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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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酒場の看板娘達 8

「ご注文の品は以上になります。ごゆっくりしていってくださいね」



 ウェイトレス姿で料理を運んできてくれたアンジェは、そんなお決まりの定型文を言うと次の仕事に戻って行く。

 あぁ、あの春の麗らかかな日差しを受けてやんわりと蕾を開いた花のような笑顔……営業スマイルと分かっていても、毎日通ってるかいがあるなぁ……。


 …………あ。

 えっと、今なにしてるのかっていうと、二コラといつもの居酒屋でご飯を食べることにしたんだよ。

 フローラがいないのは、あの後別れたというか、あの父親と一緒に帰っちゃったんだよねぇ。


 ま、というわけで、さっきは場の流れ? 空気? 的に聞けなかったことがあるし、まずはそれを聞いておこうかな。



「料理も揃ったことだし……さっき言ってた大金を手に入れる方法ってなんなの?

 明日になれば教えてくれるんだろうけど、気になるから先に教えてくれないかなぁ、いいでしょ~?」


「あー、アレなぁ…………マジ、どうすっかなあぁぁぁぁ」



 やってしまったとばかりに頭を抱え込んでるよ。

 え、何? あんなに自信満々だったのに、テキトー言ってただけなの?



「……何か当てがあるわけじゃないの?」


「いやだってさぁ? あそこはああでもいっとかないと、フローラもホラーツも安心できないっしょ?

 だからまあ……実はなんも考えてないんだわー。あぁぁぁ、大金ってなんだよぉ。

 そんな方法があるなら、とっくにやってるっての……」



 おぅ、それは本当にやってるね……。

 たぶんフローラ本気にしてたよ? 「つい嘘ついちゃいました~☆」なんて言ったら、絶対許されないよ……。



「なに? 考えなしに調子のいいこといっちゃったの?

 ダメじゃない、そういうのは後になって自分が困るのよ」



 いつものように厨房から出てきてくれたカルラが、しれっと会話に参加している。


 言ってることは間違ってないと思うけど、自分の行動も振り返った方がいいと思うなぁ。

 後ろにいるアンジェが、「えっ、カルラちゃんがそれいうの?」って感じで、呆れた視線送って来てるから。



「……うるさいぞー、料理係エルフ。おしゃべりしないで調理だけしてろー。ぐび、ぐび」


「な、なによっ!? ……あなたはお酒控えた方がいいんじゃないの?

 また酔い潰れたら介抱しなくちゃいけないんだから、いい迷惑よ」



 とかなんとかやってたら、いつの間にか喧嘩が始まりそうだし。

 そういえば、二コラはこの前もエルフに不満がある感じだったし、カルラはやけに飲み比べに乗り気だったよね。


 やっぱり、ドワーフVSエルフな異世界の対立事情があるのかも?

 ――ということで、早速分かりそうな人に聞いてみよう。



「どうなのかな、アンジェ? こういうこと疎いボクにも分かるように教えてよ~」


「はへっ? な、なんですかアイリスさん? 追加の注文ですか……? すみません、もう一度お願いします……」



 二人の可愛いらしい喧嘩が勃発しそうなせいで、はわわってるアンジェに質問してみた。


 おっといけない。つい頭の中で考えていたことに続けて聞いてしまった。

 可哀そうに、僕の言葉を聞き逃したんじゃないかと心配してるね。



「んーと。エルフとドワーフって、種族的に対立してたりするのかなー、って」


「い、いえ、そんなことはないですよ?

 ……昔は戦争があったりもしたみたいなので、上の世代の人たちのことはわかりませんが……」



 はい、僕のテキトー仮説はきっぱり否定されましたと。

 ……横目で二人を見てるせいか、歯切れが悪いけど。


 それにしても。へー、今はともかく昔は色々あったらしいね。

 まあ、昔の事なんてどうでもいいか。重要なのは現在(いま)だよ、現在(いま)



「そっか。じゃあ、大した理由なんてなく、単に二人の相性問題なんだね~」


「ぅぅ。はぃ、簡潔にいってしまうとそうなります……。

 カルラちゃんもうやめてよぉ、見てるわたしがはずかしいよぉ」


「わー、ドワーフのお友達ができたんだー。カルラちゃん、いいな~」



 真赤になったアンジェの隣では、ラドミラが嬉しそうにしていた。

 ふむ、こういうのは捉え方次第かもね。



「だいたい、飲み比べで負けたんだから、あたしのいうこと聞きなさいよねっ!」


「勝ったのはお前じゃなくてアイリスだろうがっ!? それに、あれはこいつがおかしいんだよ!!」


「なんですって!? アイリスが少し変なのは認めるけど、おかしいは言い過ぎよ!!」



 ん? 何故か僕が二人から(けな)されてない?

「ボクのために争わないで!」って仲裁してくれてってことなのかな?



「……ラドミラちゃん、厨房にカルラちゃんを連行して」


「うーん? うん、わかった~」


「な、なによラドミラ? えっ、連行? いやよ、まだそこのドワーフとは決着がついて――もがもがっ!」



 カルラが退場させられたので喧嘩は強制終了だ。

 意外とラドミラって力持ちなんだよね。……身長が大きいからなのか、それとも胸が大きいからなのか……判断に悩むよ。



「まったく。なんなんだよ、あのエルフは? ……ぐびぐび」


「んー、どっちが悪かったのかは難しいところかなー?

 いやでも、どっちも可愛かったし、どっちも悪くないってことにしよ~」


「お前はなんというか……幸せなやつだよなー」



 え、僕が幸せ? ……いや、幸せか。うん、幸せだね。

 こんな、何も考えずにしゃべった事でもちゃんと聞いてくれる相手がいるなんて、十分過ぎるくらいに幸せだ。


 ――なのに、どうしてだろう?

 物足りないと感じてしまうんだよね……何が足りてないのかも分からないのに。



「はぁ、なんだかなぁ。ん? もう(から)か……明日どうするかは、考えないとだよな。

 よし、次の店いくかー」


「え……? あ、明日もあるんだから解散するとか。そうじゃなくても、ここで考えればよくないかな?」


「ここはうるさいのがいるし、頭を働かせるには酒がいる――ってわけで、次いくぞ~っ!」



 何故か上機嫌っぽい二コラに連れられて、二軒目にはしごする流れになった。


 元気だなあ、二コラは。ま、別にいいんだけどね。

 また酔い潰れたらお持ち帰りできるわけだし。


 でも、そろそろ抱き枕にするだけじゃあ満足出来なくなっちゃうかもよ?

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