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実戦試験

 模擬戦が始まってから、両者共に動きがない。

 最初に仕掛けたのはユリウスだった。


『師匠流動技・瞬天法』


 ユリウスの足場の砂が舞い上がり、目で捉えきれない速度で向かっていく。

 闘技場にいた全員が気付いたときには既に、試験官の背後を取っていた。


『師匠流攻技・踵落とし』


 空中で回転し、威力を最大限に高めた踵落としを槍で守るものの槍をへし折った。


 試験官は慌てて間合いを取る為、壁まで走る。腰の予備の剣を持ち、ルシウスを煽る。


「この私が背後を取られるとはな! だが、背後が壁ならどうする?」


 踵落としを繰り出した脚で地面に着地し、勢いよく地面を蹴って試験官に向かう。


「どうするも何も……そのまんま蹴り飛ばすだけさ!」


『師匠流攻技・飛び膝蹴り』


 技名通り、至って普通の跳び膝蹴りを剣で防ぐが剣を粉々に折り、飛び膝蹴りか試験官の頭上を通り越える。

 硬く頑丈にできている壁を貫き、観客席まで粉々になった。


「ギリギリ避けられたか! まだまだ全力で行きます!」

「ま……待て! 終わりだ、お前は合格だからもう辞めてくれ!」


 ユリウスは唖然とした表情で僕の方を見て呟いた。


「え……? これだけで合格なのかい?」

「そ、そうみたいだね……合格だってさ」


 試験官は泣きそうな目で、僕を見て何度も頷いている。

 首を傾げる僕に試験官は全速力で走り、耳元で震えながら囁いた。


「終わりだと言ってくれ! 私なんかではあいつの相手なんて務まるわけがない!」


 その後もひたすら、模擬戦を終了する為に耳元で囁き続けて、試験官は急いで闘技場を後にした。

 試験官が逃げたのを見て、ユリウスをこちらに呼び、合否を伝える。


「ユリウス、合格らしい。『君は冒険者の最高峰を目指すべきだ』と言っていたよ…….」

「本当かい? やったよ! 合格だ!」


 ユリウスは両手を上に突き上げて喜んだ。

 僕が試験官なら最初の踵落としを見た瞬間に降参していただろう。


 終わった今だから言えるが、ユリウスの強さは恐らく、冒険者の最高ランクに匹敵すると思う。まだ、全力じゃなかっただろうしもしかしたら最高ランク以上かもしれない。


 観客席からセリスが降りてきて、喜ぶユリウスに抱きつく。


「ユリウス、おめでとう! ようやく、冒険者になれたね!」

「次はセリスの番さ! 二人揃って冒険者にならないと意味がない!」


「そうだよ! ユリウスは合格したけどセリスはまだなんだ、セリスも頑張ってね!」


 二人の邪魔をしないように遠くから声をかけた。カップルが抱きついているときは邪魔をするなと父親に言われている。


 ユリウスにやられた試験官が新しい槍と剣を持って闘技場に戻ってきた。


「一人目は合格だが、もう一人はまだ合格ではないぞ! 一戦目は完全に油断したがもうチャンスはない!」


 一生懸命に言い訳をするが、間違いなく試験官は全力だっただろう。


「言ってくれるじゃない……私はユリウスとは違って手加減なんてしないんだから」

「はっ……ハッタリだ! 女のお前が本気になった私に勝てるとでも思っているのか?」


 ユリウスが僕の腕を引っ張り、慌てて観客席まで飛び込む。


「ユリウス、そんなに慌てなくても……」

「駄目だ! 本気になったセリスはもう、誰にも止められないんだ」


 僕はユリウスの言葉に疑ったが、模擬戦の決着は一瞬でつくのだった。


 セリスの装備は細く、通常の剣よりもほんの少し長いレイピア。防具等は一切無く、身軽で動きやすい格好で攻撃を受けるつもりはないみたいだ。


 試験官は冒険者新人のユリウスに負けてからというもの、落ち着きがなく奇声をあげてセリスに襲いかかる。


「この私がぁ……二度も新人に負けてたまるか!」


 セリスは膝を軽く曲げて、レイピアの剣先を相手に向けて構える。

 レイピアについては詳しくないが、構え自体に隙が無い。


「遅すぎる……これじゃあ、勝負にならないしゃないか」


 セリスの口から聞こえにくかったが、薄らと聞こえた。




 試験官が繰り出す渾身の突きを軽々と躱した隙に、本物の突きはこれだと言わんばかりの強烈な突きがヘルムを直撃した。


 試験官のヘルムが綺麗に半分に割れ、手に持つ槍は地面に落ちる。


「ありえない! レイピアのたかが一撃でヘルムを真っ二つに割るなんて……」

「一撃なんかじゃないよ……もしも傷ができてたらごめんね」


 セリスが誤った瞬間、試験官の防具が次々に崩れ落ちていく。

 残ったのは中に着ていた服とズボンのみで、素肌には傷一つなかった。


 試験官は戦意を消失し膝から崩れ落ち、合否を伝えた。


「合格だ……君達、二人は必ず偉大な冒険者になるだろう」


 ユリウス同様に圧倒的な勝利を収め、二人揃って合格となった。


「二人とも、おめでとう! 凄い模擬戦を見せてもらったよ」


 ユリウスとセリスは満面の笑みを浮かべて手を合わせていた。

 三年前の僕とウルカに似ていて、複雑な気持ちになる。


「それじゃあ、僕は帰るよ。今日は疲れただろうから依頼は明日からにしよう」


 二人が喜ぶのを邪魔はできない。それに、これ以上ユリウスとセリスが喜ぶ姿を見ていると心が痛くなる。

 もう一度、冒険者としてやり直したいと思ってしまう。

 

「ソウマ、勝手に帰らないでよ! 今から三人で食事しようよ」

「昨日、約束したではないか! ソウマと私達はもう友達じゃないのか?」


 ユリウスとセリスが逃げるように帰ろうとする、僕の後ろを追いかけてきた。


「二人の合格した後の喜んでいる姿を見ていると、冒険者だった頃の自分を思い出す。」

「もう一度、冒険者としてやり直すことってできるのかな?」


 僕の事情なんて二人からすれば、関係のないことなのに、本音を言ってしまうのは何故なんだ。


「やり直したっていいじゃない! 私とユリウスの三人でパーティを組んで、冒険者の最高峰を目指そうよ!」

「そうさ! ソウマは自分を卑下し過ぎているんだよ……過去はどうあれ、自分がしたいことをするのが一番さ!」


(僕だって、ウルカ達のパーティみたいに最高峰を目指したいさ!)


「ありがとう……僕、もう一度やり直すよ! 前のパーティよりも高みを目指すさ」


 ユリウスとセリスの表情が笑顔になった。


「ソウマと会ってから二日目だけど、ソウマの高みを目指す顔の方が好きだ……」

「ユリウス! それって告白なの?」


 ユリウスは慌てて言葉の意味を訂正しようとする。


「今の好きは異性に対するものじゃなくて人としてさ! 勘違いをしないでくれ!」

「あはは! ユリウスってばツンデレってやつかなぁ?」


 煽ってすぐに逃げていくセリス。

 追いかけるユリウスの二人を見て、少し元気になった。


 空を見上げると、夕暮れの赤い空の下、二人の後を追いかけた。

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