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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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始まりの終わり 5

「試着、試着っと……。あっ、中で個室に分かれてるタイプじゃないのか。

 ご、ゴメンねー? 終わるまで、外で待ってるよ」



 天井から垂れ下がった布を左右に開いて中に入ると、複数人が着替えられる広さはあるものの、仕切りとなりそうなものは見当たらなかった。


 ただ着替えるだけで、こんな広さが必要なのかな?

 分ければ4、5人くらいは使えそうなのに、これじゃあ順番待ちの列ができそうだよね。


 まぁ、客は僕達しかいないし、これが平常運転ならそれでも問題ないのかもしれないけどさ。



「んー? どうしたの? アイリスちゃんも着替えなよ~」


「いやでも、仕切りとかないし……」


「仕切りって、その布じゃないのー?」



 そうじゃなくて、試着する人の間を区切る物が、ということまで考えた時に気付いた。

 ……もしかして、外から見えなければいいくらいの考え方なのかも。うわぁ、雑ー。


 でも、待てよ? 2人だけなら、むしろ好都合じゃないか……。



「ボ、ボクが勘違いしてただけみたい~。だから、気にしないで着替えてね?」


「うん。……んー、さっきの服着てみたけど、背中側おかしくないー? よく見えなくて」


「ふむふむ。そうだね――」



 選んでいた時は気付かなかったが、背中側も首の部分が結構開いており、肌が露出するようになっている。

 開いた部分から(のぞ)く褐色肌と、真っ白な服のコントラストは映えるなぁ。



「――うん、何もおかしくないよ。前も見せて? ……うんうんっ、すごい似合ってるよ!」



 特に、その(こぼ)れ落ちそうな双丘(そうきゅう)とか……最高だと思う。



「よかったぁ~、わたしも気に入っちゃったかもー。

 ……ねぇ、アイリスちゃん。ちょっとこっちに来てくれる?」


「あっ、はい……」



 無邪気な彼女の表情が、急に大人びたものに変わった。


 これは、僕の下心がバレたのかな?


 いやまぁ、昨日アンジェに気付かれてた時点で、ある程度は覚悟してたよ。

 一発くらいは甘んじて受けるかぁ。



「ほんとに……本当に、ありがとうね」


「っっ!!?」



 殴られる覚悟を決め、目を閉じたところで、つい最近も堪能した覚えがある極上の柔らかさに包まれた。



「わたしね。もう2人とは会えないんだって、諦めてたんだ。

 だから、再会できたことが何よりも嬉しい――ううん、一番はちょっと違うかな。

 一番嬉しかったのは、2人が無事でいたこと……」


「…………」


「カルラちゃんも、アンジェちゃんもすっごく優しいから。わたしのこと、きっと無茶をしてでも探しに来ちゃうもん。

 嬉しいけど、そのせいで2人がケガしたりする方が嫌……。

 でもそんな2人を、アイリスちゃんはしっかり守ってくれた。――こんな小さな体で凄すぎだよっ! ぎゅぅぅ~~っっ!」


「…………」



 これは、うん。あれだね。やっぱり、生の胸って素晴らしいよね……。


 前は服の上から程度で満足したけど、それは甘かったようだ。

 いくら生地が薄かったと言っても、直接のが格上だよ。



 あっ、こんなにきつく締め付けられたら窒息するんじゃないか心配? 大丈夫、大丈夫。

<呼吸不要>スキルが常時発動してるから、何も苦しくないよ。


 だけど、こんなことなら胸元が大胆に開いてるくらいじゃなくて、先っちょまで出るヤツを探せば良かったね。



「アイリスちゃん……?」


「ふぇ? え、えっとぉー。ど、どういたしまして?」



 まずい、ほぼ話を聞いてなかった……っ。

 でも、お礼を言われたような気はするし、たぶん返答は間違っていないはず……たぶん。



「あはは、あなたも何でもないことのように言うんだね……」


「え? それってどういう――」


「そんなことより、アイリスちゃんも試着しようよ~」



 意味深な発言に興味を引かれたが、その時の僕は彼女のことを大して知りもせず、それ以上を聞くことが出来なかった――。


 ま、深入りするのはメンドそうって、思っただけなんだけどね。




 ***




「ラドミラちゃんー、アイリスさんー、着替え終わった? ここ、開けても大丈夫?」



 ちょうど渡された服に着替えたところで、試着室の外からアンジェの声が聞こえてきた。


 何も聞かないで入ったとしても問題ないのにね。

 きっと、僕のことを気遣ってくれてるんだろうなぁ。



「うん、大丈夫だよー。というかボクが出た方が早いね。……はい、コレどうかな?

 ラドミラからは『すごくかわいい~』って、言ってもらえたんだけど」


「っっ!! ……かわいい……」


「アンジェもそう思う? いやぁ、自分でも結構いい感じかなー、と思ってたんだよね~」



 前から知っていたことでも、可愛い娘に褒められると嬉しいね。

 それに、僕に求められるのは、渡された服をただ着るだけってところが、お手軽で尚いいよ~。



「は、はいっ! お世辞でも何でもなく、すごい綺麗ですしっ、すごく似合ってますっ!

 ラドミラちゃんも――ぶっ!?」


「えへへー、わたしもかわいいかなー?」


「な、な……っっ、なんでそんなエッチなの着てるの!?」


「えー? ダメかなぁ? せっかくアイリスちゃんに選んでもらったのにぃ……」



 アンジェには、不評かぁ。

 それも、仕方ないか。このくらいの歳だと、エロ系は理解されないさ。


 ん? そういえば、みんなはいくつなんだろう?

 ……いや、止めよう。歳なんて聞いてもいいことないよね。



「ア、アイリスさんっ! なんてもの選んでるんですか?!

 とりあえず、他にもいっぱい選んできたからっ、この中のどれかに着替えてっ!」


「あはは、ホントにかなりの数、選んできたんだね?

 ……あれ? まだ残ってるけど、もしかしてそれ……」


「おそらくですけど、いま考えていること当たっていますよ?

 こっちのは、アイリスさんのために選んできたものです」



 そう言って、山のような衣服を手渡された。

 え? これ全部、試着するの……?



「えっと、さっきこの服の事をすごく似合ってる、って言ってくれたよね?」


「はい! なので、他のもぜひ着てみてください! きっと、どれも似合うと思いますのでっ。

 それと、わたしのオススメはコレとこれ、それにコレですから!

 それでは、今度はさらにいいものを選んできますっ」



「えぇぇ……。もしかしてコレ、まだまだ時間かかる?」


「うーん、いつもと同じなら2時間くらいで終わるかな~」



 ま、マジですか……っ。考えてた以上にハードなことになりそう……。



 この後、数えきれないほどの試着回数を重ねることになったが、途中からはこの体を着せ替えフィギュアだと考えることで、そこそこ楽しめるようになった。

 大量の服を買い込んでも、<インベントリ>に突っ込んでおけばいつでも着られるんだから、きっとこの先役立つことがあるだろう……。


 ああ、ちなみにだけど、代金はすべて僕が払ったよ。

 お会計になった途端、自分たちが無一文な事に気付いて慌てる姿……可愛かったな~。

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