始まりの終わり 3
「そういえばアイリスさん、さっきは驚きましたよぉ」
「ん? あっ、ゴメンゴメン。いきなり、『体で払ってもらう』とか言ったら驚いちゃうよね……」
というか、言った後に自分で驚いた。
まさか、考えていたことがストレートに口から出ちゃうなんてね。
あの後、何とか軌道修正して、「お風呂で背中を流してもらいたい」くらいの意味にすることができて良かったよ。
いやまぁ。本心としては、本番までしてくれた方が嬉しいけどね?
だけど、言葉の意味を理解していない娘が約2名いたし、そんな純真な娘を穢すのは……うん? それはそれで……アリだな……。
「い、いえ、それもなんですけど……。
飛行魔法まで使えるとは思ってなかったので、わたしとしてはそちらの方が驚きでした」
「……やっぱり、空を飛ぶのは魔法でも難しいの?」
「はいっ! 熟練の魔術師にしか使えない、高度な魔法だと思いますっ」
アンジェは、キラキラした目をこちらに向けてくる。
うーん、フライの魔法を使って城壁を乗り越えたのは間違いだったかな……。
だけど、あれを使わなかったら、都市に入れなかったしなぁ。
何でも門が開いている時間は限られているようで、その時間を過ぎてしまうと、翌日の朝まで野宿になるらしいよ。
だから、あれは仕方がない事だとしても……予防線を張るくらいはしておこうかな。
後で面倒なことになるのは、嫌だからね。
「あー、でも……あの魔法は消耗が激しいから、そう何度も使えな――わっひゃぁぁあっっ!!?
ちょっ!? な、なに? ……えっ? カルラ……? そんなところ鷲掴みにしないでよっ」
「んー……。くっ、こっちはあたしよりも大きいし……」
美少女に胸を揉まれるという逆体験に、かなり動揺した。
なんか自分の口から、やけに高い声が出たような……。
「その顔で、胸まで大きいだなんて、もうズルじゃないの?」
「な、なにが……? だいたい大きいって言うのは、ああいうのを指すんじゃないかなぁ」
「うーん? あ、これぇ? えへへー、すごいでしょ~。色んな人がほめてくれるんだー」
ラドミラは自分の胸が凝視されているというのに、嬉しそうに微笑んでいる。
きっと、あれが強者の余裕というのだろうね。
「ほら、本人もあんな感じだし、あっちを揉んできなよ」
「も、揉んではないわよっ。ちょっと大きさを確かめただけじゃない……っ。
それに、ラドミラのは既に確認済みよ! ……どう頑張ってもあたし程度じゃ勝てないって、すでに悟ったんだから」
カルラの目が少し虚ろになった気がする。
それほどの感触か……ッ。いいなぁー。
「じゃあ、こっちは?」
「ひゃっ!? ア、アイリスさんっ?!」
横で無防備に会話を聞いていた、アンジェの胸部に手を被せてみた。
胸って、ここかな? んん? 合ってる……よね?
「確かめてないわ。というか、その必要ある? どう見ても、ただの板じゃない」
「……カルラちゃん? 世の中には言っていいことと、ダメなことが――ひゃうっっ!?
そ、そこを触るのもダメなことですよっ!?」
「おっ、ここが正解かぁ」
明らかに感触が異なる部分を摘まんでみると、可愛い声が聞こえた。
やっぱり、先端部分は感度が違うね。
「……ッ、あのっ、あのあの! そろそろ、離してくださいよっ」
「ええー。……そういえば、前にアンジェもボクの胸、揉んだよね?」
「――っ! あ、あれは勘違いというかっ、そういうつもりじゃ無かったといいますか……」
「へぇ~、知らなかったよー。アンジェちゃんも大好きなんだね~」
「っ!!」
ラドミラの言葉を聞いたアンジェが固まってしまった。
無垢な笑顔が、精神的に一番効くと思うんだ。
「……はは、もう好きにしてください……」
「それじゃあ、遠慮なく」
うーん、タオルの上からだから分かり辛いけど、僅かな柔らかさが……。
これが男の胸だろうか? ――否。断じて、否だ。
やっぱり、女の子認定したのは間違いじゃなかったね。……下には、アレがツイてるけど。
「……楽しい?」
「うんっ、まだまだ触っていたいくらいには、気に入ったよ」
カルラに白い目で見られても、手にした感触を愉しみ続ける。
とはいえ、アンジェの顔がトロンとしてきたし、これくらいで解放してあげるか。
さて、次は――
「カルラの番だね」
「えっ?」
「だって、さっきボクのを揉んだよね? だから当然、次はボクが揉む番だよね?」
よしっ、互いの胸を揉むイイ感じの流れが出来たね。
後は勢いで押し切るだけだ。
「ま、待って? ……は、話し合いの時間が、必要だと思わない?」
「ううん、思わないね」
「なんだかあなたっ、目が怖いわよ!?」
ジリジリと僕が近づくと、それに合わせて彼女も後退る。
「大丈夫、だいじょうぶ。女の子同士だよ? 何も心配することないって……」
「ぇぇと……、そうだっ! あたし、ちょっと湯あたりしたみたい?!
そういうわけで、先に上がるわねっ!!」
カルラは、出会ってから初めて見せる素早さで、浴室を飛び出して行った。
「あーあ、逃げられちゃった」
あともうちょっとだったのに……惜しい事をしたなぁ。
それにしても、何がいけなかったんだろうね?
流れ的には、完璧にイケる! って、思ったんだけど。
「それじゃあ、わたしのをさわるー?」
ラドミラが小首を傾げながら、可愛らしく自身の胸を強調してくる。
そうだった。僕にはまだ、この娘が残ってるじゃないか。
「……い、いいの? じゃあ……」
「ダメですよっ! なにが『じゃあ……』なんですかっ!?
前から思ってたんですけど、ラドミラちゃんに接する時、おかしくなりませんかっ?!」
「ええっ? いやいや、そんなことないよー」
「あるんです!! 特に視線がエッチですからっ! さあさあっ、わたし達も出ますよ!」
アンジェに背中を押される形で、僕もお風呂場から退場することになった。
まさか、こんなところに伏兵がいたとは……っ。
ちょっと怒っている気がするのは、さっきイジり過ぎたのが原因かなぁ?
でも、「視線がエッチ」なのは仕方ないね。僕は色々と……その、難儀だからさ。
「あー、待ってよー。わたしも出るからぁ。……ところで、どうしてアンジェちゃんは前かがみなの?」
「~~ッッ!」
ああ、僕よりも難儀な娘がいたんだった。




