表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
30/134

夜這い 2

「本当に、ごめんなさいっ!!!」



 目の前には床にぶつかるんじゃないか、というくらいに頭を深く下げたカルラがいる。

 いわゆる土下座に近い恰好だが、手は床についていない。


 謝罪の気持ち的なものは伝わってくるので、これがこの世界の謝罪方法なのだろう。



 そして、アンジェはというと――



「んんっ、……っ、んん、んんんっっ」



 両手両足をロープで縛られ、口には猿ぐつわのようなものをされて床に転がされている。

 昼間、チンピラ達が持っていたものを適当にもらってきたけど、まさかこんな形で使うことになるなんてね。



 馬乗り状態のアンジェを見たカルラは、すぐさまロープなどを取り出すと手際よくこの姿にしてしまった。


 事実、強姦現場で間違いはないだろうし、こうなったのは仕方ないと思う。

 ただし、彼女がそんな行動を即座に取れたということは……。



「……アンジェさんの"性別"のこと。カルラさんも知ってたんだね?」


「っ!?」



 カルラもアンジェが男だと、事前に認識していたということだ。

 そうでなければ、いきなり一方だけを縛った上で全力の謝罪なんてしないだろう。


 ……しない、よね?

 女の子同士のじゃれ合いとか、あんまり詳しくないから自信はないけど……たぶんそうだと思う。



「それは……っ、……知ってたかと聞かれると……知ってるような、知らないような……ええーと…………。

 はいっ、知りながら黙ってました!! ごめんなさい!!!」



 まぁ、実のところそんなことはどうでもいい。

 アンジェの性別がどうとか、しかもそれを他人に教えるかなんて彼女たちの自由だろう。


 というか僕自身、アンジェが男だと分かってからも半分……いや、もう完全に受け入れてたし、なんなら冷静になって考えたってそれは変わらない。



 ふむ、この感覚はなんて表現したらいいかなぁ……。 アンジェはまるで美少女…………そうだ。

 アレがついた女の子って感じなのかも。

 問題がアレの有無なら、この体には穴があるんだし、入ってしまえば見えないからもう女の子でしょ?



「許してもらえるわけがないわよね……。

 それなら……っ、アンジェのア、アレを切り落としてもいいわっ!」


「えっ!?」「んんっ!?」



 俯いていた顔を上げたカルラは、思い詰めた表情でまさかの提案をしてくる。


 いやいや、僕はそんなこと全く考えてないよ?

 いくら何でも罰が重過ぎ……もしかして、この世界では強姦に対してはそれが普通なんてことも……。



「――だから、どうかこの子の命だけは助けてくれないかしら……っ」



 そう懇願するカルラの目には恐怖の色が浮かんでいた。

 恐怖? 強姦なんてしたアンジェに? ……いや、これは違う。とすれば…………ああ、僕か。


 それもそうか。彼女達の目の前にいるのは、オーガを破裂させることが可能な人間だ。

 僕が怒りに任せてアンジェを殺すかもしれない、と考えるのも当然といえる。



 ……やっぱり、あれは怖いと思われるようなことだったんだね。

 今まで2人が普通の態度だったから、この世界だとそこまで大したことではないのかと思ったけど、間違いだったみたいだ。


 あまり不用意なことはしないように、これからは色々と注意しないといけないかな。



「ううん、そこまではしないよ。カルラさんの気持ちは伝わったからね」


「ほ、本当に!? それなら――」


「でも、アンジェさんにいくつか質問してもいいかな?」



 とはいえ、あの事くらいは聞いておかないといけないよね。

 ……はぁ、僕としても下手な事を聞いて、やぶ蛇にでもなったら困るんだけどさ。



 カルラは勢いよく頷くと、アンジェの猿ぐつわを外してくれた。



「ぷはっ……。あっ、あの、本当にごめんなさいっ!!

