隊商護衛 3
商人さんが言うには、僕以外にも護衛の冒険者達がいるらしいので、その人達と先に打ち合わせをすることにした。
それで思い出したんだけど、昨日の受付嬢からも「他に優秀な方々が参加しますので、彼らと協力してくださいね」と言われたような気もする。
良かった~。1人で、こんな数の馬車を守るなんて、メンド……難しいからね。
被害を出さないことが一番だし、その人達には頑張ってもらおう~。
でも、数が多いのは変わらないから、最悪半分くらい残っていれば依頼成功でいいよね! ……ダメ?
「そこにいるのは、もしかして……アイリス?」
「え? ……っ!?」
どこか懐かしさを感じる声に振り返ると、そこには騎士を思わせる立派な鎧に身を包み、ピンと伸びた背筋と、凛々しい表情をしたお姉様――レオノーラが立っていた。
「本当ですね。お久しぶりです……というほど、日が開いたわけではありませんが、お元気でしたか?」
当然のことながらレオノーラの隣には、これぞ魔術師! という感じの黒いローブを着たユリアがいる。
「なんで、おまえがここにいるんだ?」
そして、話し方はぶっきらぼうだが、小学生みたいな背丈のエルネスタも近くにいるね。
……よく見れば、少し離れたところに佇んでるのは、眠そうなジト目がデフォのミアだ。
「ぁぁ、えっと。おはようございます?
なるほど。『黄金の盾』のみなさんが、同じ依頼を受けたって言う冒険者なんですね」
「ええ、おはよう……ではなく、依頼? あなた、冒険者になりましたの?」
「はい、この通り冒険者プレートも持ってますよ。そうだ……あの時は、色々とお世話になりました。
こちら、預かっていたお金です。ちゃんとお返ししますね、どうぞ」
ノラへ返すために用意していたお金を<インベントリ>から取り出して渡す。
こういう事もあろうかと、事前に袋へ分けて入れておいたのは正解だったよ。
「今、どこから取り出しましたの?」
「えっ!? ま、まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないですか~っ。
それよりも中身! 中身の確認をお願いします~」
つい彼女達の目の前でスキルを使ってしまった。
周りからだと、たぶん虚空から取り出したように見えるのかな……? それはいくら何でも変だよね……。
次からは、ローブとかで手元を隠しながら取り出すようにしないと。
「それに、こんなに早く返さなくてもいいのよ? もっと余裕が出来た時で……え?
これっ、金貨と銀貨を間違えてはいないかしら……!?」
「間違えてはないと思いますが……もしかして、少なかったですか?」
「違いますわっ!? 金貨5枚なんて多過ぎると言っているんです!
私が渡したのは、多くとも1枚程度のはずよねっ?」
正直なところ、返す機会があるとは思っていなかったし、あの時は金銭感覚もあやふやだった――これは今も自信がないままだ――から、いくらもらったかなんて、把握していない。
だから、これだけ入れておけば足りないことはまずないだろう、という額を入れておいたんだけど、想定通りみたいだ。
「いえ、それよりもこのお金はどうやって……はッ!!
まさかアイリスっ!? あなた体を売ったのではないでしょうね?!」
「ええ? そ、そんなわけないじゃないですか。
安心してください。冒険者として稼いだお金ですから」
体を売ったのか、と心配される時が来るなんてね。
ある意味嬉しいかも、前世だったら買う側にしか絶対思われなかっただろうし。
「で、でも、この短い間で稼げる額じゃ……」
「確かこの依頼は、必須ランクがB以上だったと思うが、どうやって受けたんだ?」
ノラが混乱状態になりかけたところで、エルネスタが質問してきた。
依頼の備考を見てないのかな? それとも、僕が魔法を使えるように見えない……まあ、見えないか。
主装備がダガーで、左腕にはバックラーを付けた回復魔法使いなんて、そうそういないよね。
「そうは見えないかもしれませんが、ボクは回復魔法を使えるんです。
なので、そっちの方で受注の条件はクリアしたんですよ」
「そうか、Eランクに上がったのか……」
僕の返答を聞いたエルネスタは、神妙な顔で何か考え事をしている様子だ。
そんな難しく考えることじゃないと思うんだけど……?
「そうなのねっ! Eランクに上がるくらいの依頼を達成したのなら、このお金も分からなくはない……わよねっ!
……けれど、だからといってこのまま受け取るのは……どちらにしても、大金なのではないかしら……?」
「――ノラ様、受け取ってあげてください」
「え?」
なおもお金を返そうとしたノラだったが、予想外な事にユリアから援護がきた。
というか、ユリアがすごく優しい目をしてるんだけど、彼女の中で一体どんな結論が……?
「わたしには分かりました。そのお金には、アイリスさんの気持ちが詰まっているんですよ!
だから、それを受け取らないということは、気持ちも一緒に突き返すということなんです!
……そうですよね、アイリスさん?」
「あ、はい。そうです……」
ユリアから今まで感じたことのないような圧を感じる。
そのお金は、別にそこまで重たいモノじゃないんだけどね……。
「そ、そう……なの? それでは、受け取らないといけない……のかしら?」
ノラも納得はできていないようだが、勢いに押されて受け取ることにしたようだ。
うん、勢いって大事だよね。




