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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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始まりの終わり 2

「これっ、用心棒のほ、報酬……っ」



 そう言って、カルラは小さな布製の袋を両手で捧げるように差し出してくる。


 予想通り、彼女達の密談は報酬のお金についてだったようだ。

 ……うん。まあ、それは分かってたし、どうでもいいか。


 問題なのは、彼女達が数日前のあの夜と同じで、土下座みたいな体勢をしていることだね。



「カルラちゃん……? アンジェちゃん……? な、なに……してる、の?」



 終始にこにこ笑顔だったラドミラの表情が引きつっていることから、この状況が相当に異様な事だと理解させられる。


 報酬の件は、触れない方が後々面白くなるかなぁ? って、思ったから今まで黙っていたけど……僕の想定とは違う方向に進んでいる気がする。



「えっと、これの中身すべてでいいのかな? ……銀貨が3枚に……銅貨が…………25枚ね」



 これは多いのか、少ないのか……。この世界の金銭感覚が、未だに掴めてないんだよね。

 ま、彼女達の態度から考えて、おそらく少ないのだとは思うけど。



「少ないわよねっ!? 分かるわっ!

 あたし達も、それは分かっているのよっ?! ……けれど、ごめんなさいっ!!

 持ってるお金は、それで全部なのっ」


「アイリスさんを(だま)そうと思っていたわけじゃないんですよ!?

 ただ……ちょっと、助けてもらいたくて嘘をついてしまったと言いますか……話を盛ってしまったと言いますか……っ。

 ほ、本当にっ、ごめんなさいっ!」



 うーん、僕が期待してたのは謝罪とかじゃなくて、2人がお金を用意する手段の方だったのに……。

 やっぱり、若くて可愛い娘達がまとまった金額を用意する手段なんて、ある程度決まってくるじゃんねぇ?


 そしたら、働いているお店を見つけて、初めてを経験させてもらおうかなぁ~。とか、考えてたのにさ……。

 2人が出かけた時に、こっそり尾行したこともあったのに、そんな素振りすらないんだもの。

 まったく、残念だよ。



「あー、いや、いいよいいよ。許す……というか、怒ってもいないし」


「……ほ、本当に?」


「この依頼を受けた時から、2人が大金を持っているとは思ってないしさ。

 ……ん? これだと言い方が悪いかなぁ。

 えっと、何が言いたいのかというと…………上手い言葉が見つからない。

 とにかく、ボクはこの報酬に文句なんてないよ?」


「えぇぇ……。それはさすがに悪いわよ。……なにか、そう。

 代わりになるようなことはないかしら?

 とはいっても、あたし達にできることなんて、多くはないけれど……」



 僕としては、まぁそれなりに楽しめたし、報酬はもう十分なんだけど、それだと彼女達には不満みたいだ。

 ホント、物好きだよねー。


 でも、満足できないものは仕方ないし、代わりになることねぇ。

 そう言われると思いつくのは……



「……それじゃあ、えぇと……()()()()()()()()、とか……っ」


「えっ?」




 ***




「ふぅ……。あ~、やっぱりイイなぁ~」



 僕達4人は、ブルクハルト内の風呂屋まで移動してきた。

 内装は……端的に言ってしまうと、スパの温泉をひどく庶民的にした感じだね。


 こうやって、彼女達と一緒の湯船に浸かるのは初めてではなく、この数日で何回も経験している。

 ……いや、1つこれまでとは異なる重大事項があるか。


 なにせ僕の隣には、ラドミラという圧倒的な存在感を放つ人物がいるんだから……っ!


 大きいなぁ~。

 惜しむらくは、タオルを巻いているから直接は拝むことができないんだけど、それでも十分だね。


 だって、お湯に浮く貴重な光景が見れたんだもの。



「ふふっ。あなた、本当にお風呂が好きなのね」


「えー? そうかなー? そんなこと、ないと思うけどな~」


「そんなトロけた表情で言われても、説得力ないわよ……」



 実際、僕は別にお風呂好きというわけではない。


 前世では、シャワーしか使わない派だったし、それに異世界の水道事情とか……信頼できないし。

 湯から上がったら、クリアの魔法を使って清潔状態するのは必須だよね。


 だから、まぁ。僕が「イイ」と言ったのは……



「ボクの顔がゆるゆるなのは、美少女に囲まれての入浴が嬉しいだけだよ~」


「美少女って、あなたがそれを言うの?

 ……普通、あたし達エルフは、人間よりも容姿が優れているはずなのよ。

 それなのに、アイリスの方がずっと…………っ。もしかして、妖精の血でも混ざってる?」


「えっ? ……いやぁ、それは無いと思うけどなー……」



 そうは答えてみたけど、どうなんだろう?

 この体の経歴は何も分からないから、何とも言いようがない。


 木の股から生まれたとか、そんなことを本気で疑われたとしても否定できないね。



「妖精の血……。たしかに、アイリスさんでしたら納得ですね」


「あはは……、アンジェまで乗らないでよ……。

 あっ、そうだ。さっきは言い忘れたけど、アンジェも丁寧な言葉を無理に使わなくていいんだよ?」


「わかりま――うん、わかった。わたしも普通に話すようにするね。アイリスさ……ぅぅ。

 ダメ……、何だか固定されちゃったみたい。

 いきなりは難しいですけど、少しずつ変えていきますねっ」


「う、うん。……それが当然だよね。あまり気にしなくていいから……」



 彼女達の距離感に合わせたつもりだったんだけど、間違えたかな?


 う~ん、慣れないことはするものじゃない……いや、そもそも僕は人間関係全般が苦手だったんだ。

 気にしたところで意味なかったね。早めに大事なことを思い出せて、良かったよかった~。

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