 何を言っても許してもらえるとは思っていませんが、そ、その……色々と誤解してしまって、それであんなことを……」


「えっと、たしかボクのことを『男の子』だと思ったみたいなことを言ってたよね。

 なんでそう思ったのかな? ……まさか、一人称が"ボク"ってだけで判断したわけじゃない、よね?」



 むしろ、そうだったら話は簡単なんだけどね。

 それなら"私"とか、何か女の子として無難な言い方に改めるだけで済むし……。



「あんたっ、そんな失礼な勘違いしてたのっ!?」


「それは……はい。

 "ボク"といいますか……口調が男の人っぽいなと思う時もたまにあるんですけど……。

 一番は昼間の、カルラちゃんがチンピラさんの……アレを蹴った時のことです」


「えっ? あの時って……ボクは何もしてないよね?」


「……アイリスさんそれを見て、ご自身のを抑えてましたよね?

 それであの、わたしも同じことしましたから……。

 もしかしたら、アイリスさんもわたしと同じなのかなって……」



 たしかに、無意識レベルで股間を抑えてしまった。

 ふむ、アンジェも同じ行動をしていたのか。それは気付かなかったな……。



「しかも泊まる宿が、その、こういうところでしたから、てっきりああいうことを望まれているのかと……」


「?? この宿がどうしたの? あまりいい宿ってわけじゃないけど、特に変わったところもないような……?」


「……ここって、()()()()宿()ですよね?」


「連れこ……、ええっ、そうなの? ここ……そういう宿なの?」


「ええと、知らなかったんですか……?」



 そうなんだ。この宿ってそういう……なるほど。だから、ベッドが大きかったんだね。


 今更ながら宿のことを理解したけど……ということは、気付かないで女の子をそんな宿に案内していた、と?

 うわぁ、何それ恥ずかしいじゃん! 恥ずかしすぎていっそのこと死にたい気分だよ……。



「それで思ったんです。

 アイリスさんは優秀な冒険者ですから、人探しなんて面倒な依頼は受けなくてもよかったはずです。

 しかも、わたし達はどう見ても大金を持っているようには見えませんから、お金目当てではない。

 そこで、もしアイリスさんが男の方だったとしたら……」


「も、もしかして、ボクの目的が2人の体だと思ったの? それで自分から?」


「はい……そういうことになっても、わたしの方がダメージが少ないですから」



 1つ1つは小さな疑惑程度でも、積み重なれば確信に変わる。ってことか……。

 体が女の子になっても、男だとバレるものなんだね……女の子っていうのも意外と難しい。



 それにしても、あの夜這いは幼馴染の身代わりになる。って感じの覚悟を決めた行動だったのか……。


 なるほどね。アンジェもそうなんだ。

 他人のために、自分は苦労を惜しまない……そんな面倒にしか思えない生き方ができるんだ。


 いや、今までカルラばかりが目立ってただけで、アンジェだって昼間の捜索は一生懸命だったし、内に秘めた思いは変わらないのかな。


 本当にこの娘達の絆というか、互いを思う気持ちみたいなものは相当なものだ。

 ……自分のため人生すら途中で止めてしまうような僕には、少なくとも理解できない生き方だよね。


 でも、だからこそ理解したくもある。……だけど、それって可能なのかな?

 ……分からない。分からないが、理解できるかもという期待くらいは持ってもいいかもしれない。



「そういうことだったんだね。カルラさん、縄を解いてあげてくれる?

 ……さてと、もう結構遅い時間になっちゃったし早く寝ようか」


「えっ、……いいの、ね? それじゃあ、アンジェのこと許してくれたってこと……?」



 さて、残る難問はアンジェを許すかどうかだ。

 もちろん僕は怒ってすらいないけど、男かもしれないという疑惑まで持たれたんだから、少しは女の子っぽい対応をしとかないとだし…………。



 はぁ、考えても分からないね。とりあえず、釘でも刺しとけばそれっぽくなるのかな。



「今回は許すよ。だけど、次は……ないからね?」


「っっ!? はっ、はい!! もちろんっ、2度としませんっ!!」



 何かを握り潰す手振りと一緒に警告を伝える。

 アンジェの顔、真っ青だ……さすがにやりすぎ、かな? 少し可哀そうだ。


 あーあ、これじゃあアンジェルートはなくなったよねぇ。

 女の子の感じ方っていうのも、少し興味があったのに……残念だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