森の迷子 5
このままだと彼女たちの内輪話が終わりそうになかったから、用心棒の依頼を引き受けると伝えた。
僕がその依頼を受けるとは考えていなかったのか、2人ともポカンとした顔でこちらを見ている。
「……用心棒やってくれるの?」
「い、いいんですか? ……報酬は大して払え――むぐっ!?」
「あ、あははっ、引き受けてくれて嬉しいわ!! あはははっ……」
赤髪のエルフがもう一人の娘の口を抑えて、それ以上話をさせないようにしている。
所持金が少ないことは、もう聞こえているんだけどね。
僕としては、金銭には余裕があるから報酬はどうでもいい。
でも、後でどうにかするって、どうやってお金を集めるのかな?
面白そうだから、後の楽しみとして取っておくことにしよう。
「うん。今は特にやることもないし、暇だったからね。
えっと、依頼内容はブルクハルトでその親友って人を探す間、2人を守ればいいんだよね?」
「そうねっ! それで問題ないわ。あっ、そうだわ。
これからしばらくの間、一緒に行動することになるのだから、自己紹介くらいしないとね。
あたしはカルラ。見ての通り森の住人で、弓兵よ。森の頼れる狩人ってところね」
赤髪のエルフ――カルラは自身の長い耳と、手に持った小さな弓をアピールしてくる。
彼女が弓兵ゴブリンに負けたところを見ていなければ、素直に頼もしいと思えるんだけどね……。
改めて彼女の姿を確かめる。一番目立つのはその真っ赤な髪だ。
長さはセミロングくらいだろうか。特徴的なのは両サイドから後ろ髪にかけて作った、三つ編みのような編み込みを後ろでひとつに結んでいる。
ガーネットのような深紅の瞳と、大きくパッチリとした目元が彼女の意思の強さを表しているみたいだ。
それと、年齢は今の僕と同じくらいかな。いや、彼女はエルフだから、そこら辺は人間と違うかもしれないね。
エルフって長命なイメージがあるし、ひょっとすると結構年上だったりするのかもしれない。
「わ、わたしはアンジェリーンです。長いのでアンジェって呼んでください。司祭をしています……まだまだ見習いですが」
もう一人の子――アンジェもフードを脱いで、顔がはっきりと見えるようになった。
彼女も耳が長い。やはりエルフだったようだ。
この世界で出会った人間は白人って感じの人が多いけど、2人はそれにも増して透き通るように綺麗な白い肌をしている。
こういうのもエルフの種族特性なのかな?
そして、髪型は明るい茶髪をボブくらいの長さにしている。
こちらも左右から後ろ髪にかけて編み込みを作っているのが特徴的だ。
そっくりな編み込みは、2人の仲良しの証みたいなものなんだろうね。
カルラと比べてしまうと目立たないけど、彼女も相当な美少女だ。
2人共、見れば見るほど戦闘なんて縁遠い感じがする。
いくら親友を助けたいからって、よくこんなモンスターがうろつく森を通れるよね。
……いや、こんなところを1人でふらふらしている僕が言えたことじゃないか。
「カルラさんに、アンジェさんだね。ボクはアイリス。
用心棒なんてやったことないから少し不安だけど、精一杯やらせてもらうよ。よろしくね」
2人の自己紹介が終わり、僕の番になる。
とはいっても今は名前くらいしか言えることはないけどね。
ああ、そういえば彼女達、名前の後に司祭とか言っていたっけ?
……確かノラ達も同じようなこと言っていた気がするし、僕も何かそういうの付けた方が良いのかな。
たぶん、ファンタジーな感じの職業なり役職的なものを名乗るんだと思うんだけど、それだと僕は何になるんだろう?
……魔法も使えるし、一応ダガーやバックラーなんかの近接武器も使っているんだよね。
どちらかをメインってことにして魔術師とか、戦士でもいいんだけど……ここはせっかくだし、欲張ってみよう。
「……それと魔法戦士って、やつになるのかな。魔法も接近戦も一応はできるよ。という程度だけどね」
弓兵ゴブリンに突き刺したまま放置していたダガーを、引き抜きながら付け加えておく。
引き抜いた時に吹き出た返り血は、ギリギリ回避することができた。
「魔法戦士ですか? 珍しいクラスですね……」
どうやら、この弓兵や司祭というのはクラスってものらしい。
それにしても、こういうの名乗るとファンタジー感が増していいよね。
……でもどうしよう、ノリで名乗った魔法戦士が追及されそうな気配だ。
この世界初心者の僕には珍しさの基準がよく分からないよ。適当に誤魔化さなければ。
「そう、なの? よく分からないけど……ああ、そうだ。
カルラさんの怪我、ちゃんと治さないとね」
カルラの太腿には、弓兵ゴブリンに攻撃された矢の跡が残っている。
アンジェが応急手当をして刺さった矢本体と、止血の方は問題ないようだけど、完全には治っていないみたいだ。
綺麗な足をしているんだし、跡が残ったら困るよね。
「<ヒール>。……どうかな? これで傷跡も残らないと思うんだけど」
「すごいっ! きれいに治っているわ!」
「こんなレベルの回復魔法初めて見ました……っ!!」
ヒールで完全に傷が治ったことに2人共かなり喜んでくれている。
アンジェは見習いとか言っていたし、ヒールがあまり上手くないのだろうか?
うーむ、それとも本当に僕のヒールが強力だった…………?
この世界の常識もまだよく分かっていないし、2人と行動している内にそういうのも何となく知れるといいな。
「ふふん、あたしがアイリスを雇ったのはやはり正解だったわね。
それじゃあ、ブルクハルトに向けて出発しましょうかっ!!
…………えっと、それでその、どっちに向かえばいいの?」
出端から不安な展開だ。
でもだからこそ、僕はこの先なにかが起こることを確信して、森の迷子を道案内しながらブルクハルトに戻ることにした。
21/05/05 本文修正。




