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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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森の迷子 4

 場所は変わらず森の中。

 突然、用心棒になってほしいと提案してきた赤髪のエルフは、不安気な表情で僕の目の前に(たたず)んでいる。


 シールドバッシュのノックバック効果のおかげか、オーガが破裂した時に噴き出た大量の血はすべて反対側に飛んでくれた。

 血塗れの姿で対面するのが避けられたのは、救いかもしれない。



「あっ、ごめんなさい。いきなり変なことを言ってしまったわね。

 ……まずは助けてくれたこと、感謝するわ。

 あたし達だけだったら死んでいたかもしれない……ありがとう」


「助けた……? あぁ、うん、気にしなくていいよ。

 ……ボクは大したことしてないし。それに、ここにも()()()()通りがかっただけだからね」



 口封じをしようかと考えていたから、間の抜けた返事をしてしまった。


 そういえば、彼女達を助けたことになるんだっけ?

 少なくとも客観的に見ればそうなる……のかな?


 まあいいや、それならこの状況を利用すればやり過ごせるかも。



「あはは……偶然だけど、助けることができて良かった。うん、良かった。

 ……それじゃあ、ボクは行くね? この森いろんなモンスターがいて危ないから、気を付けてね。

 さよなら――」


「ねえ、待って!! お願い、少しでいいから話を聞いてっ!」



 適当に話を切り上げて逃げようとしたら引き留められた。なぜだろう?


 オーガが現れた時も騒いでいたんだし、オーガというのはそれなりに危険な存在として認識しているのだろう。

 それを撲殺するような危ない人間からは、早く離れたいと考えるのが普通だと思うのだけど……。



「さっきも言ったけど、あたし達の用心棒になってほしいのっ」


「用心棒? ……ああ、森を抜けるまでの護衛役がほしいってことかな?」


「ええ、そうね。あなたも言っていたけど、この森は危険よね。またモンスターに襲われたら、次こそ本当に……」



 そう話す彼女の顔は真剣だ。確かに彼女達はゴブリン戦の時点で敗色濃厚だった。

 誰かに守ってもらいたいと考えるのは分からなくもない。



「だけど、それだけじゃないわ。

 実はあたし達、友達を――大切な親友を助けるためにここまで来たのっ!」


「親友を……助ける?」



 とりあえずエルフってだけで関わってみたけど、何だか訳ありみたいだ。

 面白いことになるかもしれないし、もう少し話を聞いてみようかな。




 ***




 赤髪エルフの話を要約すると、その親友というのは誘拐されたらしい。


 何でも彼女達にはもう1人仲の良い友達がいるらしく、いつも3人で遊んでいた。

 ある日、エルフ達が住む森から少し離れた場所で遊んでいると、そのもう1人がいなくなった。

 始めは迷子にでもなったのかと考えたが、周辺を捜索しているとその子が無理やり連れて行かれる姿を見たそうだ。

 当然、すぐに追いかけたが誘拐犯は人間の国――つまり、現在地であるオスト・レドニカ王国――に逃げ込んでしまい、彼女達が入国に手間取っている間に見失ってしまったらしい。



「それでこの森にやってきたんだね。……もしかして、この森の先ってエルフの森に通じてるの?」


「いいえ、あたし達の国はここからずっと北東に行ったところよ。

 知らない? 人間の間ではあまり知られてないのかしら……」



 北東にエルフの国ね。いい情報を手に入れた。

 どんなところなのか興味が湧くし、いつか行ってみてもいいかもしれないな。



「って、今はそんなことどうでもいいわね。

 それで国境近くの街で色々調べた結果、ブルクハルトという街に連れて行かれたってことが分かったのよ。

 だから、あたし達がこの森にいるのはその街に行く途中というわけね」


「なるほど。……よくそこまで調べられたね。

 連れ去られた先なんて簡単に調べられるものなの?」


「まあそうね。他の人だったらこうはいかないでしょうね。

 何の手掛かりも得られずに、大人しく家に帰っていたかもしれないわ。

 でも、この程度あたし達にかかれば楽勝よっ!……少し苦労もしたけどね」



 見るからに得意気な顔だ。さっきまでオーガに怯えていたのに、もうすっかり元気なようだ。

 彼女はブルクハルトに親友が連れて行かれたと確信しているみたいだけど、そこは半信半疑に聞いておこうかな。



「あたし達の事情は話した通りよ。あなたに『親友を助け出してほしい』とまでは言わないわ。

 危険なことがあった時に力を貸してくれるだけでいいのっ!

 だから、引き受けてくれないかしら?」


「うーん、そうだね……」



 ゴブリンやオーガに襲われて危険な目に遭っても、彼女はまだその親友という人物を助けたいようだ。

 エルフの国というのもここから遠いところにあるみたいだし、彼女の思いはそれだけ本気なのだろう。


 会ったこともない人を探すなんて、大してやる気も湧かない。

 けれど、元々僕は誰かの生きる理由を知りたと思ってここに来たんだ。


 これだけ強い思いを抱く彼女と行動を共にできるというのは丁度いい話かもしれない。

 もしかしたら、生きる理由探しの取っ掛かりくらいにはなるかもね。



「……も、もちろん、それ相応の報酬だって払うわよっ! 銀貨……いえ、金貨――」


「ちょ、ちょっとカルラちゃんっ!!」



 話の途中でもう一人の娘に連れて行かれてしまった。

 なぜか焦っているみたいだった。どうしたんだろう。


 そういえば、あの娘とはまだ話もしていなかった。後で紹介してくれるのかな?



「(なにするのよっ、アンジェ! 今、いいところなのよっ!? ……勝手に用心棒なんて頼もうとしたのは悪いとは思ってるけど……)」


「(それは……文句ないよ。わたしだって何かあった時に守ってくれる人がいた方が安心だし、あの人ならきっと大丈夫だと思うもん)」


「(それなら何の問題もないわねっ! 早く話の続きを――)」


「(でもっ! わたしたちお金なんてあんまり持ってないでしょ!?

『それ相応の報酬』ってどうする気なのっ!?)」


「(うぐっ?! ……それは、その……い、今はラドミラを助けるのが先よ!!

 報酬の事は後でどうにかすれば……)」



 ところで、この体になってから魔法やスキル、身体能力の向上に加えて、五感も鋭くなっているんだよね。

 今も少し離れたところにいる2人のヒソヒソ話が全部聞こえてくる。

 特に期待もしていなかったことだけど、この依頼の報酬は安くなりそうだね。



「いいよ。その用心棒の依頼、引き受けるよ」


「へっ?」「えっ?」



 それにしても用心棒か。

 勢いで引き受けてしまったが、まさかそんなことを頼まれるなんて……。


 というか、今の外見からすれば守るより、守られる系だと思うんだけどね。

21/05/05 本文修正。

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