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最弱騎士ソウマ

「唐突で悪いのだけど、私達のパーティにソウマは必要ないわ」


 クエストの依頼を達成し、パーティメンバー達と食事をしている時だった。


「どうして? 僕は皆んなの為に精一杯、頑張ったよ」

「そうよね……でも、冒険者は結果がすべてなの」


 パーティのリーダーで、幼馴染のウルカが言っている事は間違っていない。

 職業が騎士である僕は、モンスターの意識を自分に向けさせるのが仕事だ。

 元々気弱で震える僕は、モンスターにとって脅威ではなく、騎士としての仕事を全う出来ていなかった。


「これからは、大型のモンスターとも戦うことになるわ。小型モンスターとは訳が違うわ」

「元々、ソウマに冒険者は向いてなかったのよ。ソウマは私の大事な幼馴染よ……お願いだから、パーティを抜けて平和に暮らして!」


 男の僕が女の子に、こんなにも心配されていたと思うと、残りたいだなんて言えなかった。


「わかった……パーティを抜けるよ。ウルカ達はこれからも頑張ってね。僕は皆んなが活躍するのを陰ながら応援しているよ」


 そう言い残し、流れる涙を必死に隠し酒場から飛び出した。後ろを振り返らず、がむしゃらに宿に向かって走る。

 酒場から宿までの道を街で歩く人達を追い抜き、涙を見せないように宿まで帰った。

 何度、拭っても流れる涙は夜中まで流れていた。剣をテーブルに置き、鎧を装備した状態でベッドを背に向けて倒れ込む。流し尽くした後、ようやく眠りについた。




 パーティを抜けてから、次の日の朝。

 目を覚ますと体全身が悲鳴を上げる。鎧を装備した状態で眠ったせいだ。

 悲鳴を上げる体を起こし、洗面所で顔を顔を洗う。

 昨日は夜中まで泣いた影響か、目が真っ赤に腫れている。


 テーブルに置いた剣を背負い、部屋に置いてある私物をまとめて一階へ降りる。

 宿で朝食を済ませて、冒険者を始めてからの三年間お世話になった宿を渋々出る。宿の前で、頭を深く下げて御礼を済ませる。


 宿を出る理由は至って簡単。

 ウルカ達にとって、今いる街エリックは、拠点だ。

 街で偶然、遭遇するのはどうしても気不味い。


「これから僕は一体、どこの街へ行こうか……」


 お金は多少、残っている。

 永遠に尽きない訳でもないし、どこかの街で仕事を探すことにした。

 モンスターが出てこない安全なルートで、尚且つ仕事を探すなら、南西方向に位置する【マルテリア】という街はどうだろうか。

 

 マルテリアに冒険者組合は存在するけど、ウルカ達のパーティが訪れることはない。

 ウルカ達のパーティは三年間で、GランクからBランクまで昇格をした。エリックの街で、一番期待のパーティだ。


 マルテリアの周辺に強いモンスターは、まず出てこない。それならば、ウルカ達と遭遇することはないだろう。


 エリックからマルテリアまでは、馬車で四日もあれば辿り着く。半分までは馬車で向かい、途中からはお金の節約の為、徒歩で向かう。


 エリックを出発する前に、食料や飲料を買い込まないといけない。ついでと言ってはいけないが、お世話になった人に街を出る事と御礼を伝える。


 


