表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
51/134

隊商護衛 2

 護衛対象のキャラバンが出発するのは明日ということで、その日は旅支度を済ませてゆっくりと過ごした。

 そして今、僕は集合場所に指定された南門の前に来ている。



「おぉ、荷馬車がいっぱいだ」



 数日前に見張っていた西門と比べると、こちらの方が荷馬車や積み込み作業をしている人が多い。

 やはり、この都市の主要な出入り口は、南門なのだろう。



「それで……、依頼人はどこかな?」



 声を掛けられるまで待つのも手だけど、場所の指定が大雑把だからね。

 僕のことだって、見つけてもらえるか怪しいなぁー。


 仕方ない。とりあえず、1番偉そうな人に話しかけてみよう。



「えーと、あの人がそれっぽいかな?

 ……すみません、アイヒホルンまでの護衛依頼を受けた者ですけど、こちらの責任者がどちらにいるか、ご存じですか?」


「ん? ぁあ、それなら私ですよ。

 フェッセル商会のアイヒホルン支店、その副店長のエーミールと申します。

 失礼ですが、あなたは……冒険者の方、ですかな?」



 お、初回で当たりを引けたみたいだね。良かった~。

 たらい回しにされてたら、色々メンドーになって帰るところだったよ~。



「はい、冒険者のアイリスといいます。それと……これが冒険者プレートですね。

 簡単な回復魔法は使えるので、仕事はそれ関係でお願いします」


「ぇ……。あっ、ああ、はい。

 確認いたしました、が――いやぁ、冒険者の方はお美しい方が多いのですなぁっ! ハッハッハ」



 この人が依頼人みたいだし、フードをとって顔が見える状態で挨拶をしておいた。

 だけど、失敗だったかなー。なんか露骨に態度が変わったような……。



「おっと、回復魔法が使えるとの話ですが、一度見せてもらってもよろしいですかな?」


「ええまぁ、それは構いませんが……誰に使えばいいですか?

 怪我をしてる人じゃないと、効果は分かり難いと思いますよ」



 疲労回復効果もあるから、このエー……商人さんに使っても大丈夫だとは思うけどね。



「そうですなぁ。おーい、ウッツ! 体調不良を起こした馬がいたよな? あいつを連れて来てくれ!」


「へーいっ! ちょっとお待ちを………………連れてきました!」


「おお、悪いな」



 青年が引いてきた馬は、ブルルッと一鳴きした後、その隣で大人しくしている。



「この馬、体調不良なんですか?」


「へぇ、朝から様子がおかしくて。食事もあまり食べてくれねえんです」



 僕には、ほんとに体調不良なのかも分からないけど、きっと魔法なら何とかしてくれるよね。



「それじゃあ、<ヒール>。これで、どうですか?」



 回復魔法を使うと、ヒヒ~ンという甲高い(いなな)きを上げた。


 ……とりあえず、すごーくうるさいことだけは分かったよ。

 次、同じような機会があるなら、耳を塞ぐことを忘れないようにしよう。


 で、これで元気になったのかな?



「うわぁっ、落ち着けアントン! よし、よしよし……。すげぇなあ! たちまち元気になっちまったよ!」



 アントン? ああ、馬の名前ね。荷馬にも名前をつけてるんだね。

 どこで見分けてるのか知らないけど、少なくとも僕には他の馬と全く同じに見えるよ。  



「ほぅ、ウッツ助かった。もう自分の作業に戻ってくれていいぞ。

 ……ということで、アイリスさんには馬達への回復魔法を担当していただきます。

 毎日その日の終わりに、すべての馬に対してお願いしますよ」


「はい、分かりました」



 馬が何頭いるのかなんて知らないけど、たぶん魔法なら上手い具合に解決してくれるよ。

 いざとなったら、範囲型のエリアヒールとかで複数同時に回復させてもいいしさ。


 うんうん、魔法って万能だよね~。



「……なるほど、これは問題ないようだ。試すような事をしてしまい、申し訳ない。

 今、私が言ったことは一旦忘れてください」


「え? それは、どういう……?」



 試す? 気付かない間に、何か試験を受けてたの?



「中には嘘の申告をする者もいるので、こうして本当に魔法が使えるのか試すようにしているのですよ」


「はぁ、そうなんですか。それじゃあ、すべての荷馬に魔法をかけなくてもいいんですか?」


「もちろん、荷馬達の体調は全体の移動速度に関わることなので、そうしてもらえるならこちらとしても助かるのですが……、貴重な魔術師殿を使い潰すようなことはしたくありませんので」



 彼の言い分から判断すると、ここにいる馬すべてに回復魔法をかける行為は、かなりの魔力を必要とするんだろうね。



「なので、対象は絞っていただいて構いません。

 その辺の優先順位は、先程のウッツや他の御者と相談してもらえますかな?」



 さっき魔法を使った感触からすると、それで魔力が底をつくとは思えないけど……ま、やらなくていいと言ってるんだし、必要最低限でいいよね~。



「そうですか、分かりました。後程相談しておきます。

 それと……荷馬の心配ばかりしてますが、人間の方はいいんですか?

 モンスターが出たら、被害もありますよね?」


「ええ、体調不良を訴える者がいれば、そちらを優先してください。

 ですが、モンスターの方は……街道で襲われるなんてこと滅多にありませんよぉ。

 少し前には、森でオーガが発見されたらしいのですが、そんなことはレアケース、レアケース。ハッハッハ!」



 そう言って、商人さんは高笑いをしている。


 あーあ、フラグ立てちゃったよ。

 これはもう、道中でモンスターが出たらこの人のせいだから、エサになったとしても文句は言えないよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