親友探し 4
「ここが冒険者ギルド……なのね」
「エルフの国には、冒険者ギルドってないのかな?」
「ないわね。
……狩りをしたり、薬草を集めたり、そういうことはみんなで行うというのがあたし達の生活なの。
だからきっと、冒険者のような役割は全員が行うもの、という意識があるのかしらね」
言い換えれば、エルフは全員が冒険者ということか……。
そういってしまうと、エルフという種族の戦力に恐ろしさを感じる。
でもカルラ達のように、ゴブリンにも勝てないような娘もいるんだから、個々の戦力はそう大したものでもないのかな。
「ああでも、冒険者に憧れて人間の国で冒険者になる人もいるわ。
だから、一応冒険者がどういったことをする人なのか、くらいはあたし達も知ってるわよ」
「そうなんだ。冒険者って意外と人気なんだね」
冒険者って、ゲームだとよくある職業だけど、収入が不安定だろうし、危険なことも多いと思う。
だから、実際になりたい人は少ないかと思ったけど、そうでもないのかな。
「……あ、あのー、わたし達、なんだか睨まれてませんか?
もしかして、気付かないうちに変なことしちゃってました……?」
「大丈夫だと思うよ。ボクも初めて来たときは睨まれたからね。
たぶん新顔の品定めでもしてるんじゃないかな」
アンジェは、周りにいる冒険者が相当怖いのか、震えながらカルラの腕を掴んでいる。
昨日は、僕も厳つい人達に睨まれて身がすくみそうになったが、今はそこまでじゃない。
自分よりも怖がっている人が傍にいると、どうしてこうも安心できるんだろうね。
それに……森で遭遇したオーガと比べちゃうんだよね。
モンスターと人間を比べるのもどうかと思うけど、あんなに怖いオーガを簡単に倒せてしまった体験が少しは自信になっているのかな。
とはいえ、厳つい顔で睨むのは勘弁して欲しいけどね。
「そうね。アンジェもしっかりしなさい。こういうのは舐められた方が負けなのよっ」
「う、うん……」
周囲から鋭い視線を受けても平気そうな顔をしているみたいだけど、カルラは怖くないのかな?
……いや、そんなこともないか。
よく見ると、震えているのはアンジェだけではなく、カルラもだった。
さて、2人共冒険者ギルドの雰囲気が苦手なようだし、ここでの用事を早く済ませてしまおう。
美少女エルフが怯えているのはかわいい……じゃない、かわいそうだからね。
「討伐したモンスターの換金をお願いします」
「アイリスさん……。今回も大量のモンスターを討伐されたのですか?」
先に確認していなかったが、受付嬢は前回も換金の対応をしてくれた人と同じだった。
前回は、魔法やスキルの実験台として、手当たり次第にモンスターを倒したから数が多くなったが、今回はさすがに呆れられるほどじゃない。
……たぶんね。冒険者って普通はどれくらいのモンスターを倒すのかな?
「今回はそんなことないですよ。……これが討伐証明です」
「……そうですね。数は7体分ですか。ふぅ、それでは報酬の計算を始めます。
まず、ゴブリンが6体、そしてこれは……、……これはなん、ですか?」
「それはオーガの角ですね。……角ではオーガの討伐証明になりませんか?」
「いえ、そんなことはありませんが……。そうですか、オーガですか……。
えっ、オーガっっ!?」
一瞬、ホッとした顔を見せた受付嬢だったが、それがオーガのものだと理解すると驚愕の表情に変わった。
どうしたんだろう。急に顔芸を披露し出した……? えっ、怖い。
「どうかしましたか……?
オーガは倒してはいけなかったとか……なにかマズイことでもありましたか?」
「ま、まさかっ、そんなっ……。いえ、これはホンモノ……?
こほんっ、すみません取り乱しました。少々お待ちください」
僕の話は聞こえていないのか、質問には答えず奥の部屋に急ぎ足で行ってしまった。
本当に何か不味いことをしてしまったのだろうか?
