親友探し 1
「やっと、安全な街道に戻れたのねっ! ……こんな危険な森、もう二度と入らないわ」
それが森を抜けて街道を見たカルラの第一声だった。
うーん、それはエルフとしてどうなんだろう?
さっきは自分で「森の頼れる狩人」とか言っていたと思うんだけど……。
それに、"安全な街道"ねぇ。それなら何で森に入ったのかな?
「今更だけど、2人はなんで森の中にいたの?
目的地がブルクハルトなのは分かったけど、それなら街道を使えばよかったんじゃ……」
もしかして、森を通らないといけないエルフ特有の理由があったりするのかな?
せっかく生のエルフに聞ける機会なんだから、そういうことは聞いておかないと。
「ええと、それは、ね…………」
「……実は、ここに来る前はアイヒホルンにいたんです。
そこで男の人達が、『ブルクハルトなら目的地が同じだね』と言って、馬車に乗せてくれたんです」
アイヒホルンというのは恐らく街の名前だろう。
ここに来る前にいたということは、この街道をブルクハルトとは反対にいけば、アイヒホルンってところに着くのかな。
「へえ、それは親切な人達だね。でも、なら何で2人で森に……?」
「はい……、そこまでは良かったんです。
ですが、この森の近くまで来たら、その人たちが急に襲ってきて……。
だから咄嗟に森へ逃げ込んで、なんとか撒くことができたんです」
なるほどね。
そうして逃げた先でゴブリンに遭遇し、僕が来て一度は助かったと思ったら、今度はオーガが登場という流れだったんだろう。
聞けば聞くほど彼女達は酷い目に遭っているようだ。
誘拐に続いて、急に襲われる――たぶん、強姦未遂だったのかな――なんて……モンスターが存在するのもそうだけど、この世界の治安は思っていた以上に悪いみたいだね。
「な、何もそこまで正直に話さなくても……っ」
「アイリスさんにはこれからお世話になるんだし、事情は説明しておいた方がいいよ。
それに、あの人達を見つけて来たのもカルラちゃんじゃないっ! 少しは反省してよねっ!!」
「それは…………でもっ、アンジェだって『お金は節約しないと』って賛成してたじゃないっ!!」
2人は喧嘩というか、じゃれ合いを始めた。
森の中を歩いていた時は静かだったから、街道が見えて安心したのかな。
「2人は本当に仲良しなんだね」
「えっ?」「えっ?」
「あはは、息もピッタリだ」
「……っ。お、幼馴染なんだから当然ねっ。
昔からいつも3人でいたんだから…………だから、早くラドミラを助けないと……っ」
カルラは暗い顔になりながらも、決意の籠った呟きを漏らしていた。
やはり、その幼馴染で親友って人を助けたいという思いは本物のようだ。
それにしても"親友"……か。前世でもそんな存在、僕にはいなかった。
親友という言葉には憧れるような、それによって発生するだろう人付き合いがめんどくさいような……微妙なとこだね。
「その、ラドミラさん? っていうのが探してる人なんだよね。
よかったら、その人についても教えてくれないかな?
ほら、外見ぐらいはボクも知っておいた方がいいと思うし」
「え? あっ、そういえばあの娘について話してなかったわ。
……ええ、名前はラドミラよ。あたし達と同じように耳が長くて、キレイな銀髪をしているわね。
長さは、あたしよりも短いけど、アンジェよりは長いくらいね」
「それに、わたし達と同じで髪を編み込んでいるんですけど、片側だけなんです。
あと服装は……でも、これは攫われる前のことだから、いまは違うかもですよね……」
ふむ、髪の編み込みは片側だけなんだ。てっきり3人でお揃いにしているのかと思っていた。
まとめるとキレイな銀髪のエルフってことかな。それに、まあまあ髪が長いみたいだし、女の子なのかな?
って、この2人じゃなくて、敢えてその娘を狙ったんだから女の子に決まっているか。
「そうよね。連れ去られた後、何をされてるか……っ。
考えただけでもあの人間、許せないわっ!!」
誘拐犯は人間ね。それもそうか、この国に逃げたんだから当然……待てよ。
それじゃあ、さっきの犯人は?
「さっき、森に逃げ込んだのは襲われそうになったからって話だったけど、その人達も人間なの?」
「ええと、そうですね。獣人の方もいましたが、ほとんどは人間でした。
……もしかして、それが関係あったりするんですか?」
「ううん。関係はないと思うけど……それでよくボクに用心棒の依頼なんてしてきたね。
ボクもその人達と同じ人間だよ? 同類だとか思わなかったの?」
やはり僕の姿が美少女だからだろうか? うんうん。これはそうに違いないよ。
それ以外の理由なんて思い付かないもの。
いや、知らない男達の馬車に、無警戒に乗ってしまうんだ。
この娘達が単に抜けているだけって可能性も……。
「確かにあなたも人間ね。でもそれは、"種族が同じ"というだけだわ。
あたしは種族だけで人を判断しない。アイリスはあいつらとは違うと思うの」
やけに真剣な顔で言われてしまった。
種族が同じだけか。それは立派な考えだ。
前世では、人種の違いなんかでも差別が生まれていた。
エルフと人間。この二つの違いに比べれば、人種の違いなんて些細なものだろう。
知らない人を判断する時なんて、大抵は似たような属性で一括りにして考えるものじゃないかな。
それなのに、カルラはその考えを語るだけでなく、実際の行動にしているんだ。
「そうよ。種族でその人を判断するなんて間違っているわ」と、まるで自分に言い聞かせるように呟いているのが気にはなるが、彼女は意外に大物なのかもしれない。
「……ありがとう。カルラさんの考えは参考になったよ」
「え? ええ、それは良かったわ……?」
そうやって考えた結果、人間やモンスターに襲われることになったんだから、彼女をマネしたいとは思わないけどね。
「あっ、ほら見て。あのボンヤリと見えるのがブルクハルトの城壁だよ」
しかし、彼女の考え方が僕とは違うことがハッキリした。
ふふふ、やはり行動を共にしたのは正解だったね。これは面白い生きる理由が聞けるかもしれない。
ラドミラという娘が見つかるまで、たっぷりと2人を観察させてもらおう。




