隊商護衛 1
「ぜっっったいっ、遊びにきてよねーーっ! 待ってるからーーーっ!!」
ブルクハルトの南門から続く街道。
そこでは、赤髪と茶髪のエルフと銀髪のダークエルフの計3人が、何度も後ろを振り返って別れの言葉とともに手を振っている。
四人で服を買った翌日、カルラ達は故郷の森へと帰ることになったが、結局僕はついて行かなかった。
一緒に行こうかとも思ったけど、僕の目的――生きる理由を探す――を冷静に考え直した結果、「彼女達の故郷へ行く必要はないや」と思い至ったのだ。
この数日で、彼女達のことは色々と見せてもらったし、もう十分な気もするからさ。
というか、魔法やスキルが使えるんだから、空を飛んだり、瞬間移動したりすれば、好きな時に会いに行けるよね。
何時か気が向いた時に行くよ。うん、きっと行く。きっとね。
さて、そうなるとこれから何をするのか、という話になるんだけど、まずはそれを考えるために宿へ帰って二度寝をしよう…………とか、そんなことはなく、実は既に考えがある。
二日前、ラドミラ救出作戦の最後で、店長とか名乗ってた人が見せた生への執着心。
次はアレに注目してみようかな、と考えてるんだ~。
問題点は、最も参考になるはずの店長さんがもう死んでるって事だね…………ん? じゃあどうすればいいんだ?
……いきなり詰んだ気がする。いや待て、まだ方法はあるはず……っ。
そ、そうだ、僕自身が商人になってみる、とか……?
まぁ、<インベントリ>のスキルで適当にモノを収納して、どこか遠くの街で売れば、行商人のマネゴトくらいはできると思うよ。
だけど、それは何か違うというかー、そんなことをしても彼らの考え方? 価値観? みたいなものを理解することはできない気がする。
やっぱりどこかの商人の近くで、彼らを観察するのがいいのかなぁ?
えっと、そうなると……まずは商会や商人ギルドに入って、それで……下働きから始める? それはメンドーだしなぁ。
そういえばあの時、キャラバンの護衛に雇われた冒険者がいた気がする……。
せっかく僕も冒険者をしてるんだし、護衛依頼? みたいなのを受ければいいんじゃないかなぁ。
それで一緒に旅してたら、何か分かることもあるかもしれないし。
ほら、旅行をすると相手の本性が知れるって、何かで聞いたことがあるような、ないような気がするからさ。
……複数人での旅行なんて、僕は修学旅行しか経験がないけどね。
***
「えっと、キャラバンの護衛依頼……護衛依頼っと」
大方の方針が決まったので、まずは冒険者ギルドで例の依頼を受けることにした。
この時間帯は利用者が少ないのか、依頼が張り出されている大きな掲示板の前にも、ギルド内の飲食エリアにも人があまりいない。
依頼の張り紙が多いから、目当ての依頼を探すだけでも大変なんだけど……たぶんこれくらいだろうね。
【隊商護衛依頼:アイヒホルンまで】
必須ランク:B以上
報酬:金貨5枚
備考:回復魔法が使用可能な場合、Eランク以上可。
【隊商護衛依頼:レーヴまで】
必須ランク:C以上
報酬:金貨8枚
備考:魔術師優遇。追加報酬あり。
【隊商護衛依頼:バルベまで】
必須ランク:B以上
報酬:金貨20枚
備考:なし。
【隊商護衛依頼:ビットマンまで】
必須ランク:C以上
報酬:金貨12枚
備考:魔術師のみランク不問。
えーと、ここにある依頼を見る限りだと、隊商護衛はCランク以上向けって感じだね。
そうなると、Eランク冒険者の僕は対象外になるんだけど、魔法が使えるから2つは問題なく受けられそうだ。どっちにしよう?
うーん、そういえば報酬の額が違ってるよね、何でかな?
……あ、目的地までの距離で変わってる、とか?
なら一番安いアイヒホルンって、街までの依頼にしようかな。初めてだし、長旅は避けた方がいいよね。
でも、アイヒホルンって、どこかで聞いたことがあるような気がするんだよね。どこでだったかなぁ……?
「この依頼を受けたいんですが」
「はい、依頼の受注ですね。……こちらはBランク以上の依頼になります。
アイリスさんは、ランクが足りていないようですね……」
そういえば、僕がどんなスキルを使えるとかの情報はギルドに伝えてなかったね。
ていうか、名前くらいしか登録の時に聞かれなかったし……改めて考えると、かなり適当な気がするなぁ。
「あ、ボクは回復魔法が使えるんですよ。なので、そちらの枠で受けたいな、と」
「そうでしたか……回復魔法を、納得しました。であれば、ランクは問題ありません。
しかし、本来はBランク以上が対象の依頼ですので、Bランク相応の危険がありますが、よろしいですか?」
「はい、いいですよ」
「もしや、今回もエルフの方々が同行されるのですか?」
オーガ戦でも戦ったのは僕だけで、カルラ達は一緒にいただけなんだけどね。
ま、勘違いしてくれてた方が、色々と説明が省けるみたいだから、そのままにしておこう。
「いえ、彼女達とは別れましたので、この依頼を受けるのはボク1人ですね」
「……承知しました。問題はございませんので、これで受注手続きは完了です……」
受付嬢は何か気がかりなことがあるのか、少し間悩んでから語りだした。
「1つだけ、注意事項を。
ランクの制度は、冒険者の方々にとって煩わしい面があることは、我々も理解しています。
ですが、その制度の趣旨としましては、各人の実力に見合った依頼をギルドが用意することで、依頼遂行中の悲劇を減らすことにあります。
そのため、無理なランク上げは自殺行為になりかねないということは、ご留意ください」
ああ、なるほどね。
僕がカルラ達を利用して、実力以上にランクを上げようとしていると思われてたのか。
それにしても、普段ずっと営業スマイルを崩さない人が、真剣な表情で語り出すと妙な威圧感があるよね。
「それじゃあ、ランク上げは程々にしますね~。
他に、この依頼の注意事項とか、そういうのありますか?」
「…………はい、他には……」
でも、わざわざ忠告してくれるなんて……意外と優しい人認定されようと頑張ってる?
まさか名前すらないのに、この先も登場しようと…………モブは、大変だねぇ。




