょ? キミも剣を手にして彼女達を守る気なら――」
「そこまでに、してくださる?」
「珍しくアンタと気が合ったね。
ほら、話はもう終わりだ! いくよ、カミルっ!」
「――おわっ!? 2人して何っ!? いきなり、どうしたんだよ??」
そうして、ハンナに引きずられるように退場する主人公くん……と、三人の仲間達がその後をついて行く。
え? その三人の描写はそれで終わりなのか、って?
槍、弓、盾をそれぞれ持った男達……うん、まあこれで十分だよ。
というか、もう彼らの名前も忘れちゃったし、あれは物語には関係してこないモブだよ、絶対。
「アイリス、ごめんなさいね?
彼も悪い人ではないのだけど、少々無神経なところが……ね」
「は、はい。大丈夫です……っ、大丈夫なんですが。ええと、手……」
「手……?」
主人公くんを追い払った後、次はノラが僕の手を握っている。
「っ!? ご、ごめんなさい! え、えっと……その……」
「だ、大丈夫ですから、気にしないでください! というか、ありがとうございますっ。助かりました!」
「う、ううん、気にしないで……っ」
ノラは先程よりも赤みの増した顔で、僕と握っていた手を反対の手で包み込むように握っている。
僕としては、むしろ美少女の御手ならずっと握っていたいよ? でもさ――
「………………」
ノラと手を繋いだ時から、隣のユリアが無言の微笑みで見つめてくるんだよね……。




