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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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初めての冒険 3

 それっぽい生き物の反応に向かうと、簡単にゴブリンを見つけることができた。

 ゴブリンは大抵群れで行動しているから、他のモンスターと区別が付きやすい。


 今回もゴブリンは6匹でパーティを組んでいた。

 前回と違うのは、うち2匹が弓を持っている。全体的に装備が整っているようだ。

 狼を木の棒に吊るして運んでいるし、狩りをした帰りなのかもしれない。



 巣に運ぶのかな? 薬草があるかもしれないし、付いて行ってみよう。

 ゴブリンの巣ってどんなところかな? ……知りたいような、あまり知りたくないような微妙な気分だ。



「ここまで近づいても見えてない。ちゃんと透明化は持続してるみたいだね。

 これなら付いて行っても問題ないかな」



 最後尾に並んでもゴブリン達が気づく様子はなかった。

 このまま何事もなく案内してくれることを祈ろう。



 しばらく、ゴブリン達の後を付いて森を歩いた。

 獲物を仕留めて気分が上がっているのか、偶に調子っぱずれな歌を歌ったりしている。

 僕が最後尾にいても気づかない間抜けさも相まって、ゴブリン達が少し可愛く思えてきた。……顔は醜悪だけどね。


 また、道中で猪なんかの獣に遭遇することはあったが、弓兵ゴブリンが矢で牽制して上手く追っ払っていた。

 あれが本当に牽制目的だったのか、単に外しただけなのかは分からないけど、このゴブリンパーティは結構強い方なのかもしれない。



 そして今、僕達は洞窟の入り口に立っている。

 そういえば、洞窟はモンスターの巣になっていることがあるとノラが言っていた。


 ゴブリンパーティは迷いなく洞窟に入っていくし、ここが彼らの巣なのだろう。

 早くしないと見失ってしまうし、追いかけるべきだ。


 でも、洞窟内は真っ暗で先がどうなっているのか全く分からないんだよね。

 さすがに火や光系統の魔法で照らしたらバレてしまうし、他にいい方法はあったかな……。



「えーと、暗闇対策には……これかな?」



 <暗視>。スキルを使うと洞窟の中がはっきりと見えるようになった。

 とはいえ肉眼で見える距離なんて高が知れている。

 慎重を期すなら、一緒にこれも使っておこう。<マッピング>……っ!?


 思った通り洞窟の構造が隅々まで頭に入って来る。

 ただマッピングの有効範囲は想定以上だったみたいだ。

 ブルクハルトを含めた近隣一帯の地形情報が読み取れた。

 ……より広い範囲の情報が得られるのはいいけど、次からは範囲指定も考えないと。



「あとこれは……"マップウィンドウ"ね。また新しいウィンドウか。

 頭の中に入ってきたのと同じ地形情報が表示されてる」



 同じ情報とはいえ、このマップウィンドウを見れば過去に調べた分も確認できそうだ。

 それに、これ。自由にピンのようなものを指して、一言メモみたいなものを付ける機能がある。

 ここが何の場所だったかなんてすぐに忘れてしまうだろうし、"ゴブリンの巣"とメモを残しておこう。


 そして、地形情報にライフディテクトの反応も併せると、この洞窟内には4、500匹の生き物が住んでいるようだ。

 これ全部がゴブリンなのかは分からないけど、もしそうなら数百のゴブリンは相当な数じゃないかな。



 さて、洞窟のことはある程度分かったけど、これは進んでもいいのかな?

 ……どう考えても中で見つかったら無事に帰ることは出来ないよね。


 今回の依頼はゴブリンの掃討ではないし、薬草だって見つける方法は他にもあるはずだ。

 でも、ここまで来ると洞窟の中がどうなっているのか、実際に見て確かめたいという欲求が湧いてくる。


 魔法やスキルで断片的に情報を得たからか、(かえ)ってその思いは強くなった。



「もし見つかったら……まあその時は諦めよう。人間諦めが肝心だよね」



 さあ、初めての洞窟探検だ。

 ゴブリンパーティを見失わないよう小走りで洞窟に入った。




 ***




 洞窟内は思ったよりも広く人間が問題なく通れる。

 目の前を歩くゴブリン達は2列で歩いているが、それでもまだ余裕がある程だ。

 現世の僕が小柄とはいえ、当然ゴブリンよりは大きいし、洞窟内が広くて助かった。


 ここには相当な数のゴブリンが住んでいるようだから、これが相応の広さってことなのかな?