 出発の準備が完了し、距離代のお金を商人に払ってから馬車へ乗り込む。

 エリックの街の門を抜ける直前、脳裏から約三年間の思い出がよみがってくる。


 故郷に両親を残し、幼馴染のウルカと冒険者を目指してエリックにやってきた。

 最初は冒険者生活に慣れなくて、苦労を沢山したけど、なんとか乗り越えられた。

 仲間ができてパーティを結成し、いくつもの依頼を達成した。

 Bランクへ昇格した時は、大騒ぎして皆んなで酒を飲み交わした。


「(もう、戻ってくる事は無いだろうけど三年間ありがとう)」


――こうして、三年間に及ぶ冒険者生活に終わりを告げた。





 エリックの街を出て三日が経った。丁度、今日から馬車ではなく、徒歩で向かう事になる。


 現在はマルテリアの一つ手前に位置する、小さな村に立ち寄っている。

 村の中心部にある村長の家を訪ねた。今のマルテリアはどういう街なのかを、軽く教えてもらう。


 村長曰く、周辺のモンスターは減少していて、安全故に人が集まっているらしい。マルテリア以上に安全な街は滅多にない為、人が集まりやすいのだろう。


 しかし、人が集まっているって事は仕事の数も同時に減っている。仕事を探すのなら急いだ方がいいと村長に言われた。

 村長に御礼として、不足していた食料などを村で買い上げ、急いでマルテリアに向かう。


 暫く歩いていると、マルテリアの門が見えてきた。

 門の前には長蛇の列が並んでおり、すぐには入らないので、最後尾に並ぶことにした。


 街に入るには身分証を提示と銅貨三枚が必要だ。

 銅貨が十枚で銀貨一枚になり、銀貨が10枚で金貨一枚になる。


 身分証は冒険者組合登録証以外にも何種類かある。

 労働者組合登録証や商人組合証が存在する。

 大体の人は、冒険者組合登録証と労働者組合登録証のどちらかだ。


 長蛇の列はゆっくりと進んでいき、二時間ほど経過した頃に、街へと入ることができた。

 到着早々に仕事を探そうとしたが、既に夜になっていた。とりあえずは泊まる宿を探さなければ。


 街の門から、二分ほど歩いた所に良さそうな宿を見つけた。泊めてもらえるか宿主に相談すると、宿主は快く宿泊を許してくれた。

 二階へと階段を上がり、部屋まで案内された。


「ソウマさんのお部屋はこちらです! 気になる点が有れば、遠慮なく言ってください」


 案内された部屋は、隅々まで掃除されていてエリックの街にいたときの宿にどことなく似ている。


「以前に泊まっていた宿に似た部屋で安心しました」

「それはよかったです。ごゆっくりとお休みください。食事は一階にて注文できますので是非、よろしくお願いします」


 宿主が頭を下げて部屋を出て行く。宿主の雰囲気までもどことなく似ていた。


「無事に宿を見つけられてよかった。早速だけど食事でもしに行こうか」


 部屋に荷物を置き部屋を出る。扉を開けると大柄な男と衝突し、尻餅をつく。


 衝突した相手は、自分よりも随分と背が高く、同じ歳ぐらいの男性だった。

 頭部にバンダナを巻き、身軽な服装で両手には鉄のナックルを装備していた。


「扉の向こう側が見えないとはいえ、不注意だった」

「こちらこそすまない。お腹が空いていたからか、集中力が欠けていた」


 謝った直後に、男の腹から音が鳴り響く。

 男は照れて目を逸らし呟いた。


「もしよかったら一緒にどうだ? お詫びも兼ねてご馳走させてくれないか?」

「僕が不注意だったから起きた事故ですよ! ご馳走してもらう理由なんてないですよ」


 男は尻餅をつく僕の手を取り、優しい顔で頷く。


「そうか、残念だが仕方ない。だけど、一緒に食事をするのはどうだろう?」

「それならば、いいですよ! 一人旅が長かった為、話し相手が欲しかったです」


 一緒に食事をすることになり、一階に降りる。

 男は余程お腹が空いていたのか、とんでもない量を注文する。


 料理を待っている間に、軽く互いの自己紹介をすることになった。


「僕はソウマ。つい最近までは冒険者をしていたんだけど、クビになったので仕事を探しにマルテリアまで来ました!」

「私はユリ……いや、ユリウスと言う。冒険者になりにマルテリアへ来たんだ」


 ん? 今、名前言い間違えたのかな?

 ほんの一瞬だったから聞きそびれた。


 マルテリアは冒険者になるには最適の街だろう。

 周辺のモンスターは少ない為、安全に依頼を達成できる。


「そうだったのですか、既に冒険者なのかと思っていました。拳に装着しているナックルがかなり上質だったので」

「そうだろう! 私の師匠が『一人前の冒険者になれ』と譲って下さった物なんだ!」


 ユリウスは機嫌良く、笑顔で語る。余程、師匠を好いているのだろうな。

 料理が運ばれてくるまでの間、師匠の話が続いた。


 僕が注文したのはごく一般的な量だが、ユリウスの元に、次々へと大量の料理が置かれていく。


 武闘家だから沢山食べているのかな。でも、武闘家にとっての武器が体だから、この量にも納得できる。


 ゆっくり食べる僕とは逆に、ガツガツと食べていくユリウスには驚いた。

 僕が食べ終わるのと同時に、大量にあった食べ物は綺麗に無くなっていた。


 ユリウスが椅子から立ち上がり、僕を笑顔で見る。


「一緒に食事できてよかったよ、もしよければ明日も一緒にどうだい?」

「勿論です! また、ご一緒しましょう」 


 断る理由がない。仲良く出来るなら、誰とでも仲良くなるのが冒険者として最善だ。

 既に冒険者は辞めてしまったけど……。


「明日、君の部屋に迎えに行くよ。私の部屋は丁度、ソウマの横の部屋なんだ!」

「それと、敬語なんて使わなくてもいいさ! ソウマとは、そこまで歳は離れていないだろうしな」

「わかった! 明日から敬語を辞めさせてもらうよ」


 明日の食事の約束をし、解散しそれぞれの部屋に戻った。

 街へ来た初日は僕にとって充実した一日になった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


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