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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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思索 2

 さっきはカルラに話しかけられて、考えが中断してしまったし、一度この体についてしっかり考えた方がいいかもしれない。


 転生直後はこの体のことを何も分かっていなかったけど、ここ数日で気づいたこともあるし、少しは分かることもあるはずだ。



 まず分かっているのは、膨大な種類の魔法やスキルが使えることだ。


 度々ウィンドウを眺めたりして、使用可能な魔法・スキルについて調べているけど、まだ全体を把握しきれないほどの量がある。

 もちろん自分自身のことだから、対象に意識を向ければそれがどんな効果なのかとか必要なことは思い浮かぶ。


 でもあまりにも膨大すぎるせいなのか、それともそれが普通なのか、ある程度何をするものなのかのイメージがないと、具体的な魔法・スキル名まではパッと出てこないんだよね……。


 どこか学園みたいなところで、一から勉強する機会でもあれば分かるようになるのかもしれないけど、この世界にそんなものあるのかな?

 いや、あるとしても勉強なんて面倒か。


 とはいえ、いま把握している限りでも攻撃、防御、回復、支援、各種耐性、状態異常系と大抵の魔法・スキルは使えるみたいだし、問題ないんじゃないかな。



 次に、身体能力が異常に高いこと。

 ……いやまあ、身体能力で済ませられるレベルじゃないかもしれないけどね。


 前にも考えたことがあるがこの体は疲れ知らずという感じで、森の中なんて慣れない場所を一日中歩き回っても一切疲れない。

 しかも、前世では格闘技なんて触れたこともない……というか運動音痴な僕がモンスターと闘えている。

 ほとんど戦闘らしいこともせずに倒せてしまっているけど、相手の動きを捉える動体視力があるだけでもすごいことじゃないかな。


 身体能力強化系のパッシブスキルなんかも発動しているけど、オーガに攻撃されても一切ダメージを負わない事といい、明らかにこの体は異常だと思う。



 そして、一番重要な事として……美少女ということだ。

 これは冗談ではなく結構本気なんだけど、美少女というのがこの状況を作った最大の要因だと思っている。

 もしオーガを倒したのが冴えないおっさんとかだったら、即バケモノ認定されていた。

 カルラも用心棒なんて頼んでこなかったと思うね。


 この体が美少女だったから、信用して用心棒の依頼なんてしてきたんだと思う。

 うん、そうに違いない。美少女というバフ効果のおかげだね。


 問題点としては、男から性的な対象として見られることかな。

 体が女になったからって、男に興味はないから迷惑なんだよね。……今のところは。


 もしかして、この先そういった性的指向なんかも変わったりするのかな?

 ……体が勝手に反応するようになったら嫌だなぁ。



 分かったことを挙げてみるとこの体が異常な事と共に、なぜそんな体を僕が使うことになったのか?

 という疑問が湧いてくる。


 エルネスタも言っていたが、こんな少女が武器も持たずに、恐ろしいモンスターがうろつく森を、それも1人で彷徨っていたんだから、元々は自殺志願の少女だったんだと考えていた。


 そうだったら前世で自殺した僕にはぴったりな体だと思って、今まで好き勝手に使えていた。

 僕も電車に飛び込んだあの体だったら、体の所有権を手放したも同然だし自由に使ってくれていいと思うもの。

 ……死に方的には、グチャグチャだと思うけど。


 だけど、この規格外と思えるような戦闘力を知ってしまうと、その考えは当てはまらなくなってしまう。

 モンスターに出会っても余裕で対処可能だし、こんな森くらいお散歩気分で入れるだろう。

 いや、この異常な能力からすれば、勇者とかそれに類するような人だった。とか言われた方がしっくりくる。

 何かしら使命のようなものがあって、この森に来ていたとか、そんな壮大な背景があってもおかしくないと思えてしまう。


 でもそんな体を、僕がこの世界に転生した瞬間に奪ってしまったのだとしたら――それって、もの凄く面倒ではないだろうか?

 僕はこの体に使命があったとしても、代わりを務める気にはなれない。

 だって、そんなことする理由は全くないもの。



「あの、アイリスさん……? どうかしましたか?」


「もしかして、道に迷ったとか言わないわよね?」



 2人のエルフの女の子が僕の顔を覗き込むように見てくる。

 今は、彼女達をブルクハルトまで道案内している途中だ。


 転移魔法は複数人にも対応しているみたいだから、それを使って一瞬で戻ってもよかったけど、この魔法が一般的に使われるものなのか自信がなかったから、徒歩で移動することにした。


 歩いている間は暇だからと色々考え事をしていたけど、自分の世界に入り込み過ぎたかもしれない。



「……心配しなくても、大丈夫だよ。ブルクハルトがどっちにあるのかはちゃんと分かってるから。

 えっと、このまま行けば、そろそろ森を抜けるかな。そしたらすぐに街道も見えると思うよ」



 まあいいや、この体にどういった事情があったかなんて、考えたところで答えが出るわけがない。

 元々の持ち主の意志が体に残っているとか、今のところそういった不都合は全くないんだ。

 それなら、どんな流れでこうなったにせよ。これはもう僕の体として、この先も好きに使わせてもらおう。


 もしかしたら、この体は神様が僕のために用意してくれたもので、前の持ち主なんていないのかもしれないし。

 そういえば、神って実在するのかな? 転生時には会った記憶はないけど……。



「そう。それなら良かったわ。

 ま、まぁ、もしアイリスも道が分からなくなってしまったら、あたしが先導してあげるわよっ!

 あたしって結構、勘がいい方なのよね」



 カルラは一度、安心したような顔をした後に、強がりを言っている。

 薄々は感じていたが、カルラからはお調子者な気配がする。


 アンジェも少し冷めた目で彼女のことを見ながらも口は出さないし、普段からこんな調子なんだろう。



 このエルフ達を見ていたら、元の持ち主がどうのなんて考えていたのが馬鹿らしくなってきた。

 なによりも今は目先のことを優先しよう。


 ああでも、この体に特殊な背景があって何かやらされるとか、そんな展開になったらまた自殺しちゃうかもしれないけどね。


 誰かの人生を生きるとか面倒でしかないもの。

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