 当然だけど、どこを見てもゴブリンばかりだ。

 他にここにいるのは、食料となっている獣や人のパーツくらいだろうか。

 ……人間の腕を生で食べるのを見たときは、彼らが人を喰らう存在なのだと再認識した。


 ところで、ここまでにゴブリンとは何匹もすれ違ったけど、みんな同じ姿にしか見えなかった。

 彼らはお互いに個体識別が出来ているのだろうか? 僕には絶対見分けられないな……。



「エモノ、カッタ」


「ヨクヤッタ! アッチ、アイテル、イレロ!」


「ワカッタ」



 洞窟のかなり深いところまでやって来た。彼らが仕留めた狼はここに保管するみたいだ。

 指示された部屋以外にも複数の部屋があるから、ここは倉庫エリアなのだろう。



「中はどうな感じかな? ……あぅっ」



 倉庫にはかなり雑多にものが保管されているようだ。

 獣と一緒に人間や獣人らしき死体も置かれている。いや、彼らにとっては同じ"食料"という分類なのかな。

 ……おそらくここの臭いは酷いだろうから、魔法で分からないようにしておいて良かったよ。



「……うん? あっちの部屋は騒がしいな。何が入っているんだろう?」



 いくつか先の部屋からゴブリン達の声が聞こえる。何か面白いものでもあるのかな?

 せっかくここまで来たんだし、手頃なものがあればいただいて行くのもいいかもしれない。



「これ、は……っ!?」



 ある意味で最も衝撃的な光景が広がっていた。


 そこいたのは、人間もしくは獣っぽい女とゴブリン達だ。

 ただし、彼女達は皆全裸に剥かれており、ゴブリン達に犯されていた。

 虚ろな目をした女に複数のゴブリンが群がっている様は、まさに凌辱という言葉が相応しい場面だろう。



「そういえば、さっきの倉庫にあった死体はほとんど男だったような。

 ……ゴブリンは孕ませるために女を捕らえる。ノラがそんなことを言ってたっけ?」



 再度、彼女達を観察すると何人かはお腹が膨らんでいる。ボテ腹というやつだ。

 ……本当に人間からゴブリンが生まれるのだろうか? それは少し見てみたい気もする。



「森で捕まっていたら、ボクもこうなってたんだよね……」



 ノラ達に助けられたのは本当に幸運だったようだ。

 今なら魔法で抵抗できるけど、あの時はそんなこと考えもしなかった。


 ゴブリンに犯されたり、孕まされたりは出来れば遠慮したいかな。やっぱり死ぬ時は一瞬で苦しまないのがいいよね。



「オイ、ナニヲシテルッ!!」



 ゴブリン達の様子を眺めていたら、大声が響いた。……まさかインビジブルがバレた?


 部屋の入り口を見ると、一際大きなゴブリンが立っていた。身長は今の僕よりも大きい。

 おそらく成人男性くらいだろうか。また、他のゴブリンと違って青い肌をしており、話し方も比較的流暢だ。

 たぶんホブゴブリンというやつだろう。



「ソノオンナハ、オレニトッテオケトイッタダロ!!」


「チガウ!チガウ!」「アイツ!サキ、ヤッタ!」「オマエ、ダロ!!」「シラナイ!」



 どうやら僕に対して言ったわけじゃないようで安心した。

 あのホブゴブリンは何だか偉そうだけど、ゴブリン社会にも序列のようなものがあるのかな。

 何だか揉めているみたいだし、そろそろ次の部屋に行こうっと。



「ゴチャゴチャトウルサイ、ソコヲドケッ!!」


「ギャァ!?」



 ホブゴブリンは、目の前のゴブリンに持っていた手斧を振り下ろした。やられた側は片耳を失って床をのたうち回っている。

 ふむ、躊躇もなしか。ゴブリンの仲間意識はそんなに強くないのかもね。



「ツギハ、オレヲタノシマセテモラオウカ?」


「……っ、 ……ぁっ!?」



 ホブゴブリンは、凶悪な顔をさらに歪めて彼女達に近付いた。

 さっきまでほとんど声を出さなかった彼女達も驚いている。仲間であるはずのゴブリンへの蛮行で、目の前の相手が危険だと認識したのかな。



「レンラク! レンラク!」



 僕が入り口に着いたタイミングで、またゴブリンがやってきた。次はなんだろう?



「ナンダ、イマハトリコミチュウダゾ? アトニシロ」


「キング! ヨンデル! スグ、ギョクザ!」


「ッ! ……ソウカ、スグニムカウ」



 ホブゴブリンは話が終わると、そそくさと斧を仕舞い部屋を出て行ってしまった。

 キングって何だろうか? そんな気になることを言われたら、ついて行くしかないじゃないか。

 というわけで、僕はホブゴブリンの後をつけることにした。

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