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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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宝探し 1

 毛玉改めツルツル羊を見送り、さらに歩くこと数十分。

 山道から森――木々の密度はそこまで濃くないので、どちらかといえば林かも――を抜けた先が目的地だったようだ。



「なにもないよ? ニコちゃん、ここであってるの?」



 不安そうに呟かれた言葉が表すように、金になりそうなものなんて見当たらない。

 見えるものといえば今通って来た林か、壁のように垂直な露出した山肌。


 そして、そこに空いた数人くらいが並んで通れそうな穴くらいのもので――。



「んん? 何となく見覚えがあるような……あ、そっか。ここってハーピーと戦ったところだ」


「いや、今さらかよ。まったく気づいてなかったことに驚きだわ」



 ニコラには呆れられてしまったわけだが、ここはハーピーに追いかけられて辿り着いた場所だったと思い出した。

 たしか、あの時に一度逃げ込もうとしたよね。でも、その前に魔法で倒しちゃったから、中には入らなかったんだっけ?


 うーんまあ、どちらにしても大金が稼げる場所とは思えないね。



「むぅー。ふたりだけの思い出話は、ほかでやってほしいんだけどぉ?」


「い、いちいち拗ねるなっての。

 もちろんそんな話がしたかったわけじゃなくてだな、本命はそっちの洞窟(どうくつ)だよ」



 といって彼女が指差すのは、(くだん)のぽっかりと空いた穴だ。

 洞窟ねぇ……。何かジメジメしてそうで、あんまり入りたいと思う場所じゃないよね。



「この奥に何かがあるってこと? ――あっ。まさかこれってダンジョンとか!?

 誰が置いたのかさっぱり分からない宝箱とかを探して荒稼ぎしようってことだねっ?」


「はぁ? だんじょん……? その、だんじょんってのはなんなんだ?」


「わたしもわたしも~! わたしも聞いたことな~い」



 RPG定番のファンタジーな要素に遭遇できたのかと思って、テンション上げたらコレだよ。

 ファンタジー世界の住人に素で聞き返されるとか、精神に大ダメージなんですけど。



「……いや、あの…………気にしないで。

 ただの妄言(もうげん)、相手にするだけ無駄だから」


「あ、あぁ。そう……なのか? ま、宝箱はないと思うが、高価な鉱物なら眠ってるはずだ」


「ニコちゃんすごーいっ、そんなことがわかるんだ!」


「これくらい当然っつーか? "ドワーフの(カン)"ってヤツがささやくんだわ」



「ドワーフって便利な能力があるんだなぁ」と、失言を引きずったままの頭は納得しかけたが、どうしてかカルラの姿が重なって見えた気がした。

 んーと、やっぱり話半分に聞いておこうかな。調子に乗ってる時の彼女と似たものを感じるし。



「へぇー、ドワーフさんにそんな能力ちからがあるなんて知らなかった……えっ。

 ね、ねぇ? ホントにこの先なの? ……あのね、奥まっくらみたい。わたし、こんなところ進めないよ……?」



 もっと褒めて欲しそうなニコラよりも、奥がどうなっているのかに興味が移っているフローラ。


 ただ、そうなってしまうのも当然といえば当然で、陽の光が届くのはせいぜい入口から十数メートルほど。

 その先は全く見通せないのだから、ここを進むだなんて相当な勇気が必要だろう。



 さて、ニコラはどうするのかな?

 このままだと彼女一人で探索することになっちゃうよ。


 あ、もちろん僕も待機だよ? 洞窟探索なんてメンド……じゃなくて、真っ暗闇の中じゃあ僕も動けないからさ。

 美少女と二人きりで待つことになるのかな~。いや~、仕方ないなぁ、仕方ないよねぇ~?



「それなら。ほら、こいつを持ってきてるから問題ないだろ」



 そう言って取り出したのは、小さなカンテラだった。

 火を灯すと淡い光が広がって、洞窟に滞留(たいりゅう)する闇が追い出されていくようだ――っていうのは、だいぶ大げさだったかな。


 何て言えばいいのか……その、小さな灯火一つで明るく出来る範囲なんて限られるよね?



「この弱々しい光しかないの……? むりむりむりーっ!? こんなのでいけるわけないよーー!」


「そ、そうなのか? 人間の感覚は難しいな……」



 そういえば、ドワーフは夜目(よめ)()くんだったね。

 彼女が暗闇でも問題なく行動出来ることは前に見てるから、こっちの能力は本物か。


 けど、そのせいで見えない人の感覚が理解しにいっぽいね。

 本気で困ってる姿はかわいい――――は、間違えで。えーと、か、可哀そうだなぁ。



「まあ、足下くらいなら見えるし。進めないことはないの、かも?」


「ア、アーちゃん? ホント?? ホントーーにっ、この小さい灯りで奥に進む気なのっ?!?」


「ひぅっ!?」



 な、何だか今までで一番の必死さをフローラから感じるよ。

 不用意な事は言うべきじゃないね。そろそろ彼女達で遊ぶのは終わりにしよっと。



「……ソ、ソウダ。こういう時に使えるスキルがあるんだったよぉ。

 はい、<暗視>。ど、どうかな? これで暗闇でも関係なく見えるんじゃない?」


「っ!! うんっ、明るい! お日様が出てるみたい! すごいすごーいっ!!」



 スキルを使うと、まるで昼間のように一帯が照らし出された。

 といっても、本当に明るくなったわけじゃなくて、僕達にはそう見えてるってだけなんだけどさ。



「なんだよ、そんな便利なものがあるなら早く使えよな……ん? ってことは、だ。

 セイメイカ探しの時に『暗くて何も見えない』だの、『一人じゃ歩けない』だのいってたのは、嘘ってことか? なぁ、アイリス?」


「えっ……。あのその、えぇと…………」



 あーあ、バレちゃったよ。やっぱり、テキトーな事を言ってるとボロが出ちゃうよね。

 ここで下手な嘘を重ねたら、それこそご機嫌ナナメっちゃうかな? よし、勢いで押し切ろう。



「ほらほらっ、早く進もうよ! ここにいたって、何も良い事はないからねっ」


「あ、おいっ、逃げるな! あの時は不安だからあたしのことばかり見てるのかと思ってたが――あたしの反応を楽しんでただろ、おまえーっ!!」



 洞窟探索に意識を向けさせて誤魔化そうとしたが、もちろんそんな浅知恵では誤魔化せなかった。

 けれど、フローラが「むぅぅっ、また二人にしかわからない話するっ~!」と拗ね始めたので、とりあえず今だけは有耶無耶(うやむや)にすることが出来たのだった。

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