交渉 4
「どうしたのアンジェさん? ……伯爵って人のことならきっと大丈夫だよ。
この人の言い回し的にも、エルフに対してまで好き勝手はできないんじゃないかなぁ……」
後はダガーで一突きすればハッピーエンド。
って、ところで背後に伯爵なる人物がいると知ったアンジェが怖気付いたみたいだ。
なので、適当なことを言って安心させることにした。
伯爵という人物に何ができるのかなんて僕にはさっぱり分からないけど、そういうことはヤッてから考えればいいよね。
「ですがっ、それだとアイリスさんだけが傷付くことになっちゃいます!
そんなの……アイリスさんを犠牲にするようなマネは、わたし嫌ですよ……っ」
「えっ? ……ああ、そっちね。
でも、ここで止めたらラドミラさんを取り戻せないし、ボクのことは気にしないでいいよ」
「そんなことできるはずないじゃないですか……っ。アイリスさんはもうわたし達の大切な友達なんですよ?
……ラドミラちゃんを助けられないのは残念ですけど、そのためにアイリスさんが犠牲になるのはもっと嫌なんです!」
「……あたしも同じ意見よ。アイリスはもう十分にがんばってくれたわ。
だから、他の方法を探してみましょう?」
「…………」
まだ出会って数日の僕を友達扱いする、か。
しかも、せっかくのチャンスだっていうのに、僕のような即席友達を優先するとはねぇ。
これは2人にとっての友達という存在の重大さを再認識すべきなのかな。
まぁ、そのせいで彼女達の目的は達成できなくなるんだけどさ。
「……どうやら、そちらのエルフのお嬢さん方のほうが状況を理解できているようだ。
ここでお帰りになるのでしたら、特別に本日の暴挙はなかったことにしてあげましょう。
私は寛大なのでね」
店長も余裕の態度に戻ったようだし、今回の交渉はここまでかな。
「あ、あんた……っ、よくそんなことが言えるわねっ」
「ええ、もちろんですよ。私は恐ろしい暴漢に襲われた被害者なのですから。
何でしたら、次は衛兵をお連れしましょうか?
……いえ、それよりもピンク髪のあなたは私に雇われませんか?
そちらのエルフには、どうせ端金で雇われているのでしょう?」
「っっ! わ、わかったわ。今日のところは帰ってあげるわよ!
……で、悪いんだけど、アイリスだったらこの魔法も解除できるかしら?」
ああ、そういえばまだ2人が拘束状態だったのすっかりと忘れてた。
なんか足元でころころしてて可愛いから、そのままでもいいかなぁ、なんて……そう思ったとしても仕方ないよね。
何を言ってるのか理解できないって……?
つまり、縛るならおっさんよりも、美少女! ってことだよ。
***
僕達は色々とあった店長の部屋から、商会の入り口前に移動した。
部屋の外にも麻痺状態になった傭兵達が倒れているのを見て、2人が少しひいてたけど……それは気にしない方向で。
「さて、交渉は失敗に終わったわけだけど、これからどうしようか?
……って、ボクが言えたことじゃないよね。
ゴメンね? いい感じのところまでいったのに……」
「ううん、そんなことを言わないで? あれはアイリスのせいじゃないもの。
だいたいあなたがいなければ、ここまでたどり着くこともできなかったわ」
よし、僕は悪くないという言質は取れたね。
これで責められる心配はなくなったし、ゆっくりと今後のことを考えようかな。
「……ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。
それじゃあまず今回分かったことを整理すると、ラドミラさんを攫ったのはルンプ商会で確定だね」
「そうね。そして悔しいけど、口ではどう頑張ったところで勝てないこともよく理解できたわ。
こちらが何を言っても、おそらく全て上手くあしらわれてしまうわね。
そこで思ったのだけど、もっとあたし達の長所を生かすのがいいんじゃないかしら?」
「長所……? 今回一番いい線行ったのは最後の戦闘だと思うけど……。
強引に商会の中を探索して、ラドミラさんを助けたら証拠が残らないようすべて破壊して回るとか?
……でも、さすがにそこまでやれる自信はないかな」
一応、自信がないなんて言ってみた……が、何となく商会ごと破壊することもできる気がしてしまう。
ほんと、この体は恐ろしいものだね。
「ち、違うわよ。あたしもそんな短絡的なことは考えないわっ。
そうじゃなくて、長所っていうのは容姿よ!
ほら、あたし達ってそこらの人間よりは、そのぉ……か、かわいいでしょう?」
お、自覚はあったんだね。
まぁそれもそうか、この数日ナンパも1度や2度じゃなかったからね……そうした勇気あるナンパ師たちは、チンピラと同じような運命をたどったわけだけどさ。
「あの男も奴隷の話の時に美しいから引く手あまたとか、あたし達のことを言っていたし、有効活用できれば結構稼ぐことができると思うの。
それで金貨を1000枚用意してやれば解決よ」
「そ、そういう方法もあるかもしれないけど……すごいね。
カルラさんはその覚悟ができてるんだ?」
「覚悟? ……よく分からないけど、可愛ければ稼ぎのいい仕事があるっていうのは、あたしも前に聞いたことがあるわ。
だからきっと、あんな胡散臭い男の話より、もっといい仕事があるに決まってるわ!」
「よく分からないって……、それは要するにセ――」
「ああっ! アイリスさんっ!! ちょっとあっちで話しましょうかっ!?」
突然、話を遮られると、少し離れた隅の方に移動させられることになった。
「(……どうしたの?)」
「(そ、それ以上はダメですよ!! カルラちゃんはその……すごく純粋なんですっ!
そういうことはまだ早いんですっ!!)」
たしか前に、「カルラちゃんはそういうことに鈍いんです」みたいなことをアンジェから聞いた気がする。
あれはこういうことだったのか。
「(えぇー、じゃあ彼女は何をするか分からないで、あれを提案してるの? ……まぁ、それはそれで)」
アンジェはカルラに卑猥なことを教えたくはないようだ。
でも、穢れを知らない娘だからこその悦びというのも、あると思うんだぁ。
「な、何か変なことを考えてませんか!? とにかくっ、あの話は誤魔化さ……」
「――何を2人だけでコソコソ話てるのよ?」
「えっ!? ……な、何でもないよ!? ほんとに何でも…………。
あーえっと、さっきの話なんだけどっ、いくら何でも金貨を1000枚も集めるには、時間がかかり過ぎるじゃないかなぁ……? なんて……」
「そっか、タイムリミットもあるのよね……。
ラドミラが売られてしまったら、金貨が集まっても無駄になってしまうものね」
「そう! 売られる前に助けないと……。
――売られる? あの人はたしかレーヴ伯爵に売ると言っていた……それなら、もしかして……っ!!
カルラちゃん! アイリスさん! わたし、いい考えが浮かんだかもしれませんっ!」
アンジェは何か思い付いたみたいだね。
2人が夜の仕事をする姿というのも見てみたかったんだけど……まぁいいか。
とりあえず僕にとっての成果は、友情パワーってものも侮れないということが知れたということだろうか。
ぼっち生活の長い僕だから、理解していなかったということなのかもしれないけどさ。
とはいえ、友情を大事にしているのは僕にも何となく分かったけど、実際のところ友情のためにどこまで頑張ることができるのか……その限界についてもまた調べてみたくなっちゃったなぁ。




