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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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救出作戦 7

 冒険者を倒したゴブリンは2匹。

 どちらも粗末な弓を装備しており、まずは獲物を1人仕留めたことを喜んでいるみたいだ。


 また、今の攻撃が合図になっていたのか、隠れ潜んでいたゴブリン達もぞろぞろと姿を現し始めている。

 状況としては、数で劣るこちらが不利だろう。



 なんて、ちょっとシリアスな感じに考えてみたけど、彼らがいることは元々知ってたし、後はもう逃げるだけだし……やっぱり、気にする必要もなさそうだね~。



「さ、帰るか……。ん?」



 僕は背後に向けていた視線を正面へと戻したが、3人はまだ後ろの様子を眺めている。


 そんな熱心に見るものなんてあったかな?

 もう一度、確かめても……ゴブリンが現れたって、くらいしか変わったことはないと思うけど。


 まさか、あそこでへたり込んでる店長を助けたいとか?

 さ、さすがにないよね? 今さっきまで敵対してた相手なんだし……。



「もしかして、助けたいの……?」


「……。まだ間に合うかもしれないわね……」



「えっ、本当に助ける気なの?」と思って、カルラの視線の先を確かめれば、店長というよりもその隣に倒れている冒険者の方を見てるみたいだ。


 ああ、そっちね。そっちなら、分からなくも…………。

 いや分からないな。



「――助けましょう。

 あの人は、あたし達を逃がしてくれた……。

 それなのに、まだ助けられるかもしれない恩人を、見捨てることなんてできないものっ!」


「…………」「うん、わたしも賛成!」「よくわかんないけどー? わたしもがんばるよ~」



 状況を分かってない娘も1人いるようだけど、あの冒険者を助けることが3人の結論みたいだ。


 というか、僕が一番今の状況が分からないよ。

 え、なんで? なんでそんな結論になるの?



「アイリスは、反対かしら?」


「あー、ええと……」


「そう……よね。ラドミラは助けたのだから、ここは逃げるべきよね……。

 それでもっ、このままじゃ逃げられない……っ。いえ、逃げたくないのよっ!」



 彼女の表情は、覚悟は決めたと言わんばかりに真剣なものだ。


 可愛い顔で言われてもなぁ。

 やっぱり、僕にはあの人を助けたいなんて感情は全く湧いてこないよ。


 だってアレ、さっき出会ったばかりの人だよ?

 見捨てたところで何とも思わないでしょ。



 ――と、それが僕の正直な感想だね。


 とはいえ、自ら進んで危険に飛び込みたいというのなら、止める理由もないか……。

 まあ、彼女達が好きにやれるように、背中ぐらいは押してあげようかな。


 ああでも、アレは面倒そうだから、先に手を打っておかないとね。



「……いいよ。ボクも手伝う。

 だけど、あの人を運ぶのは3人でやってもらってもいいかな?

 ボクはゴブリンの相手に専念するからさ」


「っ!! ありがとう……っ、そういってくれて嬉しいわ」



 よしよし。

 防具をつけた成人男性なんて絶対重いだろうし、彼女達に任せることができてよかったぁ。


 後はゴブリンの相手だけど……ま、適当に戦うフリでもしとけば問題ないよね~。



「さっそく始めるわよ! アンジェ、攻撃魔法をお願いっ!」


「うんっ、カルラちゃんも弓のタイミングちゃんと合わせてよね!」



 2人は先制攻撃を仕掛けるため、魔法と弓の準備を始めた。

 前のゴブリン戦では完敗だったけど、今回はどうなるのかな?



「早く助けてくれっ!!

 そ、そうしたら、そのダークエルフを連れて行くことは許してやるっ!!

 だから、早く……っ」



 攻撃のために動き出した僕達を見た店長が、何を勘違いしたのか騒ぎ出した。

 自分は眼中にもないのに……可哀そうな人だなぁ。



「……<ストーンショット>っ、お願い当たって!!」「……当たりなさいっ!!」



 小石と矢が、弓兵ゴブリンを目指して飛んでいく。

 2人の放った攻撃は真っ直ぐにゴブリンへ吸い寄せられて、当然のように――避けられる。



「ハズレ! ハズレ!」「ギャ、ギャッ」



 そして僕はというと、その攻撃に追随する形で敵陣へと突撃している恰好だ。

 ある意味、予想通りの展開とはいえ、この流れで外されるとこっちが恥ずかしい……。


 2人が攻撃から、もう一度やり直してもらおうかな?



「オカエシッ! オカエシッ!」「クラエ!!」


「うわっ。……あれ? つかめちゃった――まぁ、いいや。

 はい、<投擲(とうてき)>っと」


「ギャッ!?」「ナッ!!?」



 咄嗟(とっさ)に掴んでしまった矢を投げ返したら、片方の弓兵ゴブリンに命中した。

 しかも、命中した矢は倒れたゴブリンの後ろの馬車に突き刺さっている。


 他のゴブリンが後ろにいれば、2匹同時にヤれてたかもしれないね。



「コロスッ!!」


「オレタチ、マエ、デルッ」


「「「オオッ!!」」」



 弓兵ゴブリンの周りにいた、こん棒やらナイフやらの雑多な武器を持ったゴブリン達も動き出したみたいだ。

 さて、ここからが本番かな?



 ……っと、その前にまた何か来たみたいだ。



「オマエタチ、ソッチハ、カタヅイタカ? ……ナンダ、マダ、ノコッテ、イタノカ」



 新たに1匹のゴブリンがやって来た。

 ……いや、見た目だけでいえば、アレをゴブリンと言うのは少し悩むところだけど。


 他のゴブリン達との共通点は緑色の肌くらいなもので、背丈は馬車と同じくらい、体は筋骨隆々で手には丸太みたいな太さのこん棒を持っている。


 初めて会った青いのとは違うけど、たぶんホブゴブリン……グリーンホブゴブリンとか、そんな感じの名前が付いていそうなゴブリンの上位種だね。


 でも、筋肉ダルマって呼ぶ方がしっくりくるし、個人的にそう呼ぶことにしよう。



「シカタ、ナイ。オレガ、テツダッテ、ヤル。――グガアアァァァッッ!!」



 筋肉ダルマは雄叫びを上げると、こん棒を振り上げた。

 その最初の攻撃目標となったのは、未だに座り込んだままの店長だ。



「ツブ、レロォォォッッ!!」


「うわああぁぁぁっっ!?」



 ドシンッ! と地響きを立てる一撃を、転がることでギリギリ避ける中年男。


 威力はあっても直線的な攻撃だから、彼でも避けられるみたいだね。

 それは、いいんだけど……。問題は――



「?! そ、そんな……っっ」



 あの冒険者、丸太が命中してぺちゃんこになっちゃったね。

 ……まぁ、潰れる前から生命反応は消えてたし、元から死体だったんだけどさ。



 うーん、そうなると僕はどうしたらいいかな?

 目的だった冒険者はグチャグチャだし、とりあえず……後ろにいる3人のところまで戻りますか。

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