「どうされたんでしょう?」
「さ、さあ? オーガを倒したと聞いて、慌てていたように見えたけど……」
「……付き合せちゃって悪いけど、もう少し待ってもらっていいかな?」
2人も受付嬢の反応には怪訝な顔をしている。
冒険者なんてやめてもいいんだから、何か問題があるなら今すぐここから逃げてもいい。
だけど、あの反応の理由は気になるし、もう少し待ってみようかな。
***
「この角は、オーガのものであると証明されました」
3人で受付カウンターの前で待っていると、戻って来た受付嬢はそう言った。
証明された……ね。まあ、本物か疑うのは仕方ないし、いいや。
僕も討伐証明が偽装されたものだったらどうするんだろう? とは考えたからね。
一度奥の部屋に行ったってことは、そこに鑑定スキルを使える人でもいるのかな?
それとも、何か道具があるとか?
「換金の前にいくつか質問にお答えください。
オーガはどちらで討伐されたのですか?
そして……実際に討伐された方を教えていただけますか」
「ここから南にある……正式な名前は知りませんが、あの森で遭遇しました。それ以上に細かい場所まで説明するのは難しいですね。
それに、実際に討伐された方と言われても、一応ボクが倒しましたとしか……」
「南の森……。あそこで、オーガが現れたなんて報告はこれまでに一度も……っ。
……分かりました。それは置いておきましょう。
ですが、オーガはBランク以上推奨の高危険度モンスターです。
最低ランクの冒険者に倒せるわけが……っ! ……そちらのお二人、まさかその耳はエルフの方ですか?」
2人はまたフードを被り直しているが、この距離ならエルフとバレてしまうのもしょうがないか。
そういえば、エルフだと分かると問題あるのかな?
まあ、フランツや受付嬢の反応を見れば、何かしらエルフが特別扱いなのはわかるけどさ。
「そういうことですか……。失礼な対応となってしまい申し訳ございません。
こちらがオーガも含めた討伐報酬になります」
報酬として渡された袋には金貨5枚と銀貨が数枚入っていた。
前にもらった報酬から計算すると、オーガ1体の討伐報酬が金貨5枚ということになる。
前回はすべて合わせても金貨1枚なのだから、破格の報酬ではないだろうか。
「そしてアイリスさん、冒険者プレートを貸していただけますか?」
「冒険者プレート、ですか? ……はい、どうぞ」
「ありがとうございます。
…………それでは、今回のオーガ討伐により、アイリスさんはEランクに昇格となります。
こちらが新しい冒険者プレートです」
帰って来た冒険者プレートは、材質は木材で前と変わりがないが、緑色に着色されたものになった。
初めにプレートを渡された時と同様に、表面には名前も印字されている。
「慌ただしい対応となり申し訳ありませんが、私は急用が出来てしまいました。
依頼の受注など他に用件があれば代わりの者をお呼びますが、いかがいたしますか?」
「い、いえ、他に用件なんてありませんので、ボクたちはこれで失礼します……」
受付嬢は、自分でも言っていたが慌ただしく奥の部屋に戻って行った。
いきなりのことで状況がよく呑み込めていないが、とりあえずは冒険者のランクが上がって、報酬も貰えた。
何も問題はなかった……ってことでいいのかな?
まあ、いいか。もうここでやることは終わったし、本来の目的に戻ろう。
「それじゃあ、ボクの用事は終わったから、ラドミラさんを探しにいこうか」
「ええ、そうね。……でも、ふふっ、良かったわ。
あんなに慌てていたってことは、ここでもオーガは危険なモンスターとして認識されているのよね。
アイリスは簡単に倒すものだから、人間の国ではあれが普通なのかと心配したわよ」
「うん、そうだよね。安心した……。
あんなのが頻繁に出没するところだったら、夜眠れなくなっちゃうよ。
やっぱり、アイリスさんが特別だったんですね」
僕も、一般的な認識としてオーガは強敵だ、ということが知れてよかった。
ということは、この体は一般的な基準で考えても、それだけ強いってことだよね。
2人の視線にくすぐったいものを感じながら、冒険者ギルドを後にした。




