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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
1章 終わりと始まり
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初めての冒険 1

 冒険者ギルドで依頼を受けたのはいいけど、武器なんて一切持っていない。

 いくらなんでもこんな状態でモンスターがうろつく森に入るのは不安でしかない。

 ということで、まずは武器屋で装備を整えることにした。



「昨日の嬢ちゃんじゃねえか。ダガー買う気になったのか?」


「はい、やっぱり必要になりました。銀貨20枚でしたよね?」


「ああ、そうだが……。護身用に持つのはいいけどよ。

 そんなもん振り回したところで、自分が怪我するだけだと思うぜ?」



 言いたいことは分かる。

 自分がこんなものを持って戦うところなんて想像できない。


 仮に戦闘になったとしても、戦うよりは逃げることをオススメしたいよね。



「そう……かもしれませんね。ただ、武器も持たずに森へ入るのも不安でして……」


「森に行くのか? おいおい、嬢ちゃんみたいなのが一人で行くのかよ?」


「はい、薬草採集の依頼を受けまして、南の森に行くところ何ですよ」


「あぁ、嬢ちゃん冒険者だったのか?

 いや、冒険者で何の装備もしてないってのは、いくらなんでもおかしいか……」


「つい先程、冒険者になったばかりで、それで今、武器を揃えているんですよ」


「なるほどな。てぇことは嬢ちゃん、『黄金の盾』に憧れてってところだろ?」


「彼女たちを知ってるんですか?」


「有名だからな。女だけの冒険者チームで、かなりの有望株って話だろ?

 最近多いんだよ。嬢ちゃんみたいな年頃の女が冒険者になるのがよ」



 ノラたちは有名人だったらしい。

 確かに、戦闘のことなんてさっぱりな僕だけど、それでも森での戦いは手慣れたものに見えた。


 でも、少し安心した。

 彼女達レベルが冒険者の平均ではないなら、僕も初心者冒険者としてやっていけるかもしれない。



「そうなんですね。彼女たちはかっこいいですから、憧れる人も多いですよね」


「……まぁ何になろうが自由だがな。防具か、盾くらい用意したらどうだ?

 いくら何でもその恰好じゃ不用心過ぎるだろ」



 僕もノラが着ていたような鎧に、興味がないわけではない。

 だけどそれにはどうしようもない問題があるんだよね……。



「お金が心許ないんですよ。ダガーだけでも結構一杯一杯で……」


「そうか……、そいつはしょうがねぇな。なら、そっちのバックラーはどうだ?

 そいつだったら銀貨5枚にしといてやるよ」



 彼が指差したのは、半球状に膨らんだ小さな盾だ。

 銀貨5枚……それなら買えないこともない。確かに盾があった方が安心だよね。


 もしかしたら、ここまで一連の商売文句なのかもしれないけど、ここは買っておこうかな。



「そう、ですね。では、ダガーとバックラーの2つをください」


「おう、毎度あり。……そいつらを持ったのはいいが、戦闘は避けて逃げた方が身のためだぜ?

 命は大事にしろよ」



 最後に、店主のぶっきら棒ながらも優しい言葉を聞いて武器屋を出た。


 まずはダガーとバックラーを装備だ。これで少しは冒険者っぽくなったかな?




 ***




 武器屋の次は、森での探索に必要そうなものを近くの雑貨店や露店などで購入した。


 その際は、スキルの<インベントリ>が役に立った。

 色々なものをほぼ無限にといって良いほど収納できるようで、これからも重宝しそうだ。

 食べ物なんかも詰め込んだけど、収納時と変わらない状態で保存できるみたいだ。


 やはりスキルも意識を向ければ、その効果が理解できる。


 それに、スキルは魔法と違って魔法陣みたいなエフェクトが出ないのも長所だ。

 急に魔法陣が現れると注目を集める気がするんだよね。

 まあ、魔法が普通に使える世界なんだから、何も問題ないのかもしれないけどさ。



 いよいよ冒険に必要なものが集まる頃には、所持金が残り僅かとなっていた。

 もう後戻りできない感じだね。



「南門だ。一日しか経ってないのに、もう戻って来ちゃったのか」



 あの時は職探しをしようとか、もっと堅実なことを考えていた気がする。

 それが、どうしてこうなったんだっけ? うーん。いいか、そんなことどうでも。



 門番は入って来た時とは別の人のようだ。

 入るときは一悶着あったけど、出るときは簡単に通れた。

 荷馬車ならともなく、手荷物程度ならば特に検査もしないらしい。


 冒険者ギルドでもらった木の板……冒険者プレートも、ちゃんと身分証として機能するらしく、戻ってきた時に見せれば通行税と身体検査が免除されるそうだ。

 冒険者って意外と街からも認められる存在なのかもね。



 街を出れば森までは平原を一直線だ。迷うようなこともなく森の手前に着いた。

 さて、どうしよう。まずは魔法の試し打ちでもしようかな。



「それなら的が必要だよね。

 モンスター探しに使えそうな魔法は……これなんていいかも。<ライフディテクト>」



 魔法を使うと周辺一帯にいる生物の位置が手に取るように分かった。

 都合が良いことに割と近くにもいるみたいだし、簡単に見つけられそうだ。



「少し数が多いかな? まあ、何とかなるよね」



 森の中は木々が生い茂っていて、人間が通るようには整備されていない。


 こんな慣れていない場所を進むのには、もっと苦労するものかと思ったが、大して苦でもないようだ。

 そういえば、初めてこの森を出た時はほとんど無意識に歩いていたし、思った以上にこの体は体力があるみたいだ。

 ……こんな少女まで体力が必要なんて、ファンタジー世界も色々大変なんだね。



「ニンゲン!」「オンナ! オンナ!」「イケドリダッ!」



 そんなことを考えながら進んでいると、目当てのゴブリン達とエンカウントした。

 今度は6匹もいる。接近戦になるのは嫌だから、先制攻撃といこうか。



「<ストーンショット>っ!」



 魔法を唱えると、小さな石ころが発射された。

 結構スピードが出ているなあ。まるで弾丸みたいだ。


 って、目視できる時点で弾丸よりは遅いか。



「ギャッ」「ガッ!?」「ゴフッ!」



 ゴブリン達は、石ころに反応できず全弾命中した。

 照準も、弾数も思ったままだ。これは、なかなかに使い勝手がいいかもしれない。



「全員、死んでる……よね? …………うっ」



 ゴブリン達はピクリとも動かない。たぶん全滅だろう。


 命中した石はみんなゴブリンの体を貫通していた。

 頭部に当たったヤツなんて、破裂して脳漿やら脳髄やらを飛び散らしている。


 問題は、辺りに漂う血の濃厚な香りと、殺人ではないけどゴブリンを殺したことに対する嫌悪感……。


「確か臭いを消す魔法があったような……。<クリーンエア>。……後はこの気分の問題か」


 途端に全身を清浄な空気が包み込む。


 臭いはどうにかなったけど、中身をまき散らして死んだゴブリンという、ビジュアルの問題はどうにもならないよね。

 ……こういうのは何回か試せば慣れるのかな?



「あれ? またウィンドウが増えているような……」



 ゴブリンの死体を正視し続けることに耐えられず、視線を逸らすと見たことがないウィンドウが浮かんでいた。



 ログウィンドウ

<クリーンエア>を使用しました。



 へえー、丁寧に記録もしてくれるんだ。

 よく見たら前に使ったインベントリのスキルなんかも載っている。

 今まで気づかなかった。でも、特に気にするようなものではないかな。



 まだ、周辺にはモンスターがいるようだし、もう少し練習をしておこう。

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