森の迷子 1
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目的の反応のすぐ近くまでやって来た。
直前、新たに2つの反応が合流して、今では8人(それとも8匹?)が集まっている。
いきなり遭遇して敵対されても嫌だから、<隠密>スキルを発動しておこう。
これで本当に気配を消せたのかな? 相変わらず、隠蔽系の効果は本当に発動しているのか分かりづらい……。
「ち、近づかないで!」
そんなのことを考えて歩いていたら、切羽詰まった声が聞こえてきた。
声の感じからすると、どうやらこの先にいるのは女性のようだ。
8つの反応は、初めから一緒にいた6の方が、後から来た2の方に向き合う形になっている。
並びから考えても両者は敵対関係にあるのだろう。
「あ、あんたたちなんて、簡単に倒せるんだからね!?」
「カルラちゃん逃げようよっ!? 危ないよ!!」
「何言ってんのよ! 相手はゴブリンじゃない!? ――こんなやつら、あたし一人だって……!」
やっと全員が見えるところまでやってきた。
どうやら8つの内訳は、ゴブリン6匹と女性2人だったみたいだ。女性の方はどちらも頭まで覆うローブのようなものを着ている。
そのため、はっきりとは分からないが、おそらく人間なのかな?
背丈は今の僕と同じくらいだし、女性というよりかは女の子って感じだ。
「ケケッ、ニンゲン、ニンゲン」「ウマイ?ウマソウ!」「オンナ!オンナ!」
ゴブリン達は目の前の獲物に夢中のようだ。
女の子達も目の前のゴブリンしか見えていない。
隠密スキルもあるし、このまま草木の陰にでも隠れていれば、僕のことは気付かないだろう。
そうだ。これは、この世界の一般的な戦い方を見学できるチャンスじゃないか。
……前回ノラ達が戦っていた時は、状況が飲み込めていなかったから、何が起こったのかイマイチ理解できなかったんだよね。
「ゴブリンくらいあたしにだって……っ、あたしにだってやれるんだからっ……!!」
前衛らしき女の子は、小さな弓を手に持ってゴブリンに狙いを定めている。
けれど、矢を番える手は震えているし、ちゃんと当たるのかな?
「――当たれっ!!」
女の子は限界まで弓を引き絞ると、前面にいるゴブリンの1匹に向けてそれを放った。
だが放たれた矢はフラフラと頼りなく飛び、案の定ゴブリンにも簡単に避けられてしまった。
「ハズレ、ハズレ」「ユミ、ヘタ?」「ギャギャギャ!」
「バカにして……っ!!」
ゴブリンは女の子が怒るのを見て、さらに笑い声を大きくしていく。
それで、ムキになった女の子は次の矢を番えている。……どう見ても当たりそうにないな。
後ろの子はどうだろう?
後衛の女の子の周りには魔法陣が浮いている。ゴブリン達が前衛に気を取られている隙に魔法を使おうとしているみたいだ。
あれは、ストーンショットかな。逃げることは諦めて戦う気になったようだ。
……うん? 今、なんで使う魔法が分かったんだろう?
「………<ストーンショット>っ!!」
「グギャ!?」
「マホウ! チュウイ!」「ッ!? コロス!!」
後衛の子が放った石ころは、見事にゴブリンの一匹に命中した。
ただ、威力はそれ程でもないのか、魔法が当たったゴブリンはもう起き上がろうとしている。
魔法の発動までの時間が長いかかっていた。それに発射された石ころの威力も速度も僕が使った時よりも、大分低いように見える。魔法自体は同じものだと思うけど、何が違うのだろう?
「いいわよ! 一匹ずつやっていきま――いっっ!!」
「カルラちゃん!?」
前衛の娘の太腿辺りに刺さっている。後方の弓兵ゴブリンが放った矢が見事当たったようだ。
彼女は立っているのも辛いのか、矢が刺さった周辺を抑えて座り込んでしまった。
仲間の魔法が命中して気を緩めたのがいけないのだろうけど、弓使い対決としてはゴブリンの勝利ってところだろう。
それにしても、あの矢は自分で抜くのかな? うわぁ、痛そう……。
「ま、待ってて! すぐに癒すから!」
「うぐぅ……い、いいわ。あたしはいいから……。あんたはもう、逃げなさいっ……!」
「そんなこと出来るわけないでしょ! 逃げる時は一緒なんだからっ」
後衛の子はヒールの魔法を使おうとしている。
ゴブリンを倒すのではなく、仲間を回復させることを選んだようだ。でも、間に合うだろうか?
うーん、今回も魔法の発動に時間がかかっているし、これは難しいかな。
とはいえゴブリンを倒すにしても、先程の魔法の威力を考えても決定打に欠けるし、どちらにしても詰みな気がする。
それと、魔法を使う時に出る魔法陣を見れば、何の魔法を使おうとしているのか判別できるみたいだ。
自分で使っていた時は気にしていなかったけど、これって結構重要なんじゃないかな。
魔術師相手の戦いでは、こうやって魔法を先読みしたりするのかもしれない。




