救出作戦 3
どこに移動したのかと言うと、少し前に来たゴブリンの巣の最奥、玉座って呼ばれてた部屋です。
おっと、転移先に直接その部屋を選んではないよ? さすがに礼儀ってものがあるからね。
まずは洞窟の前に現れて、そこにいたゴブリンに案内してくれるように頼んだわけだよ。
適当に数匹殺しただけで丁寧に案内してくれるんだから、ゴブリンさんは優しいよね。
「貴様、ナゼマタココニ来タ? ヤハリ余ヲ討ツ気カ?
……良イダロウ。ダガ、此度モ生キテ帰レルト思ウナ」
部屋の奥にある豪華な椅子に腰掛けたゴブリンキングが、余裕たっぷりな態度で言ってくる。
前回の最後は命乞いまでしてたのに、態度が戻ってる。
それだけ戦力に自信があるということかな?
よく見れば側近ポジのホブゴブリンが赤、青、緑とカラーバリーションも豊富になって、10匹に増えてるよ。
彼らに殺されるというのも、それはそれで構わない……。
いや、カルラ達がどう行動するか気になるし、今はまだ死ねないか。
それにここまできたんだし、死ぬなら彼女達も一緒がいいよね。
「……ううん、そういうのが目的じゃないんだ。
今回は、交渉? 取引? 何かそんな感じのことがしたくて来たんだよ」
「取引ダト? フム……、話グライハ聞イテヤロウデハナイカ」
「おっ、結構簡単に聞いてくれるんだね。ありがとう。
実はここを出た後、こんなことになってたんだけど――」
僕はとりあえずカルラ達と出会ってからここに来るまでの流れを、ざっくりと説明した。
かなりざっくりとし過ぎていて、伝わったのか不安になるくらいだけど、たぶん伝わったはずだ。
ゴブリンキングって、意外と頭良さそうだから大丈夫。きっと、たぶんね。
「……貴様ノ望ミハ余ノ軍勢デ隊商ヲ襲撃シ、ダークエルフヲ助ケ出シテ欲シイ、ト言ウ事カ?
断ッテオクガ、余ノ配下ハ知能ガ低イ。
貴様ヤダークエルフ共モ含メ、同族以外ハ全テ敵ト見做シタ行動シカ出来ン」
「すごいっ、ホントに伝わってる……っ。ああでも、そこらへんは心配しなくてもいいよ。
やって欲しいことは、キャラバンを襲撃するって、ところまでだから。
もし誰かが死んでしまったら……まぁ、戦闘だし、それはしょうがないことじゃないかな?」
僕の返事を聞いたゴブリンキングの厳つい表情が、さらに険しくなったような気がする。
どうしたのかな?
彼の不利益になるようなことは言ってないと思うんだけど……。
「……ソウカ。貴様ガソウ言ウノデアレバ、コレ以上ハ余ガ気ニスル事デハナイ。
ソレデ、ソノ望ミヲ叶エタトシテ、貴様ハドノ様ナ対価ヲ差シ出ス?
余ニ何ノ利モナイ話ナド、受ケル気ハナイゾ」
当然の要求だよね。
むしろ対価を要求してくるということは、それ次第で取引に応じてくれる気があるのかな?
……僕がそんな魅力的なものを払えるかどうかは別問題だけどさ。
「えーと、そうだね……。あっ、アレがいいかも。
――対価は、僕達が探してるダークエルフの娘以外の積み荷ってことでどうかな?
たぶんその娘を運ぶキャラバンは、他に大量の商品も載せてるはずだよ。
その中には可愛い娘だって、ね?」
これには結構自信がある。
なぜなら、さっきラドミラが捕まっていた牢屋には、他にも奴隷っぽい娘が大勢いたからね。
せっかく彼女を運ぶのなら、他の娘も連れて行くんじゃないかなぁ。
それに、地図にも複数台の荷馬車を使うようなことが書いてあった……そういえばあの地図も渡しておいた方がいいかな?
「女カ……手元ニ多クアッタトコロデ問題ハナイガ、ストックモ十分ニアル。
対価トシテハ釣リ合ワンナ」
「いやいや、そんなこと言わないでさ。
この地図も付けるから、これがあればキャラバンの休憩する位置とかも分かるし、簡単に襲撃できてお得だよ?」
「地図、ダト? ……見セテミヨ」
ゴブリンキングが手を前に出すと、それが合図になっているのか、部屋の脇で待機していたゴブリンの1匹が僕に近づいて、真似するように手を差し出してくる。
これに地図を渡せってことかな?
「……はい」
「アイ」
地図を受け取ったゴブリンは、トテトテと玉座の近くまで歩いて行くと、ゴブリンキングに地図を恭しく捧げている。
こういう王様と臣下みたいな動きも毎回律儀にやってるのかな?
見ている分には面白いから、好きにやってくれて構わないんだけどさ。
「ドウゾ」
「ウム。……っ!! フッ、得心ガ行ッタ。
女ダ何ダト詰マラン提案ヲシテイタガ、本命ハコレカ?
……掌ノ上ニイルヨウデ気ニ食ワンガ、悪クナイ取引ダ。貴様ノ話、ノッテヤロウ」
地図を見た途端、ゴブリンキングの様子が変わった。
そんなに地図の出来が良かったのかな?
まぁ、何でもいいや。とりあえず、交渉成立だね。
もしダメだったら、テイムスキルで適当なモンスターでも手懐けてキャラバンを襲わせようって、考えてたけど手間が省けたみたいだ。
「えっ、本当に? 助かるよ~。
それじゃあ、さっき話した感じでキャラバン襲撃の件、よろしくねー」
「……アア、念ヲ押スガコレハ既ニ余ノ物ダゾ? 全テガが終ワッタ後ニ返セト言ワレテモ遅イカラナ?」
「そんなこと言わないよ~。その地図もう要らないし、好きに使ってくれていいから」
さぁて、これで僕の準備は整ったかな。
後は数日間キャラバンを待つだけだ。……一体、どういう結末になるのか、楽しみだね?