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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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救出作戦 1

 アンジェの言った「いい考え」とは、要するに張り込みをしようということだった。


 もちろん、毎日商会を監視していればきっとラドミラに会えるよね☆

 なんて希望的観測ではなく、彼女なりの確信があって"西門前の広場"という1点を見張る案だ。


 何でも、ラドミラを購入したレーヴ伯爵の領地はここから西の方角にあるらしく、もしそこに向かうのなら西門を使う可能性が高いと考えたらしい。



 目の前の広場では、昨日も今日も荷物検査を待つ馬車が行列作っているから、彼女の見込み通りラドミラを運ぶ馬車がここを通ってもおかしくない……とは思う。


 けど、あくまでここを通る可能性が高いっていうのは推測なわけで、絶対と言える程の根拠はないんだよね。

 僕達はこの都市のことほとんど知らないし、ましてやあの商会の行動をどこまで予測出来るのか、不安要素がいっぱいだなぁ。


 ……まぁ、実際にその推測が当たっているんだから何の問題もないんだけどさ。



「見て2人とも、あそこの馬車に描かれてるマーク。あれ、『ルンプ商会』の建物にもあったよね?」


「!! ……太陽と、月っ。はいっ、あのマークで間違いないと思います!

 きっとあの馬車のどれかに、ラドミラちゃんがいるはずです……」



 今まで張りつめていたアンジェの雰囲気が柔らかくなった。

 彼女なりに確信があったとはいえ、予想が当たって安心したんのかな。


 それに見張っているだけというのも、普通はいつまで続ければいいのか不安になるよね。

 目当ての馬車が張り込み2日目にして見つかったのは、ホント幸運だったよ。



「後は、どの馬車に乗ってるのか、だね。

 それなら、<クレヤボヤンス>。これで見つかるかな……」



 正面の空間が歪んだかと思うと、次の瞬間には少し離れた広場の光景が写し出される。

 言ってしまえば魔法で望遠鏡をつくる魔法だ。


 結構自由に写す場所も倍率も変えられるから、馬車の中も覗けると思うんだけど……。



「あっ。いま見えた馬車をもう一度見せて!

 ……っ、見つけたわ! やっと、会えたのね……ラドミラ……」



 カルラは、荷台の隙間にチラッとだけ写った褐色肌の美しいエルフを的確に指摘して見せた。

 目標の娘は箱状の(おり)に入れられて、荷馬車に積まれているようだ。


 本当は壁とか色々なものを透過させて見ることもできるんだけど……、間違えて服だけ透けさせた場面を写したら空気が凍るので、後でこっそりと試すとしよう。



「それじゃあ、行きましょうか!」


「――って、なんで突撃しようとしてるのっ!?

 待って! ここでそんなことしたら、商会に乗り込むのと変わらないでしょ!!

 助け出すのは街道に出てからって話したよね?」


「キャラバンはどこかで休憩するはずだから、そこで襲撃するんだよね?

 う~ん、前回よりも敵が多いけど、殲滅できるかなー」


「アイリスさんもなのっ!?

 全員倒さなくてもいいんです!! 救出が目的なんですから、警備が薄くなった時にこっそりと助け出せばいいんですよっ!

 ……これも話し合って決めました、よね? わたしの勘違いじゃないですよね……?」



 アンジェのツッコミ力もしっかりと成長してるようで嬉しいね。

 よかった、よかった。


 ともあれ作戦内容の確認もその他諸々の準備も整ったし、ふざけるのはここまでにして"ラドミラ救出作戦"ってヤツを開始しようかな。



「あははっ。ごめんごめん、ちょっとした冗談だってば。

 ちゃんと作戦は覚えてるから、心配しないで大丈夫だよ?

 それじゃあ、目標が動き出したらボク達も移動しようか」




 ***




「……野営の準備を始めたようね。タイミング的にはいい頃合いじゃないかしら?」



 僕達は今、キャラバンに見つからないように、ある程度距離を空けた岩影に隠れている。


 だから、あんなに遠い人の動きまで見えるカルラは目がいいみたいだ。

 弓兵ということも関係あるのかもしれないね。


 おそらく前世の僕だったら、あそこの人が何をしてるかなんて分からなかっただろうね。

 今は普通に見えてるんだけどさ。



「ええと……、もうちょっと待った方がいいんじゃない、かなぁ?

 ほら、もう少しすれば真っ暗になるし、そっちの方が見つかりにくいと思うよ……」



 既に周囲の景色は夕日に照らされて真赤に色付いており、僕達は1日中キャラバンを尾行していたことになる。


 地平線に沈んでいく夕日がキレイだし、夕日に照らされて赤く染まる2人の横顔も綺麗だから、それを眺めて楽しむこともできる。

 そんな日が沈む前の貴重な時間帯だね。


 なので僕が言ったようにもう少し待った方が、夜闇に紛れられる利点もあるんだけど……。



「……そうね。けれど、見張りも準備を手伝っているみたいよ。

 いまなら警備も手薄になっているんじゃないかしら?」


「うん。アイリスさんの考えもわかりますけど、わたしもいま動くべきだと思います」



 正直に言えば僕もその意見に賛成だよ。


 それにキャラバンの護衛はきっとプロだから、夜の暗闇でも動けるように何かしら訓練をしてると思う。

 で、こっちはどうなのかといえば、2人は未知数、1人は全くの素人だ。


 もしかしたら、夜闇で不利になるのはこちらかもしれない。

 ……それでも、もう少し時間を稼げないかなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「う、うーーん、2人の考えも分かるんだけ――」



 その時、キャラバンが野営の準備をしている辺りで、小さな火柱が立つのが見えた。

 それと同時に護衛達もにわかに騒ぎ出している。



「な、何? ……火事、かしら? 近くに森もあるのに不用心ねぇ」


「……違う。アレは魔法の火? なに……っ、何が起きてるの?」



 (ようや)く始まったみたいだね。

 さて、ここから2人がどう行動するのか……見物といこうかな。

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